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2024年の気候シーンを振り返る:見えてきた明るい兆し
Christopher Furlong/Getty Images
Three pieces of good news on climate change in 2024

2024年の気候シーンを振り返る:見えてきた明るい兆し

2024年の世界の温室効果ガス排出量は過去最高を記録し、さらに、観測史上最も暖かい年になる見込みだ。だが、英国で最後の石炭火力発電所の閉鎖や、電気自動車や送電網に使えるバッテリー価格の下落など明るい話題もあった。 by Casey Crownhart2024.12.25

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

今年の気候変動分野は概して、あまり良い雰囲気ではなかった。

2024年の世界の温室効果ガス排出量は374億トンに達し、過去最高を記録した。また、9月までの気温は産業革命前の水準を1.54 °C上回り、今年は観測史上最も暖かい年になる見込みだ。気候変動に関する国際協議は不調に終わり、山火事からハリケーンまでさまざまな災害は気候変動によってさらに悪化している。

しかし、こうした(非常に現実的な)暗いニュースの中にも、いくらかの朗報はあった。最も環境を汚染する化石燃料の削減が進み、気候変動と闘うためのより安価で優れたテクノロジーが開発され、そして気候問題に対処するための世界的な取り組みは続いている。2024年も終わりに近づいた今、気候変動関連の明るい話題を振り返ってみよう。

石炭火力の廃止

今年、うれしく思った気候関連の出来事の1つは、英国での動きだ。英国は歴史的に電力源として石炭に大きく依存してきた。1990年の時点では電力需要の約65%を石炭が賄っていた。しかし、2024年9月30日に国内最後の石炭火力発電所が閉鎖された

閉鎖に伴う発電量の不足分を再生可能エネルギーが埋めようとしている。英国の風力発電量は今年、石炭火力とガス火力を合わせた発電量を上回る見込みだ。

これは象徴的な出来事であり、環境負荷の高い化石燃料から少しずつ脱却していくという世界中で実際に進んでいる動きを反映している。米国では40年前、石炭火力の発電量が電力供給の約50%を占めていた。2023年には、その割合は約16%だった。

国際エネルギー機関(IEA)によると、石炭の使用量は10年後までには頭打ちになり、減少に転じる可能性もあるという。しかし、より急速な進展が必要であり、エネルギー需要が増加している中国のような国でそれを実現する必要がある。人工知能(AI)利用に使われる電力を含め、データセンターのエネルギー需要の増加が、古い石炭火力発電所の閉鎖に向けた取り組みに与える影響についても懸念が高まっている。

下落を続けるバッテリー価格

ブルームバーグNEFのデータによると、2024年にリチウムイオン電池パックの価格はこれまでで最も安くなり、20%下落して1キロワット時あたり115ドルになった。これは2017年以降で最大の下落幅だ。

バッテリー(電池)は気候変動対策において中核となるテクノロジーである。輸送部門のクリーン化に役立つことが期待される電気自動車(EV)に電力を供給し、風力や太陽光のような供給が不安定な再生可能エネルギーを貯蔵できるため、送電網において果たす役割もますます大きくなっている。

世界の大半の国々では、EVの初期費用はガソリン車よりもまだ高いため、より多くの人々にEVへの移行を促す取り組みにおいてバッテリーが安くなることは朗報となる。そして、バッテリー価格は急落したといっても過言ではない。2017年にバッテリーの価格は現在の2倍だった。10年前は2024年の6倍だった。

公平を期すために言えば、EV界では今年、良いニュースと悪いニュースがあった。バッテリー価格が記録的な安値を記録した要因の1つは、実はEV需要の伸びの鈍化である。EVの販売台数は依然として世界中で伸びているが、そのペースは2023年に比べて鈍化している。中国は間違いなく世界最大のEV市場であり、10月時点で2024年の世界登録台数の4分の3を占めている。

気候テックは現在も活気にあふれている

今年掲載したエネルギーと気候に関する記事を振り返ると、今後については多少なりとも楽観的に感じずにはいられない。

気候危機に対処するために自然界に目を向けている団体もある。今年私は、巨大なバイオリアクターで微生物を培養し、新たな食糧源にしようとする企業や、気候変動との闘いに必要な金属の採掘に植物を役立てようとする研究者を取材した。生物学を工夫して取り入れようとしている団体もある。本誌のジェームス・テンプル編集者は、ジェニファー・ダウドナ教授にインタビューして、ダウドナ教授が開拓した遺伝子編集テクノロジー「CRISPR(クリスパー)」の可能性について話を聞いた。

