元ピクサーのアニメーターと
オープンAI技術者が目指す
「信頼される」執事ロボット
人型ロボットの開発が膨大な資金を集め、バブルの様相を呈している。「人型」という見た目によって有用さを過剰に演出し、実際の能力とのギャップが懸念される中、新興企業のプロスパー・ロボティクス(Prosper Robotics)は、ロボットが家庭に受け入れられるために必要となる「信頼の獲得」に取り組んでいる。 by James O'Donnell2024.12.27
- この記事の3つのポイント
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- 人型ロボットの開発に多額の資金が集まっているが、信頼性の欠如が課題
- 新興企業のプロスパー・ロボティクスはロボット執事アルフィーを開発中
- アルフィーは人間の模倣ではなく独自のキャラクターを持つ
世界は間もなく、人型ロボット全盛期を迎えようとしているように思われるかもしれない。人工知能(AI)の新たなブレークスルーは、これまでサイエンス・フィクション(SF)でしか見られなかったような有能で汎用的なロボットの登場を約束している。自動車の組み立てや患者の世話、家の片付けなど、あらゆることを特別な指示がなくてもできるロボットである。
それは、膨大な量の注目、資金、楽観的な見方を引き付けているアイデアだ。フィギュア(Figure)は、創業から2年も経っていない2024年、人型ロボットのために6億7500万ドルを調達した。今年10月に開催されたテスラ(Tesla)のイベントでは、同社のロボット「オプティマス(Optimus)」が、ショーの主役だったはずの自動運転タクシーよりも注目された。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、それらのロボットによって何らかの形で「貧困のない未来」を築くことができると信じている。あと数年もすれば、極めて有能な人型ロボットが私たちの家庭、紛争地帯、職場、国境、学校、病院に普及し、セラピストや大工、ホームヘルパー、兵士などさまざまな役割を果たすようになると考える人もいるかもしれない。
しかし、最近の進歩は、中身よりもスタイルが重視されていると言っていいだろう。AIの進歩によってロボットの訓練は間違いなく容易になった。しかし、口コミで注目された一部の動画でほのめかされているような方法で、ロボットが周囲の状況を真に感じ取り、次に何をすべきか「考え」、その決定を実行できるようには、まだなっていない。それらのデモ(テスラのデモを含む)の多くで、ロボットが飲み物を注いだり、カウンターを拭いたりしているとき、自律的に行動しているように見えるとしても、実際にはそうではない。その代わりに、人間のオペレーターによって遠隔操作されているのだ。 ロボット工学者が「テレオペレーション(遠隔操作)」と呼ぶ手法である。そのような人型ロボットは通常、画面の顔や、鋭い目、背の高い金属的なフォルムなど、ディストピア的なハリウッドSF映画の定番表現を借用しており、その未来的な見た目が、ロボットを実際よりも有能であるかのように見せている。
「誇大宣伝のピークに達しているのではないかと心配しています」。倉庫ロボット企業ロバストAI(Robust AI)のレイラ・タカヤマ副社長は言う。タカヤマ副社長はロボット工学の専門家で、同社でロボットのデザインおよび人型ロボットの相互作用について担当している。
「すべての大手テック企業の間で、自分たちはもっとできる、もっとうまくできると誇示するための、ちょっとした軍拡競争、言ってみれば人型ロボット戦争が繰り広げられています」。その結果、人型ロボットに取り組んでいないすべてのロボット研究者は、投資家に対してその理由を答えなければならなくなっていると、タカヤマ副社長は言う。 「私たちは今、人型ロボットについて話さなければなりません。1年前はそんな必要はありませんでした」。
オープンAI(OpenAI)とスケールAI(Scale AI)での勤務経験があるシャリク・ハシュメは、2021年にロボット工学企業のプロスパー・ロボティクス(Prosper Robotics)を創業し、この軍拡競争に参入した。プロスパー・ロボティクスは、家庭や病院、ホテルで家事的な作業をするための人型ロボット「アルフィー(Alfie)」を開発している。同社はアルフィーを製造し、1台あたり1万ドルから1万5000ドルほどで販売したい考えだ。
