「で、中国の責任は?」 変わる気候対策の世界地図
温暖化対策において、現在世界で二酸化炭素を最も多く排出している中国に求められる役割は複雑だ。経済が急成長し、気候テック大国でもある同国には、自国の排出量を削減する以上のことを期待すべきだとする声もある。 by Casey Crownhart2024.11.26
- この記事の3つのポイント
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- 中国は世界最大の二酸化炭素排出国だが、排出量削減に向けた進歩の兆しが見られる
- 中国の排出量の急増は、途上国の排出量の割合が増加傾向にあることを反映している
- 途上国支援のための気候資金をめぐり、中国の役割について意見が分かれている
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
「それで、中国についてはどうだろう?」
これは、気候変動の話題に関して、普段の会話やあらゆるソーシャルメディア上で、私がいつも受け取るコメントだ。たいていの場合、このようなコメントは、米国と欧州がこの問題にどう取り組んでいるか(または、どう取り組む必要があるか)に関する意見に対する反応として出される。
時々、みな悪意を持ってこう尋ねているのではないかと思うことがある。これは、両手を上げ、米国と欧州は本当の問題ではないとほのめかし、実質的に「彼らが責任を取らないなら、なぜ私たちが責任を取らなければならないのか」というレトリックになっている。しかし、遊び場で起こるような言い合いの中にも否定できない事実がある。それは、中国が現在、他のどの国よりも圧倒的に多くの温室効果ガスを排出しているという事実だ。中国は世界で最も人口の多い国であり、また気候テック大国でもある。そして同国の経済は今も発展し続けている。
多くの複雑な要因が絡み合う中、私たちは気候変動への取り組みにおける国家の役割についてどのように考えるべきだろうか。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国の二酸化炭素排出量は世界で最も多く、2023年の二酸化炭素排出量は120億トンを超える。
最近の世界の気候データについて紹介した最新記事で指摘しているように、1つの数字だけを見ていると全体像が見失われる。二酸化炭素は何世紀にもわたって大気中に留まる。そのため、異論はあるにせよ、あるの国の現在の排出量だけでなく、今までに排出してきた総量について考えるべきだろう。そのように考えると、米国は依然として世界最大の気候汚染国という称号を得ていることになる。
しかし、11月19日に発表されたカーボン・ブリーフ(Carbon Brief)の新たな分析結果によれば、中国は現在、累積排出量で第2位である。2023年、中国の累積排出量が初めて、EU加盟27カ国がこれまでに排出してきた二酸化炭素の量を上回ったのだ。
これは世界中でより広範に見られるある傾向を反映している。その傾向とは、途上国が以前よりも排出量において大きな割合を占め始めているということだ。1992年に各国が国連気候変動枠組条約に合意したとき、先進国(付属書 I 国(ふぞくしょいちこく)と呼ばれるカテゴリー)の人口は世界人口の約5分の1だったが、排出量については世界の累積排出量の61%という膨大な割合を占めていた。しかし、2024年末までには、それらの国々の累積排出量が世界のそれに占める割合は52%に低下し、今後も減少し続けると予想されている。
世界が地球規模の気候目標を達成するために、中国は他のすべての国々と同様に排出量を大幅に削減する必要がある。ここで重要な点は、中国の排出量は依然として膨大であるものの、この国には進歩の兆しが見られるということだ。
中国の二酸化炭素排出量は、低炭素エネルギー源の記録的な成長により、2024年には減少することが見込まれる。IEAが発表した10月のレポートによれば、この減少は同国が採用する現在の政策の下で今後も継続すると予測されている。中国の石油需要はまもなくピークに達し、その後減少し始める可能性がある。その主な理由は電気自動車(EV)の急速な普及だ。
ここで1つ疑問が浮かび上がってくる。これほどの進歩と急成長する経済を考えれば、中国には自国の排出量削減を進める以上のことを期待すべきなのだろうか。
先日の記事に書いたように、COP29(第29回国連気候変動枠組条約締約国会議)における協議では、発展途上国による気候変動への対応を支援するために、世界規模の気候変動対策資金について、新たに、より積極的な目標を設定することに焦点が当てられている。中国はこの資金の拠出を義務付けられた国々のグループには含まれていないが、同国が世界最大の汚染国であることから、その状況を変えるように求める声もある。
ここで興味深い点が1つある。11月に入って世界資源研究所(World Resources Institute)が発表した調査結果にれば、中国はすでに途上国に対し、毎年数十億ドルもの気候変動対策資金を提供している。中国の指導部は、中国は自発的な拠出のみを実施すると述べ、加えて、資金援助に関する新たな目標の下で依然として義務的な支払い責任を負うべきは、やはり先進国であると述べている。
COP29での協議はあまりうまくいっていない。COP29の議長はより迅速な行動を求めたが、資金の額や、誰が支払うべきかをめぐる内輪もめにより、資金拠出に関する取り決めの協議は停滞している(日本版注:先進国が途上国に2035年までに少なくとも年間3000億ドルの資金を拠出することで最終的に合意し、11月24日に閉幕した)。
二酸化炭素排出と気候変動対策における中国の複雑な役割が会議の唯一の障害という訳では全くない。ドイツ、フランスを含む主要国首脳らは会議への出席予定を取り消し、米国がパリ環境協定から離脱する恐れも差し迫っており、これらが交渉に影響を及ぼしている。
しかし、このような状況における中国の役割をどう考えるかについて意見が分かれていることは、気候変動という問題について責任を割り当てることがいかに難しいか、そして気候変動に関する世界レベルの協議にどれほど多くのことが影響するのかを示すよい例だ。1つ間違いなく言えることは、誰かを非難しても排出量は減らないということだ。
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最新記事で、一緒にデータを掘り下げよう。記事には、世界の二酸化炭素排出の複雑さを視覚的に捉えるのに役立つ3つの資料が含まれている。
COP29で世界の気候対策資金の話が中心となっている理由については、先日の記事で詳細をお読みいただきたい。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。