KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
データの力で世界の小麦を病害から守る、国際監視プロジェクト
Getty Images
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This international surveillance project aims to protect wheat from deadly diseases

データの力で世界の小麦を病害から守る、国際監視プロジェクト

深刻な小麦の病害を早期に発見・予測するプロジェクトが進んでいる。世界各地の23の組織が参加し、AIや遺伝子解析、気象予測を組み合わせ、将来起こり得るアウトブレイクを事前に政府や農家に知らせるシステムの構築を目指す。 by Shaoni Bhattacharya2024.12.30

この記事の3つのポイント
  1. 気候変動により欧州やアフリカなどでさび病の再発が懸念されている
  2. 小麦DEWASは世界の小麦病害の早期警報システムを構築するプロジェクト
  3. 遺伝子解析やAI分析を組み合わせて病害をいち早く検知、農家に警報を出す
summarized by Claude 3

2010年、エチオピアの小麦畑を歩いたデイヴ・ホドソンは、何もかもが黄色のペンキで塗られたようだと思った。さび菌の感染がエチオピアの小麦の3分の1に広がろうとしていた。風に乗ってはるか遠くまで運ばれた胞子は、進路上のすべてを覆い尽くした。「畑は一面が真っ黄色でした。通り抜けたら、服も真っ黄色になってましたよ」とホドソンは言う。

当時、ローマに本部を置く国連食糧農業機関(Global Rust Reference Center)の職員だったホドソンは、同僚とともにさび病エピデミックの調査のためエチオピアを訪れていた。だが、できることはほとんどなかった。当局はいくらか殺菌剤を備蓄していたものの、事態が明らかになる頃には手遅れだった。サハラ以南アフリカで最大の小麦生産国であるエチオピアは、この年の収穫の15〜20%を失った。「話をした農家たちは、まさにすべてを失うところでした」と、ホドソンはMITテクノロジーレビューに語った。「そのとき思ったのです。私たちは何らかの形で彼らを支援できたはずだったと」。

現在は国際非営利組織の国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)で主任科学者を務めるホドソンは、それ以来、共同研究者とともに、将来のこのような損失を阻止する計画に取り組んできた。ホドソン主任科学者はコーネル大学農学・生命科学部のマリセリス・アセベド博士とともに、小麦病害早期警報通知システム(Wheat Disease Early Warning Advisory System:小麦DEWAS)を率いている。小麦DEWASは、世界各地の23の組織の研究者が参加する国際イニシアチブだ。

同イニシアチブの目的は、小麦病害を記録し、将来起こりうるアウトブレイクを政府や農家にほぼリアルタイムで通知する、大規模なシステムを構築することだ。これにより、世界の摂取カロリーの約5分の1を占める作物を病害から守ることを目指している。

これ以上ないくらいタイムリーな取り組みだ。約8000年前に小麦が栽培作物化されて以来、収穫に大損害を与えるさび菌は常に存在した。20世紀中盤の品種改良により、さび病耐性品種が小麦の生産量を大幅に増加させ、世界の多くの地域でさび病エピデミックは沈静化した。しかし、数十年後の今、欧州でのさび病の再出現が懸念されている。原因のひとつは気候変動だ。温暖な気候は、さび菌の感染を助長する。南アジアやアフリカといった、病害リスクの高い地域も危機的状況にある。

小麦DEWASは、2023年にビル&メリンダ・ゲイツ …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【冬割】実施中! 年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
  3. The humans behind the robots 家事ロボット、実は8割は遠隔操作 あなたは受け入れられますか?
  4. Three pieces of good news on climate change in 2024 2024年の気候シーンを振り返る:見えてきた明るい兆し
▼Promotion 冬割 年間購読料20%off
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る