MITTRが選ぶ、
2024年に「やらかした」
テクノロジー8選
MITテクノロジーレビュー年末恒例の「最低のテクノロジーの失敗」2024年版をお届けする。今年は、「意識高い系」AIの失態、宇宙飛行士を置き去りにした宇宙船、垂直農法企業の破綻、遺伝子検査会社の行き詰まりなど、8つをピックアップした。 by Antonio Regalado2024.12.23
成功よりも失敗から学ぶことの方が多いと言われている。もしそうなら、この記事はまさに学びにうってつけだ。MITテクノロジーレビュー毎年恒例の、テクノロジーのあらゆる領域における最大の失敗、でたらめ、しくじりの一覧だ。
中には、黒人のナチスを描いてグーグルを困らせた「意識高い系」人工知能(AI)のように、笑える失敗もあった。デルタ航空の乗客数千人を足止めしたクラウドストライク(CrowdStrike)のコンピューター不具合のように、訴訟に発展したものもあった。また、超低金利時代の2020年から2022年にかけて事業拡大を急いだスタートアップ企業の間でも、失敗が相次いだ。当時から経済の風向きは変わった。お金はもうタダではなくなったのだ。その結果どうなったか? 垂直農法から炭素クレジットまで、野心的な技術プロジェクトに取り組んだものの、まだ利益を上げることができず、今後も上げることができない可能性のある企業が倒産や解散に追い込まれたのだ。
では、続きをどうぞ。
1. 「意識高い系」AIの失態
人々はAIにバイアスが入り込むことを心配している。しかし、意図的にバイアスを加えたらどうなるだろうか? グーグルのおかげで、私たちはその行き着く先を知っている。黒人のバイキングと女性のローマ教皇だ。
2月に発表されたグーグルのGemini(ジェミニ)のAI画像生成機能は、多様性を必死に示そうとするあまり、歴史を修正してしまった。例えば、第二次世界大戦時のドイツ兵の絵を求めると、ドイツ国防軍の軍服を着たベネトンの広告ふうの画像が作成されてしまう。
批評家たちの猛烈な反発を受けて、グーグルは恥ずかしい退却を余儀なくされた。そして、Geminiの人物描画機能を一時停止し、包摂性を追求するという善意の努力が「的外れ」であったと認めた。
現時点でも、Geminiの無料版では人物画像は生成できない状況が続いている。ただ、有料版では可能だ。試しに「上場バイオテクノロジー企業の最高経営責任者(CEO)12人の画像」の作成を要求したところ、中年白人男性たちの写真品質の画像が生成された。理想的とは言えないが、現実には少し近い結果となった。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
2. ボーイング・スターライナー
ボーイングで問題発生だ。、長らく開発が遅れていた再利用可能な宇宙船「スターライナー(Starliner)」は、米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士スニータ・ウィリアムズ(スニ)とバリー・ウィルモア(ブッチ)を国際宇宙ステーション(ISS)に取り残す結果となった。
2024年6月のミッションは、スターライナーがより長いミッションに乗り出す前のテストを目的とした、8日間の短い往復飛行となる予定だった。しかし、ヘリウム漏れとスラスターのトラブルに悩まされ、無人で帰還せざるを得なくなった。
今のところ、ブッチとスニは、2025年まで地球に戻れない見込みだ。帰還には、ボーイングの競合であるスペースX(SpaceX)の宇宙船が使われる予定。
ボーイングとNASAの安全第一主義はすばらしい。しかし、2024年中のボーイングの不具合はこれだけではなかった。年初には飛行中に航空機のドアが吹き飛ぶという事故が発生。従業員のストライキにも直面した。さらに、ボーイング737 MAX機の安全性について米国政府を欺いた(これは2019年の最悪テクノロジーリスト入りを果たした)として多額の罰金を支払うことに同意。3月にはCEOが辞任に追い込まれた。
スターライナーのしくじりの後、ボーイングは宇宙・防衛部門の責任者を解任した。ボーイングの新たなCEOであるケリー・オルトバーグはメモの中で、「この重大な局面において、我々の優先事項は、顧客の信頼を回復し、世界中の重要なミッションを可能にするために顧客が我々に期待する高い基準を満たすことである」と述べている。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- ボーイングの窮地に陥った宇宙カプセル、2人のNASA宇宙飛行士を乗せずに地球に帰還(ニューヨーク・ポスト紙)
