KADOKAWA Technology Review
×
【3/14東京開催】若手研究者のキャリアを語り合う無料イベント 参加者募集中
渡り鳥の声を聞き分ける——
機械学習ツールが導く
生物音響学研究の新時代
BELL HUTLEY
人工知能(AI) Insider Online限定
AI is changing how we study bird migration

渡り鳥の声を聞き分ける——
機械学習ツールが導く
生物音響学研究の新時代

夜間に渡りを行う鳥たちは、わずか50ミリ秒の短い鳴き声で仲間と交信する。この微かな信号を捉え、種を特定する——。長年、鳥類学者たちの夢だったその技術が、機械学習によって実現した。音響データの宝の山が解き放たれつつある。 by Christian Elliott2024.12.19

この記事の3つのポイント
  1. 機械学習により渡り鳥の鳴き声を識別するシステムが開発された
  2. このシステムにより鳥の種や位置をリアルタイムで把握できるようになった
  3. 渡りのタイミングや経路の理解が進み鳥の保護活動に役立つと期待されている
summarized by Claude 3

9月のある夜、米国ニューヨーク州イサカの上空を、一羽の小さな鳴鳥が飛び上がった。この鳥は、年に一度まるで羽毛の大河のような群れを作って北米大陸を渡る、40億羽の鳥のうちの1羽である。上空でこの鳥は、鳥類学者が「夜間フライトコール」と呼ぶ鳴き声を発し、自分の群れと交信する。それは、真夜中の森の中で発せられる、わずか50ミリ秒ほどの非常に短い信号でしかない。それでも人間は、漏斗状の集音器を取り付けたマイクを使ってその音を捉えることができる。数分後、ニューヨーク大学、コーネル鳥類学研究所、ナント中央理工科高等大学の共同研究によって開発されたソフトウェア「BirdVoxDetect(バードボックスディテクト)」が、この鳥を識別し、種のレベルまで分類する。

コーネル大学のアンドリュー・ファンズワース客員研究員をはじめとする生物学者たちは、こうした方法で鳥を調査することを長年夢見ていた。ガラス張りの高層ビルや送電線など、鳥にとって致命的となりうる人間のインフラが増え続ける温暖化した世界では、渡り鳥は数多くの存亡に関わる脅威に直面している。科学者たちは、渡り鳥のタイミングと位置を追跡するためにいくつかの方法を組み合わせて利用しているが、それぞれに欠点がある。ドップラーレーダーは、気象の影響を除去して上空の鳥たちの総バイオマスを検出できるが、種ごとの内訳を示すことはできない。個々の鳥へのGPSタグの取り付けや、市民科学者であるバードウォッチャーによる観察でそのギャップを埋めることができるが、大規模なタグ付けは費用がかさみ、侵襲的である。そして、もう1つ重要な問題がある。ほとんどの鳥は夜間に渡りを行なうため、目視による識別が難しく、バードウォッチャーの多くが眠っている時間帯に活動する。100年以上にわたり、音響モニタリングは鳥類学者の悩みを解決する方法と見なされてきたが、実現にはまだ手が届かない状況が続いていた。

1800年代後半、科学者たちは渡り鳥が種固有の夜間フライトコールを発していることに気づいた。それは言うなれば「音の指紋」である。1950年代にマイクロフォンが市販されるようになると、科学者たちは夜間に鳥たちの鳴き声を録音し始めた。ファンズワース研究員は1990年代にこの音響生態学の一部の研究を主導した。しかし、この時点でも、鳥の短い鳴き声を探し出すのは依然として困難であり、それらの鳴き声は人間の可聴周波数の端に位置することもあった。科学者たちは最終的に、何千本ものテープを用い、スペクトログラムをリアルタイムで解析しながら音声を視覚化する必要があった。デジタル技術によって録音は容易になったが、「永遠の問題」が残ったとファンズワース研究員は言う。「膨大な音声データを収集するのはますます簡単になりましたが、その一部でさえ分析するのはますます困難になりました」。

その後、ファンズワース研究員はニューヨーク大学音楽・音声研究所の所長であるファン・パブロ・ベロと出会った。ベロ所長はちょうど、機械学習を使ってニューヨーク市の都市騒音公害の原因を特定するプロジェクトを終えたばかりで、夜間フライトコールの問題に取り組むことに同意した。彼はフランスの機械リスニング専門家であるヴァンサン・ロスタンレンを含む研究チームを結成し、2015年にはこの研究プロセスを自動化するためのプロジェク …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 好評につき第2弾!研究者のキャリアを考える無料イベント【3/14】
  3. OpenAI just released GPT-4.5 and says it is its biggest and best chat model yet 限界説に挑むオープンAI、最後の非推論モデル「GPT-4.5」 
  4. One option for electric vehicle fires? Let them burn. EV電池火災、どう対応?「燃え尽きるまで待つしかない」と専門家
▼Promotion
U35イノベーターと考える 研究者のキャリア戦略 vol.2
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る