2025年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補3つ

3 things that didn't make the 10 Breakthrough Technologies of 2025 list 2025年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補3つ

MITテクノロジーレビューが来月発表する「世界を変える10大技術」。その選考過程で候補にあがりながら、選考から漏れた3つの技術を先行して紹介しよう。 by Amy Nordrum2024.12.09

MITテクノロジーレビューは来月、2025年版の「ブレークスルー・テクノロジー10(世界を変える10大技術)」を発表する。本誌編集部は毎年、幅広いテクノロジー分野全体に目を向け、ブレークスルーの瞬間を迎えたテクノロジーを探し出している。そして恒例の「ブレークスルー・テクノロジー10」として発表し、現時点で最も重要だと考えるテクノロジーにスポットを当てる。

「ブレークスルー」の定義はひとつではない。例えば、科学の進歩によって新しいテクノロジーが実現された場合や、新しい重要な治療法について企業が規制当局から承認を得た場合などが含まれる。あるいは消費者向けデバイスが普及の臨界点に達した場合や、産業技術がマイルストーンとなる試験段階を見事に通過した場合が含まれることもある。1月に発表する2025年版のブレークスルー・テクノロジー10には、自動化や医学、物理学における最新の進歩のうち、私たちの生活に大きな影響を与えると予想されるテクノロジーが含まれている。

その発表に先立ち、候補に上がったものの、最終的に選外となった3つのテクノロジーを紹介しよう。これら3つの候補は今年は選外となったものの注目すべきテクノロジーであり、MITテクノロジーレビューでは今後も動向を注視していくつもりだ。

1.「バーチャル発電所」

バーチャル発電所とは、多くの異なるテクノロジーを連携させて発電と蓄電を実現するエネルギー・システムのことである。バーチャル発電所によって電力会社は太陽光パネルや風力タービンを送電網向け蓄電池や電気自動車(EV)に接続でき、送電網全体の電力の流れをより適切に管理できるようになる。

電力使用量がピークに達する時間帯には送電網の負荷を減らすために、スマートメーターと連動したソフトウェアが、ガレージに停められたフル充電のEVから電力を引き出して、自動的に近隣の住宅へ電力を供給するようになるかもしれない。上記のようなケースでは、このソフトウェアはEVの所有者への補償方法も決定するようになるだろう。

米国では現在、推定500基のバーチャル発電所が最大60ギガワットの容量を提供している(これは、米国の送電網が今年追加する総容量にほぼ匹敵する)。同様のシステムは、中国日本クロアチア台湾でも稼働している。しかし、その影響が送電網全体に及び始めるには、さらに多くのバーチャル発電所を設置する必要がある。

2.「便利なAIエージェント」

人工知能(AI)エージェントは現在、大流行している。こうしたAIを搭載したヘルパーは、私たちに代わって会議の予定を立てたり、旅行の予約をしたりと、あらゆるタスクをオンラインで代行してくれるだろう。AIエージェントは生成モデルを使って、Webサイトやデスクトップ・ソフトウェアを操作する方法(およびパスワードやクレジットカード情報を管理する方法)を学習する。AIエージェントはおそらく、その過程で他の人々のエージェントとやり取りしたり連携したりすることになるだろう。

その背後では実際にテクノロジーの開発が進んでいる。セールスフォースは、企業が独自のカスタマーサービス・エージェントを作成できるプラットフォームを立ち上げたばかりだ。アンソロピック(Anthropic)の大規模言語モデル「クロード(Claude)」は、人間と同じようにマウスとキーボードを使ってコンピューターを操作する能力を獲得しつつある。

ただし、具体的なリクエストをしたときにAIエージェントにその意味を理解させ、必要なアクションを確実に実行させるためには、多くの課題が残っている。この手ごわいハードルを考えると、AIエージェントが本当に役立つようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。AIエージェントの時代は近づいているかもしれないが、まだ到来したとは言えない。

3.「eVTOL」

eVTOL(Electric Vertical Takeoff and Landing:電動垂直離着陸機)は、電動ヘリコプターのようなものだと考えればいい。読み方は、「イーヴィートール」と発音するのが一般的だ。開発中のほとんどのeVTOLは、個人用航空機としては設計されておらず、パイロットの操縦で郊外から通勤する人を輸送したり、空港から都心部へ訪問者をすばやく運んだりする使い方を想定している。将来的には、自律飛行するエアタクシーとして運行されるようになるかもしれない。

eVTOLの実用化に向けては最近、大きな前進があった。今年4月に、中国のイーハン(EHang)というメーカーがeVTOL輸送機を大量生産するための許可を中国で初めて取得し、受注を開始した。韓国とアラブ首長国連邦(UAE)は、eVTOLの運航を許可する政策を打ち出している。そして米国ではアーチャー・アビエーション(Archer Aviation)が最近、商業運航を開始するための認可を米国連邦航空局 (FAA)から取得した。その後、10月にFAAはパイロットの訓練とeVTOLの運航に関する規則を最終決定した。FAAが新しいカテゴリーの航空機に対してこのような規則を承認したのは、数十年ぶりのことである。

近年の関心の高まりとともに、eVTOL分野は活気づいている。ボーイングやエアバスなど航空業界の大手企業は、この未来的な航空機を開発するためにスタートアップ企業に投資したり、社内の研究開発プロジェクトに資金提供したりしている。しかし、実際に商業運航を開始したeVTOL企業はまだ存在しない。引き続き、注目していくつもりだ。