アルフィーのデザインを思い描く中で、ハシュメは信頼性を、他のどの考慮事項よりも優先すべき要素であり、人型ロボットが社会に恩恵をもたらすために克服する必要のある最重要課題と見なした。人々にアルフィーを信頼してもらうために不可欠な戦術の1つは、基礎から詳細なキャラクターを作り上げることだと、ハシュメは考えている。それは、人間のようだが、人間に近すぎないキャラクターである。
これは、アルフィーの外見に関することだけではない。現在、ハシュメはチームメンバーと共に、ロボットが動く方法や、次にすることを知らせる方法を構想している。また、ロボットがタスクに取り組む方法を形作る欲求や欠点を想像し、所有者からの指示を受け入れるか否か規定する内部倫理規範も作成している。
いくつかの点で、アルフィーに関してそれほど大きく信頼性の原則に傾倒するのは、時期尚早に感じられる。プロスパー・ロボティクスは、テスラやフィギュアのような巨大企業と比べほんのわずかな資金しか調達しておらず、製品を出荷できるようになるまでにはまだ数カ月(あるいは数年)かかるだろう。しかしそれでも、信頼性の問題に対し早期に真正面から取り組む必要があるという事実は、人型ロボットが今、厄介な時期にあることを反映している。
これだけの投資と研究にもかかわらず、そのようなロボットが今すぐリビングルームに入ってきた場合、暖かい気持ちや心地よい気持ちになる人はほとんどいないだろう。私たちは、ロボットが自分や自分の周囲に関するどんなデータを記録していたのか疑問に思ったり、いつか自分たちの仕事を奪ってしまうかもしれないと恐れたり、その動き方にうんざりしたりするだろう。人型ロボットはしばしば、エレガントであるとか有用であるとかいうよりも、むしろ煩わしく気味の悪い存在なのだ。人型ロボットがその誇大宣伝どおりの存在になるには、信頼性の欠如を克服することがクリアすべき最初のハードルとなるだろう。
しかし、アルフィーが私たちの信頼を勝ち取るのを助ける道のりには、1つの疑問が他のどの疑問よりも大きく立ちはだかる。彼はどれくらい自分だけの力で物事をできるようになるのだろうか? どれくらいこれからも人間に頼るのだろうか?
新しいAI技術により、デモンストレーション・データを使ったロボットの訓練がより高速化された。デモンストレーション・データは通常、人間が動きを検知するセンサーを装着して食器洗いなどの作業をすることで作成される、画像、動画、その他のデータの組み合わせである。このデータは、大量のテキストが大規模言語モデルの文章作成に役立つのとまったく同じように、ロボットに作業のこなし方を指導するのに役立つ。しかし、この方法は大量のデータを必要とし、多くの人間が介入してエラーを修正しなければならない。
ハシュメの話によれば、最初にリリースされるアルフィーが自分の力だけで処理するタスクは、全体の20%程度になる見込みだという。残りのタスクは、プロスパー・ロボティクスの「遠隔アシスタント」チームが支援する。フィリピンに拠点を置くこのチームの少なくとも一部は、アルフィーの動きを遠隔操作できることになる。さまざまな懸念がある中で、私が特に、ロボット工学ビジネスにとってそれほど多くのタスクを人間の手作業に頼ることが可能なのかどうか疑問視したところ、ハシュメはスケールAIの成功を指摘した。
AIアプリケーション用の訓練データを加工するスケールAIは、フィリピンに多くの従業員を抱え、その労働慣行がしばしば批判されている。ハシュメは、プロスパー・ロボティクスを創業する前の約1年間、それらの従業員を管理するスタッフの1人だった。ハシュメがスケールAIを去った理由自体が、信頼に反する行為であった。そのせいでハシュメは、連邦刑務所に服役することになった。
アルフィーの成否は、プライベートな空間に人型ロボットを迎え入れることに対する社会の意思について、多くのことを明らかにするだろう。低賃金国の労働者がロボットのインターフェースを使って、私たちのために家で肉体作業をするという、まったく新しく非対称性の大きい労働配置を、私たちは受け入れられるのだろうか? 私たちや家族の個人的なデータや画像を守らせてもいいと思えるくらい、彼らを信頼するようになるのだろうか? 最も基本的なレベルで、そもそもロボットは役に立つ存在になるのだろうか?
信頼に関するこうした懸念のいくつかに対処するため、ハシュメはバック・ルイスを迎え入れた。ルイスがロボットを扱う仕事を始め、人々が恐れるよりもむしろ信頼する人型ロボットのデザインを任されるようになる20年前、彼が直面していた課題はネズミだった。
2001年当時、ルイスは尊敬を集めるアニメーターであり、ピクサー( …
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