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生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato
AI’s search for more energy is growing more urgent

生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷

人工知能(AI)の急速な進化に伴って、ますます膨大な電力が必要になっている。AI企業は持続可能性目標の達成と、大量の電力を必要とする大規模モデルの開発との板挟みになっている。 by James O'Donnell2024.12.19

この記事の3つのポイント
  1. AIブームで米国のデータセンターのCO2排出量が3倍に増加した
  2. 多くのデータセンターが石炭産出地域に立地し、炭素強度は高い
  3. AI企業は原子力発電の活用を模索しているが課題は多い
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国にある2990カ所のデータセンターの1つを車で通りがかったとしても、きっと「つまらない見た目の建物だな」くらいにしか思わないだろう。気づきもしないかもしれない。しかし、こうした施設は私たちのデジタル・ワールド全体を支えており、また大量の温室効果ガスを排出している。新たな研究により、人工知能(AI)ブームによる排出量の劇的増加が具体的にどれほどのものなのかが明らかになった。

ハーバード・T・H・チャン公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)のチームが主導した新たな研究によれば、2018年以降、米国のデータセンターからの二酸化炭素排出量は3倍に増加した。汚染源としてのデータセンターは、米国の民間航空機に肉薄している。

これにより、世界の主要AI企業は大問題に直面している。自社の持続可能性目標の達成と、AI業界の過酷な競争を背景とした、大量の電力を必要とする大規模モデルの開発との、板挟みになっているのだ。オープンAI(OpenAI)の「Sora(ソラ)」をはじめとする映像生成AIなど、高度にエネルギー集約的な新モデルが続々と誕生するトレンドに後押しされ、電力需要の数字は大きくなる一方だ。

ますます多くの企業が手を結び、AIへの電力供給を目的とした原子力利用に期待を寄せている。メタは2024年12月3日に原子力パートナー企業の募集を発表し、マイクロソフトはスリーマイル島原子力発電所の2028年の再稼働に向けて働きかけている。アマゾンは10月に電気事業者数社と原子力発電の推進に向けて合意を締結した。

しかし、原子力発電所の稼働には長い時間がかかる。世論の支持は近年拡大しつつあり、ドナルド・トランプ次期大統領も賛同の姿勢を見せているとはいえ、発電能力の増強のために原子力発電所の新設に賛成する米国人は、過半数をわずかに上回る程度でしかない。

オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は9月、ホワイトハウスにデータセンター建設の加速を求める異例の訴えをしたが、一方でAI業界は米国以外にも熱視線を送っている。マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムといった東南アジア諸国は、いずれも新たなデータセンター・ハブを目指し、AI企業の誘致に力を入れている。

その傍らで、AI企業は再生可能とはほど遠い、現行の電力源を使い続けることになる。非常に多くのデータセンターがバージニア州のような石炭産出地域に立地しているため、データセンターが使用するエネルギーの「炭素強度」は全国平均より48%高い。先の研究によれば、米国のデータセンターの95%が立地する土地では、電力源が全国平均よりも「汚い」、すなわち温室効果ガス排出量が多いのだ。新たな研究の詳細は記事『AIブームで特需、米国内のデータセンターCO2排出量が3倍に』をお読みいただきたい


戦争を劇的に変えるアンドゥリルの軍事AIシステム

史上初のドローン戦争時代が到来し、AIは戦争の未来をさらに劇的に変えようとしている。私はカリフォルニア州南部にあるアンドゥリル・インダストリーズ(Anduril Industries)の実験場を訪ねた。同社はAIを搭載したドローン、自律航行潜水艦、ミサイルを開発する軍事企業だ。同社は、軍がハードウェアの大部分を(ドローンやレーダーから無人戦闘機まで)たった1つのコンピューター画面上で操作する方法を確立した。

アンドゥリル・インダストリーズやその他の軍事技術企業、そしてペンタゴン(米国防総省)の多くの職員が、新たな世界観を受け入れるようになりつつある。将来の「大国間」紛争(複数国家が競い合う世界規模の戦争を指す軍事用語)で勝つのは、最先端のドローンや火力、あるいは最も安価な火力を有する国ではない。情報を最も早く分析・共有できる国が勝利することになる。ペンタゴンは、欠点やリスクには事欠かないものの、AIがこうした紛争の中で米国と同盟国に優位性をもたらすことに賭け、多大な労力と資金を投資している。詳しくは『オープンAIと手を組んだ防衛スタートアップが目指す「戦争のアップデート」』をお読みいただきたい

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ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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