バッテリーのように機能し、必要なときに備えてエネルギーを蓄えられる空調システムを導入する企業もある。米国エネルギー省は、太陽熱を集めて送電網や産業プロセスの電力源として使用することを目的としたプロジェクトに投資している。私は、魚にとってより安全な水力発電テクノロジーの開発を目指すスタートアップ企業や、安価で広く入手可能な材料を使って磁石を製造しているスタートアップ企業に話を聞いた。

10月には、2024年に注目すべき気候テック企業15社のリストを発表した。このリストには、AIを使って山火事を検出するスタートアップ企業から、牛のゲップによる温室効果ガスの排出量を削減するために牛にサプリメントを与える企業まで、あらゆる企業が並んでいる。

気候変動は世界にとって大きな課題であり、人類は非常に不透明な時代を迎えている。私たちは、良いニュースも悪いニュースも含め、すべてを取り上げていくつもりだ。2025年も求められている気候テックに関するあらゆるニュースをお届けできることを楽しみにしている。

MITテクノロジーレビューの関連記事

人生にほんのちょっとイノベーションとポジティブさが必要な方には、「気候テック企業15」のリストに目を向けることをお勧めする。

世界で最も重要な問題に取り組む若者たちは大きなインスピレーションを与えてくれる。2024年の「35歳未満のイノベーター35人」からは、元気をもらえるだろう(日本版はこちら)。

イノベーションがもっと必要な方は、「ブレークスルー・テクノロジー10」を振り返ってみてはどうだろう?2025年の「ブレークスルー・テクノロジー10」リストも間もなく発表されるので、お楽しみに。


失敗したテクノロジーのリストに「炭素市場」

a humanoid robot sawing the branch that it is sitting on

 

今年のテクノロジー分野は心躍る出来事にあふれていたが、失敗もあった。そこで、2024年最大のテクノロジー失敗例をいくつか紹介しよう。この記事に目を通せば、なぜ自主的な炭素市場が失敗とみなされたのか、そしてAIスロップ(AIが生成した低品質なコンテンツ)に関 しても学ぶことができる。

生成AIブームのエネルギー問題が明るみに

AIは膨大なエネルギーを必要とし、そのエネルギー需要は今後数年で爆発的に増加すると予想されていることは、おそらくご存知だろう。その状況がどれほど悪いかを定量化することを目的とした研究の査読前論文(プレプリント)が発表された。それによると、2023年9月から2024年8月の間に、データセンターの電力消費量が米国における電力消費量の4%以上を占めることがわかった。また、使用される電力の炭素強度は、全米平均よりも50%近く高い。

詳細については、本誌のジェームス・オドネル記者による最新の記事で確認してほしい。

気候変動関連の最近の話題

  • 地熱エネルギーは現在、世界の電力の約1%を供給しているが、うまくいけば、2050年まで世界の電力需要の増加分の最大15%を満たすことができるかもしれない。アクシオス
  • 休暇中にEVをレンタルする予定?充電方法に関する役立つヒントなど、これはEVを初めて運転する人に最適な手引きだ。(ブルームバーグ
  • コモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)は、同社初の商業用核融合発電所の建設地としてバージニア州を選んだ。同社によると、400メガワットのこの発電所は2030年代初頭に稼働予定だという。(ヒートマップ
    →私は最近、コモンウェルスがマサチューセッツ州に建設した同社初の実証施設を訪れた。基本的には、まだ地面に穴が開いているだけだ。(MITテクノロジーレビュー
  • 米国エネルギー省の融資プログラム局は、カリフォルニア州の電力会社に150億ドルの融資をする方針を示した。同局の融資としては過去最大である。(ニューヨーク・タイムズ紙
  • 米環境保護庁(EPA)はカリフォルニア州に対し、2035年までにガソリン車を禁止する権利を与える。EPAは、カリフォルニア州が独自の規則を定めるために免除を与える必要がある。(ワシントンポスト紙
    →しかし、法廷闘争が予想される。トランプ次期政権は、現政策を大きく転換するEVと充電への支援の打ち切りを勧告している。(ロイター通信
  • 中国はリチウムイオンバッテリー分野を支配している。欧米の一部スタートアップ企業は、中国に追いつくよりも、中国以外の国々はリチウム硫黄バッテリーやナトリウムイオンバッテリーといった代替化学テクノロジーに注力すべきだと主張している。(カナリー・メディア
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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