バイドゥのスター研究者が相次いで退職 検索広告事業は低迷
ビジネス・インパクト

Baidu’s Plan for Artificial Intelligence without Andrew Ng バイドゥのスター研究者が相次いで退職 検索広告事業は低迷

中国の検索エンジン大手バイドゥは先週、AIラボを率いる花形研究者を失なった。人工知能テクノロジーに重点を置く長期的な経営方針に変わりはないとはいえ、検索広告事業は低迷しており、ばく大な投資に見合う新規事業を何としても育てようとしている。 by Yiting Sun2017.03.31

世界最高のAI研究者アンドリュー・ングが、中国企業バイドゥの研究主任を辞めると発表した時、バイドゥの株価はたった数時間で3%近く値下がりした。

この現象は、ング元研究主任の著名度や評判の高さを示すと同時に、投資家がAIに傾注するバイドゥの事業方針を重視していることも現わしている。人工知能テクノロジーはバイドゥの企業戦略の要であり、バイドゥがAI研究をさらに強化すると決めたのと同時に、ング元研究主任が退職した。

ング元研究主任の退職に際し、バイドゥは即座に、自然言語処理に特化した自社製AI「王海峰(ワン・ハイフェン)」の開発に取り組む方針を改めて表明した。

バイドゥの李彦宏(ロビン・リー)CEOは最近、中国の新聞に、人工知能専門家育成の重要性を訴える論説記事をいくつも寄稿している。3月初旬、中国政府の機関紙「人民日報」に寄せたコラムで、李CEOは「人工知能が引き起こす従来型のビジネスモデルの崩壊、産業構造やバリューチェーンの混乱によって、グローバル経済に根本的な変化が生じるでしょう」と述べた。

3月、中国の国家発展改革委員会は、バイドゥを国立深層学習技術およびアプリケーション研究のリーダーとして認めた。政府ぐるみで人工知能開発にトップレベルの努力を注ぐ中国の姿勢が伺える。バイドゥは清華大学等、中国のもっとも権威ある大学と共同で、画像認識や音声認識、人間と機械のインタラクションなど、さまざまな分野のAI研究を進めていくことになる。

清華大学でコンピューター・ビジョンと画像認識を研究し、国立研究所の研究にも参加している王生進(ワン・シェンジン)教授は、バイドゥはこれまでAI研究を率いてきた存在であり、今後もその優位性が継続するといえるだけの理由がある、という。

ング元研究主任の退職について王教授は「個人的には残念です」という。しかし王教授は、バイドゥには既にング元研究主任が築いた1300人以上の研究者を擁する強固なAI研究チームがあり、人材の面で優位な立場にあるという。また、バイドゥは検索エンジン事業で収集する大量のデータからも競争上の優位性を得ている。さらに、自動運転研究のために「知能運転」部門が新設されたことからも、バイドゥがAIを推進する方針にかわりがないことがわかる。

バイドゥはング元研究主任が去ったあとも、AIの研究資源と研究戦略を適切に運用できるだろう、と王教授は予想している。

ング元研究主任の穴を埋める調整作業は既に始まっている。2日前、バイドゥは北京の本社で働く有能なAI開発者を求めて、海外の大学キャンパスで初めての求人キャンペーンを立ち上げ、カーネギーメロン大学やコロンビア大学など、アメリカでもトップレベルの大学で採用活動に乗り出した。バイドゥの広報担当者は、特にアメリカの大学に在籍している中国人学生を惹きつけたいという。

王教授は、中国は若い研究者にやりがいのある課題を与えられる国だという。ナビゲーションの困難な都市部の道路状況や多様な方言に対処し、有用なアプリケーションを生み出すために、中国のAI研究者は革新的な手法を探らなければならない。

ング元研究主任は退職によせたブログ記事で、バイドゥのAI事業への尽力を自ら賞賛した。また、ング元研究主任は元マイクロソフト所属のAI専門家で、今年バイドゥの最高執行責任者に就任した陸奇氏についても、好意的に言及した。

しかし、ング元研究主任の退職はバイドゥの経営に何らかの問題がある証拠であり、バイドゥが優秀かつ重要な人材の保持に失敗した新たな一例だとする見方もある。以前バイドゥのビッグデータ研究所を率いていた張潼(チャン・トン)元副所長は、最近ライバル企業のテンセントに加わり、AI研究を監督する役職についた。また、自動運転部門を率いていた王竞(ワン・ジン)上級副社長もバイドゥを去り、自身の会社を立ち上げると発表した。人間と機械のインタラクションを研究するチームで重要な役割を果たしていた研究者の顧嘉唯(グー・ジアウェイ)主任エンジニアも、昨年バイドゥを去った。

AI部門の顔認識テクノロジーAIを用いた貸金事業で成功を収めたものの、検索エンジン以外の分野に事業を拡大したいバイドゥの試みは概して失敗に終わっている。近年、検索広告による収益が低迷し、AIでニュース記事を収集・選別する「今日頭条」など、新たな競合企業が台頭する中、バイドゥは人工知能に費やした企業努力に見合うだけの収益を切実に求めている。