- ボーイングの宇宙・防衛担当責任者が退任、新CEOの初役員人事(ロイター)
- CST-100スターライナー(ボーイング)
3. クラウドストライクの機能停止
サイバーセキュリティ企業クラウドストライクのモットーは「侵入を阻止する」ことだ。確かにそのとおりだろう。コンピューターが起動しなければ、誰もそのコンピューターに侵入することはできないのだから。
7月19日、多くの人々に起こったのはまさにこれだった。航空会社、テレビ局、病院で使われていた数百万台のウィンドウズ・コンピューターに「死のブルースクリーン」が表示され始めたのだ。
原因はハッカーやランサムウェアではなかった。クラウドストライク自体が配布したアップデートの不具合が原因で、コンピューターが起動ループに陥ったのだ。ジョージ・カーツCEOはX(旧ツイッター)で、「問題」は1つのコンピューター・ファイルの「欠陥」によるものだと発表した。
では誰にこの責任があるのか? クラウドストライクの顧客であるデルタ航空は、7000便のフライトをキャンセルし、5億ドルの損害賠償を求めて訴訟を起こしている。デルタ航空は、セキュリティ会社が「認証もテストもされていない近道」を取ったことで「世界的な大惨事」を引き起こしたと主張している。
クラウドストライクは反訴した。デルタ航空の経営陣に責任があるとして、返金以上のものは支払わないという言い分だ。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- 「クラウドストライクは顧客と協力している」(ジョージ・カーツ)
- 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に(MITテクノロジーレビュー)
- デルタ航空、7月のオペレーション・メルトダウンをめぐりクラウドストライクを提訴(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
4. 垂直農法
ロボット、水耕栽培、LED照明によってビルの中でレタスを育てる。その実現に向けて、「垂直農法」スタートアップ企業であるバワリー(Bowery)は7億ドル以上の資金を調達した。しかし、11月にバワリーは破産し、ビジネス分析会社CBインサイツ(CB Insights)によると、今年最大のスタートアップ企業の失敗となった。
バワリーは、垂直農法では植物のラックを12メートルの高さまで積み重ねることができるため、従来の農場よりも1平方フィート当たりの「生産性が100倍高い」と主張した。実際には、同社のレタスは従来農法よりも高価だった。また、東海岸にある同社施設全体でしつこい植物感染症が蔓延したことで、価格以前に出荷そのものが難しい状況に陥った。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- 葉を食べる病原菌と取引の失敗でバワリー・ファーミングが倒産(ピッチブック)
- 垂直農法の「ユニコーン」バワリーが廃業へ(アクシオス)
5. 爆発するポケベル
ポケベルが鳴った。すると爆発した——。レバノン全土で、イスラエルによる「ヒズボラを無力化するための総力戦の奇襲攻撃」と呼ばれる攻撃により、人々の指や顔がズタズタにされた。
この致命的な攻撃は悪魔のように巧妙だった。イスラエルはダミー会社を設立し、爆発物を詰めたポケベル数千台をイスラム勢力に販売した。イスラム勢力は、すでに電話が盗聴されているのではないかと懸念していた。
イスラエルのスパイにとっては見事な作戦だった。しかし、これは戦争犯罪なのだろうか? 1996年の条約では、爆発するように設計された「一見無害な物体」を意図的に製造することを禁じている。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、9歳のファティマ・アブドゥラちゃんは、ブービートラップが仕込まれた父親のポケベルが鳴ったので、急いで父親のところへ持っていこうとしたところ命を落とした。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- イスラエルがレバノンでポケベル攻撃を実施…(アクシオス)
