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家事ロボット、実は8割は遠隔操作 あなたは受け入れられますか?
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
The humans behind the robots

家事ロボット、実は8割は遠隔操作 あなたは受け入れられますか?

完全な自律型ロボットではなく、単独でできない仕事は人間が遠隔操作で実行する家庭用ロボットを開発している企業がある。低賃金国の労働者がロボットを通じて遠隔地から作業をこなせるようになると、労働市場はさらに複雑になるだろう。 by James O'Donnell2024.12.27

この記事の3つのポイント
  1. AIが単独でこなせない作業を低賃金国の労働者が遠隔操作する家事ロボット
  2. ロボットの普及により労働者と企業の対立が新たな局面を迎える可能性
  3. 遠隔操作ロボットの普及によりプライバシーに対する期待が大きく変わる恐れも
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ここで質問だ。想像してほしい。1万5000ドルで、家庭内のあらゆる雑務を手伝ってくれるロボットを購入できるとする。難点は(値段は別として)、そのような仕事の80%は、ロボットの人工知能(AI)の訓練が不十分なため、単独ではこなせないことだ。その代わりに、フィリピンで働く遠隔アシスタントの助けを借りて、あなたの家を動き回ったり、テーブルを片付けたり、食料品をしまったりする。あなたは欲しいだろうか?

これは、私が執筆した記事の中心にある疑問だ。この記事の内容は、私たちが人型ロボットを、自分たちの最もプライベートな空間に迎え入れるほど十分に信頼するようになるかどうか、ということに関するものである。特にそのようなロボットが、低賃金国の労働者たちがロボットのインターフェイスを通じて私たちの家庭で私たちのために肉体作業をするという、非対称的な労働配置の一部である場合、この問題は難しくなる。その記事で私は、プロスパー(Prosper)というロボット工学企業と、信頼できる家庭用ロボット「アルフィー(Alfie)」の設計における同社の多大な努力(元ピクサーのデザイナーやプロの執事を迎え入れた)について書いた。非常に興味深い話だ。記事はこちらで読める

しかし、この話は、1つのより大きな疑問を投げかけている。それは、今後数年のうちにロボット工学が労働力学にどれほど劇的な変化をもたらす可能性があるか、ということに関する疑問である。

何十年もの間、ロボットは組立ラインなどのある程度予測可能な環境で成功を収めてきた。その後、ここ数年は、AIのおかげでロボットのタスク学習スピードがより速くなり始めた。そして、倉庫でのピックアップ作業など、より混沌とした環境で実行するタスクへの応用が広がっている。しかし、さらに大規模な転換を推し進めようとしている、資金力のある企業の数も増えている。

プロスパーなど一部の企業は、自分だけで何でもできる完璧なロボットを作る必要はないという考えに賭けている。その代わりにそれらの企業は、かなり優秀だが、世界中のあらゆる場所にいる遠隔オペレーターの支援を受けるロボットを作ることができる。もしそれが十分うまく機能すれば、私たちのほとんどが自動化できないと思っていた仕事にも、ロボットを送り込みたいと考えているのだ。たとえば、ホテルの客室係や、病院の介護士、家事手伝いなどの仕事である。「ほぼすべての屋内肉体労働」が候補に挙がっていると、プロスパーのシャリク・ハシュメ創業者兼CEO(最高経営責任者)は話してくれた。

これまで私たちは、ほとんどの場合、自動化とアウトソーシングを、労働市場に影響を与えうる2つの別々の力として考えてきた。仕事は海外にアウトソーシングされるかもしれないし、自動化によって失われるかもしれない。だが、 どちらもできない仕事もある。ホテルの客室清掃のように、海外にアウトソーシングすることができず、まだ機械によって完全に自動化することもできない仕事は、どこにも移転されてこなかった。しかし現在、ロボット工学の進歩により、雇用主がそのような仕事を完全に自動化するテクノロジーを必要とせずに、低賃金国へアウトソーシングできる見込みが生まれている。

はっきり言っておくと、これは困難な仕事である。ロボットがこれほど進化したとはいえ、ホテルや病院のような複雑な環境を動き回ることは、たとえ支援があったとしても難しいことが判明するかもしれない。その状況を変えるには、何年もかかるだろう。しかし、ロボットはより機敏になる一方だ。ロボットを地球の裏側から操作できるようにするシステムも同様だろう。最終的には、これらの企業による賭けは報われるかもしれない。

このことは何を意味するのだろう? 1つは、労働運動とAIとの闘いである。今年の労働運動は、港湾における自動化や、アーティストの作品を盗む生成AIに意識を集中させてきたが、これからまったく新しい闘いが始まるだろう。自動化から自分たちの雇用を守るための契約を求めているのは、港湾労働者や配送ドライバー、俳優だけではなくなる。接客労働者や家事労働者、その他多くの労働者も、同じような契約を求めるようになるだろう。

2つ目として、プライバシーに対する期待が根本的に変わるだろう。そのような仮説上の家庭用ロボットを購入する人々は、会ったこともない誰かが、文字通りにも比喩的にも、自分の汚れた洗濯物を見ているという考えに慣れなければならないだろう。

こうした変化の一部は、意外に早く訪れるかもしれない。ロボットがさまざまな場所で効率的に動き回る方法を学習するためには、訓練データが必要である。そして今年すでに、ロボットの学習に役立つ新たなデータセットを収集する競争が起こっている。遠隔操作ロボットの野望を達成するために、企業は訓練データを探す範囲を、病院や職場、ホテルなどに拡大することになるだろう。


これがAIを構築するためのデータの出所だ

AIの開発者たちは、しばしば、自分たちが使用しているデータの出所について実際によく知らなかったり、あまり共有していなかったりする。学術界と産業界両方の研究者50人以上で構成される団体「データ・プロベナンス・イニシアチブ(Data Provenance Initiative)」が、この状況を解決したいと考えた。同団体は、今日の最有力AIモデルに何が入力されており、それが一般の人々にどのような影響を与えるのか理解するため、600以上の言語・67カ国・30年にわたる4000の公開データセットを徹底的に調査した。

AIはあらゆるものに組み込まれつつあり、AIモデルに入力されるものによって、出力されるものが決まる。しかし同団体の研究チームは、AIのデータ慣行が、少数の支配的なテック企業の手の中に、権力を圧倒的に集中させる危険性があることを発見した。これは、ほんの10年前にAIモデルが訓練されていた方法からの変化である。研究チームが分析したデータセットの90%以上は欧州と北米で収集されたものであり、音声と画像のデータセットの70%以上はユーチューブ(YouTube)から取得されたものだった。 この集中は、AIモデルが「人間性のニュアンスのすべてや、私たちが存在する方法のすべてを捉える」可能性が低いことを意味すると、このプロジェクトに携わった研究者のサラ・フッカーは言う。 詳しくは、本誌のメリッサ・ヘイッキラ記者の記事を読んでほしい

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ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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