9月のある夜、米国ニューヨーク州イサカの上空を、一羽の小さな鳴鳥が飛び上がった。この鳥は、年に一度まるで羽毛の大河のような群れを作って北米大陸を渡る、40億羽の鳥のうちの1羽である。上空でこの鳥は、鳥類学者が「夜間フライトコール」と呼ぶ鳴き声を発し、自分の群れと交信する。それは、真夜中の森の中で発せられる、わずか50ミリ秒ほどの非常に短い信号でしかない。それでも人間は、漏斗状の集音器を取り付けたマイクを使ってその音を捉えることができる。数分後、ニューヨーク大学、コーネル鳥類学研究所、ナント中央理工科高等大学の共同研究によって開発されたソフトウェア「BirdVoxDetect(バードボックスディテクト)」が、この鳥を識別し、種のレベルまで分類する。
コーネル大学のアンドリュー・ファンズワース客員研究員をはじめとする生物学者たちは、こうした方法で鳥を調査することを長年夢見ていた。ガラス張りの高層ビルや送電線など、鳥にとって致命的となりうる人間のインフラが増え続ける温暖化した世界では、渡り鳥は数多くの存亡に関わる脅威に直面している。科学者たちは、渡り鳥のタイミングと位置を追跡するためにいくつかの方法を組み合わせて利用しているが、それぞれに欠点がある。ドップラーレーダーは、気象の影響を除去して上空の鳥たちの総バイオマスを検出できるが、種ごとの内訳を示すことはできない。個々の鳥へのGPSタグの取り付けや、市民科学者であるバードウォッチャーによる観察でそのギャップを埋めることができるが、大規模なタグ付けは費用がかさみ、侵襲的である。そして、もう1つ重要な問題がある。ほとんどの鳥は夜間に渡りを行なうため、目視による識別が難しく、バードウォッチャーの多くが眠っている時間帯に活動する。100年以上にわたり、音響モニタリングは鳥類学者の悩みを解決する方法と見なされてきたが、実現にはまだ手が届かない状況が続いていた。
1800年代後半、科学者たちは渡り鳥が種固有の夜間フライトコールを発していることに気づいた。それは言うなれば「音の指紋」である。1950年代にマイクロフォンが市販されるようになると、科学者たちは夜間に鳥たちの鳴き声を録音し始めた。ファンズワース研究員は1990年代にこの音響生態学の一部の研究を主導した。しかし、この時点でも、鳥の短い鳴き声を探し出すのは依然として困難であり、それらの鳴き声は人間の可聴周波数の端に位置することもあった。科学者たちは最終的に、何千本ものテープを用い、スペクトログラムをリアルタイムで解析しながら音声を視覚化する必要があった。デジタル技術によって録音は容易になったが、「永遠の問題」が残ったとファンズワース研究員は言う。「膨大な音声データを収集するのはますます簡単になりましたが、その一部でさえ分析するのはますます困難になりました」。
その後、ファンズワース研究員はニューヨーク大学音楽・音声研究所の所長であるファン・パブロ・ベロと出会った。ベロ所長はちょうど、機械学習を使ってニューヨーク市の都市騒音公害の原因を特定するプロジェクトを終えたばかりで、夜間フライトコールの問題に取り組むことに同意した。彼はフランスの機械リスニング専門家であるヴァンサン・ロスタンレンを含む研究チームを結成し、2015年にはこの研究プロセスを自動化するためのプロジェク …