- レバノン、ポケベル攻撃で死亡した9歳の少女を追悼(ニューヨーク・タイムズ紙)
- イスラエルは国際法を破ったのか?(ミドル・イースト・アイ)
6. 23andMe
消費者向け遺伝子検査のパイオニア企業が急速に沈んでいる。株価はゼロに近づき、価値ある医薬品を生み出す計画は、今年11月に担当チームが解雇通知を受け取ったことで頓挫した。
トゥエンティースリー・アンド・ミー(23andMe)は常にセレブなオーラを放ち、好意的に報道されてきた。しかし、今は悪い報道ばかりだ。今年9月に社外取締役が一斉に辞任した後、創業者のアン・ウォジッキが経営権を握る問題企業となっている。顧客は、同社が倒産したら自分のDNAデータはどうなるのかと心配し始めている。
トゥエンティースリー・アンド・ミーは、「遺伝子研究のための世界最大のクラウドソーシング・プラットフォーム」を作ったと主張する。その通りである。ただ、利益を上げる方法を見つけることができなかっただけだ。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- 23andMeの60億ドルからほぼゼロへの転落(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
- 23andMe財務報告書 2024年11月(23andMe)
7. AIスロップ
スロップとは豚が食べる残飯や余り物のことである。コンピューターが生成したテキストや画像でインターネットが溢れかえっている現在、人々がますますネット上で消費するようになっているのが「AIスロップ」だ。
ニューヨーク・タイムズ紙はAIスロップを「うさんくさい」と評し、ワイアード(Wired)は「ダダイスト」と呼んでいる。シュリンプ・ジーザス(知らないなら聞かないほうがいい)のような奇妙なものや、ハリケーン「ヘレン(Helene)」に対する米国政府の対応の悪さを示すとされる、手漕ぎボートに乗った震える少女の写真のような欺瞞的なものが多い。
AIスロップは時にはおもしろい。しかし、たいていは時間の無駄だ。ファクトチェックはされていないし、クリック数を稼ぐためだけに存在する。AIスロップとは、Xの認証バッジの付いたアカウントが投稿する、AIのすばらしさについて語る10連スレッドのようなものだ(そしてその投稿はAIによって書かれている)。
何より、AIスロップはネット上に溢れかえっている。今年、リンクトイン(LinkedIn)とミディアム(Medium)の長文投稿の約半分は、部分的にAIが作成したものだと研究者たちは主張している。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- 最初は「スパム」だった。今、AIによる「スロップ」が登場した(ニューヨーク・タイムズ紙)
- AIスロップがミディアムに氾濫(ワイアード)
8. 自主的炭素市場
あなたのビジネスは地球温暖化の原因となる排出物を生み出している。そこで、中米の誰かにお金を払って木を植えさせて、効率の良い調理用ストーブを購入してはどうだろうか? そうすれば、排出量実質ゼロを達成し、地球を救うことができる。
すばらしいアイデアだが、善意だけでは十分ではない。今年、炭素市場のノリ(Nori)が閉鎖され、炭素を海に沈めようとしていた企業ランニング・タイド(Running Tide)も事業を停止した。「問題は、自主的炭素市場が自主的なものであるということだ」。ランニング・タイドのCEOは、お別れの投稿で需要不足を理由として挙げた。
企業は需要の低さを非難したがっているが、問題はそれだけではない。不確かな技術、疑わしいクレジット、架空のオフセットが炭素市場の信頼性の問題を生み出している。10月、米国検察当局は、存在しない排出削減効果の販売に関わる1億ドルの詐欺の容疑で2人の男を起訴した。
もっと詳しく知りたい人はこちら:
- 「見せかけ」批判の炭素市場、グローバル企業撤退で需要急減(MITテクノロジーレビュー)
- 海洋炭素除去におけるランニング・タイドの不運な冒険(カナリー・メディア)
- 元カーボンオフセット界の実力者、数百万ドルの詐欺でニューヨークで起訴(ガーディアン紙)
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。