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微生物を食卓へ、排ガス回収企業が代替タンパク質に参入
LanzaTech
Would you eat dried microbes? This company hopes so.

微生物を食卓へ、排ガス回収企業が代替タンパク質に参入

工業排ガスからエタノールを生産するランザテックは、バイオリアクターで培養した微生物そのものをタンパク質として食料の主原料にすべく、異分野に参入する。環境負荷の高い畜産に代わる、新たな食料源となるか。 by Casey Crownhart2024.12.10

この記事の3つのポイント
  1. ランザテックが微生物ベースの代替食品生産事業に参入した
  2. 微生物からタンパク質粉末を生産し食品に添加できる
  3. 微生物ベース食品は環境負荷が低く将来性があるとされている
summarized by Claude 3

工業排ガスの回収で知られる企業が、今度は食品に目を向けた。燃料・化学工業界の注目株であるランザテック(LanzaTech)が、動物でも植物でもない微生物ベースの代替食品の生産事業という、成長著しい分野への参入を決めた。

微生物を使った食品生産は新たな試みではない。ビール、ヨーグルト、チーズ、テンペは、どれも微生物の力を借りて、生の原料をおいしい飲食物に変身させたものだ。だが、一部の企業は食品の新たなカテゴリーの創出を目指している。微生物そのものを、私たちの食事の主原料にするのだ。

世界の食料生産システムは、人間活動に起因する温室効果ガス排出量の約25〜35%を占め(数字は集計方法によって変わる)、その大部分は畜産業由来だ。代替食料源を確立できれば、世界の食料不足を解消し、気候汚染を抑制するのに役立つ可能性がある。

気候変動が未曾有の異常気象を引き起こすなか、食料生産は今後ますます難しくなると、ランザテックのジェニファー・ホルムグレンCEO(最高経営責任者)は語る。同社の現在の専売特許は、排ガスを回収してエタノールに変換する事業であり、主に製鋼所や埋立地といった場所に導入されている。

同社がエタノール生産に用いるプロセスは、ウサギの腸に生息するバクテリアに依存している。ランザテックでは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素からなる気体を充填したリアクターの内部で微生物を培養している。培養が進むにつれて生産されるエタノールを抽出して次の加工段階に回し、エチレンや燃料といった化学物質に変換する。

このプロセスの副産物として、大量のバクテリアが残る。エタノール生産用のランザテックの既存のプラントでは通常、操作担当者がバクテリアを回収する必要がある。バクテリアは時間とともに増殖するためだ。余剰のバクテリアを回収し、乾燥させると、高タンパクの粉末ができる。ランザテックのテクノロジーを利用する中国のいくつかのプラントでは、すでにタンパク質粉末製品を魚、鶏、豚の飼料として販売している。

そして今回、ランザテックは事業を拡大した。新たな微生物に白羽の矢を立て、未来のプラントの花形として期待を寄せている。カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)は、土壌中や水中に生息する、いわばタンパク質マシンだ。同社によれば、培養・回収・乾燥を終えた後の粉末は、85%以上がタンパク質からなり、人間用と家畜用を問わず、あらゆる食品に添加できる。

代替タンパク質に特化したシンクタンクであるグッドフード・インスティテュート(The Good Food Institute)の報告書によれば、バイオマス発酵(ビールやチーズのように原料加工に微生物を利用するのではなく、微生物そのものが製品の主原料となる生産手法)による食品生産を手掛ける企業は、世界に約80社ある。

業界大手は1980年代から操業を続けている。大手企業が利用しているのは菌糸体菌類だと、グッドフード・インスティテュートの発酵担当首席科学者であるアダム・レーマンは説明する。

レーマンによれば、スタートアップ企業の中には、その他の方法での食品生産に乗り出している企業もある。米国のエアプロテイン(Air Protein)やカリスタ(Calysta)、欧州のソーラーフーズ(Solar Foods)などだ。ランザテックは微生物培養とリアクター運用にかなりの経験を持つため、同社がこの分野に参入することは「業界にとって非常によい兆候」だと、レーマンは述べる。

近年、多くの代替タンパク質企業が難題に直面してきた。植物由来の代替肉製品の売上は減少しており、特に米国では顕著だ。価格上昇に加え、消費者からは、代替肉製品はまだ味でも舌触りでも本物に劣るとの声があがっている。

微生物からの食品生産は、現在私たちが依存しているタンパク源、とくに牛肉のような環境負荷が高いものと比べ、土地や水の利用と温室効果ガス排出を抑えられると、ホルムグレンCEOは説明する。微生物ベース食品はまだ黎明期にあるが、ある最近のレビューによれば、菌類タンパクベースの食品(菌糸体菌類を主原料とするクオーン(Quorn)などの製品)は、概して環境配慮型のプラントベースタンパク質製品(トウモロコシや大豆を原料とするもの)と同等か、それよりも温室効果ガス排出が少ないという。

ランザテックは現在、食品開発の専門企業であるマトソン(Mattson)と共同で、プロトタイプ製品の開発にあたっている。実験では、マトソンがタンパク質製品を小麦粉のように使ったパンを開発したという。パンの味について尋ねると、まだ試食していないと同CEOは答えた。ランザテックはまだ、米国食品医薬品局(FDA)の認可獲得に向けた手続きを進めている最中だ。

これまでのところ、ランザテックの操業規模は比較的小さい。イリノイ州にあるパイロット施設では、1日あたり約1キログラムのタンパク質製品を生産可能だ。同社は2026年までに製品前段階のプラントの運転を開始し、1日に0.5トンの生産を実現できるよう動いている。これは約1万人分のタンパク質の必要摂取量に相当すると、ホルムグレンCEOは言う。フルスケールの製品プラントの運転が始まれば、年間4万5000トンのタンパク質製品を生産できる。

「世界に必要なタンパク質が行き渡るようにしたい」と、ホルムグレンCEOは語る。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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