9月のある日曜日早朝、睡眠不足で時差ボケの研究者12名からなるチームが、世界で最も辺鄙な空港に集まった。チリ沖約3750キロメートルのイースター島で、彼らはユニークな追跡の準備をしていた。人工衛星が宇宙から落下し、上空で灰燼に帰す最後の瞬間を捉える競争である。
その人工衛星は「サルサ(Salsa)」 。欧州宇宙機関(ESA)のクラスター・コンステレーションに属する4つのうちの1つだった。サルサとその仲間の人工衛星は2000年代初頭から地球の磁場を調査していたが、そのミッションを終了。数カ月前、サルサはイースター島の海岸から約1600キロメートル離れたところの大気圏のはるか上空で、燃え尽きて崩壊するという最期のライフサイクルに突入しようとしていた。
科学者チームはサルサの大気圏再突入が起こる瞬間を捉える態勢を整えていた。ESA地上管制の正確な軌道計算データを携えたチームは、25台のカメラと分光計を窓際に取り付けたレンタルのビジネス・ジェットで飛び立った。人工衛星がミッションを終えて地球に落下し、燃え尽きるときに起こる物理的および化学的プロセスについて、貴重な洞察を収集できることが期待されていた。
この種の研究はますます緊急性を増している。15年ほど前、地球を周回する人工衛星はせいぜい1000基だった。現在、その数は約1万基に増加しており、スターリンク(Starlink)のような衛星コンステレーションの台頭で、2020年代の終わりまでにさらに10倍の増加が予測されている。これらの衛星を寿命が来たら大気圏で燃え尽きさせることで、宇宙ゴミの量を最小限に抑えることができる。一方、そうすることで衛星の灰が地球の大気の中層に堆積する。この金属灰は大気に害を及ぼし、気候を変化させる可能性がある。この問題が今後数十年の間にどれほど深刻になりそうなのか、科学者たちもまだわかっていない。
大気圏に再突入した物体由来の灰には、オゾン層を破壊する物質が含まれている。モデリング研究によって、その中には地球の成層圏を冷やす成分が含まれる一方で、成層圏を温める成分も含まれることがわかっている。金属粒子が地球の磁場を乱し、地球観測衛星の視界を遮り、雷雨の発生頻度を高めるのではないかと心配する声もある。
「上空でどのような物理現象が起きるかを理解する必要があります」と、ESAの上級アナリストで、この活動を監督したスティーン・レメンズは言う。「再突入する物体が増えれば、影響も大きくなるでしょう」。
世界各地に点在する大気科学者のコミュニティーは、理解における大きなギャップを埋めようと、こうした影響に関する測定結果を待っている。
サルサの再突入の観測は、宇宙飛行の歴史の中で5回目の観測活動に過ぎない。しかし、以前の活動では、アリアン5(Ariane 5)の重さ19トンにおよぶ上段ロケットなど、はるかに大きな物体が追跡された。
それと比べると、クラスター・サルサは550キログラムで、かなり小さいものだった。そして、このことが、科学者にとって特別な関心事となっていた。というのも、この普通サイズの宇宙船が、今後数年間でますます地球周回軌道を埋め尽くすことになるからだ。
メガコンステレーションのマイナス面
増加するであろう衛星数のほとんどは、サルサとほぼ同じ大きさの衛星、つまり誰にでも、どこにでも、適切な速度と遅延でインターネット・サービスを提供できるよう設計された、メガコンステレーションを構成する個々の衛星によるものと予想されている。
スペースX(SpaceX)のスターリンクはその中で最大規模のものだ。現在、約6500基の人工衛星で構成されているが、2030年代のある時点では4万基以上にまで増加することが見込まれている。アマゾンのカイパー(Kuiper)、フランスのEスペース(E-Space)、中国のG60や国網(Guowang)プロジェクトなど、他のメガコンステレーションも計画が進められている。それぞれ数千基、あるいは数万基の衛星で構成される可能性がある。
メガコンステレーションの開発事業者は、政府が資金を出す旧式の人工衛星のように、20~30年も飛行させるつもりはない。軌道上のインターネット・ルーターを5年ごとに新しく、より優れた技術のものに置き換え、古いものは大気圏に送り返して燃やしたいと考えている。それらすべての人工衛星を打ち上げるのに必要なロケットは、それ自体が汚染物質のカクテルを放出する( …