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トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
Sean Gallup/Getty Images
What’s on the table at this year’s UN climate conference

トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?

11月11日、COP29がアゼルバイジャンの首都バクーで幕を開けた。中心議題は気候ファイナンスだが、米大統領選の結果が重くのしかかる。 by Casey Crownhart2024.11.18

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

さあ、パーティの時間がやってきた。といっても、COP29(第29回国連気候変動枠組条約締約国会議)のことだ。COP29は11月11日、アゼルバイジャンの首都バクーで幕を開けた。毎年約2週間にわたって開催されるこの国際会議は、気候変動に関する世界最大規模の年次会合だ。

今回の主要な議題は、途上国の気候変動対策を支援するためにどれだけの融資枠を設けるか、新たな目標を設定し、締約国の間で合意することだ。そして、議論をさらに紛糾させそうな要素がある。米国の次期大統領の気候変動に対するアプローチが、現政権とはかなり異なるものであることだ(これ以上ないくらい控えめな表現だ)。

COP29は、今後数年間の世界の気候変動対策の基調を定める重要なイベントだ。COP29について知っておくべきことと、そこにドナルド・トランプ次期大統領の再選がもたらしうる影響を見ていこう。

国連気候変動枠組条約締約国会議は、およそ200の国々が集結し、気候変動について議論する(そして願わくば行動に移す)、年に一度のチャンスだ。過去のCOPの成果でもっとも有名なのは、2015年のパリ協定だろう。このとき世界各国は、地球温暖化を産業革命前から1.5℃以内に抑える努力目標に合意した。

今年の開催地はアゼルバイジャンであり、石油依存国での開催となる。2022年時点で、石油・天然ガス生産は同国の輸出額の90%以上を占め、GDPの半分近くに相当する。気候サミットの開催地としては、抜群に皮肉が効いている。

今年の最重要議題は、グローバル気候ファイナンスだ。具体的には、途上国の気候変動の緩和と適応の支援に、どれだけの金額が必要かというものである。現在の目標は2009年に設定されたもので、先進国が毎年1000億ドルを途上国に提供する目標が定められている。この目標の期限は2020年だったが、出資国の報告書に基づき総額を記録している経済協力開発機構(OECD)によれば、実際に目標額が初めて達成されたのは2022年のことだった。現在のところ、資金のほとんどは公的資金で提供されている。

問題は、1000億ドルという数字が、多少なりとも恣意的に設定されたものであることだ。2015年のパリのCOPで、締約国は2025年にさらに高い新目標を設定すること、その際には途上国が実際に必要としている金額を考慮に入れることに合意した。

マジックナンバーは年間1兆ドル程度になるとみられている。しかし、目標がどこに落ち着くかは依然として不透明だ。何しろ、ありとあらゆる面に意見の相違があるのだ。最終的な数字はいくらになるのか? どういった資金を計上するのか? 公的資金だけなのか、それとも民間投資も含むのか? どの国が出資するのか?目標の期限はいつになるのか? 資金は具体的にどんな対策に使われるのか?

こうした細部を固めるために、いま各国が一堂に会しているのだ。しかし、交渉には1つ、不穏な影がさしている。ドナルド・トランプ次期大統領のホワイトハウスへの復帰だ。

先日の記事で報じた通り、トランプ再選により、排出削減の進展が、気候変動対策に真剣な政権であれば実行するであろう水準を下回るものになることは、ほぼ確実だ。しかし、米国の排出削減(あるいはその停滞)以上に影響が大きいとみられるのは、トランプ次期大統領が米国の気候変動に対する立場を、国際会議の場でどれだけ転換させるかだ。

これまで米国は他のどの国よりも大気中に二酸化炭素を排出し、汚染を生み出してきた。米国の1人あたり排出量は世界一であり、もちろん世界一の富裕国だ。気候ファイナンスに関する会議で主導権を握るべき国があるとしたら、米国にほかならない。しかし、トランプ次期大統領はまもなく大統領に就任する。そのあと何が起こるかはご存知の通りだ。

前回の任期中、トランプ大統領は米国をパリ協定から離脱させた。今回も再び同じことをすると公約している。さらに一歩進んで、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)そのものから手を引くかもしれない。パリ協定からの離脱が議場からの退席を意味するとしたら、UNFCCCからの離脱は、ロケットに飛び乗って明後日の方向に飛び去るようなものだ。より過激な行動であり、将来的に覆すことが困難になるかもしれない。ただし専門家の間でも、厳密に言ってトランプ大統領にその権限があるかどうか、意見は分かれている

米国が次にどう動くかが不確かな状況は、交渉に影を落としている。「今回はより難しい交渉になるでしょう。ダイナミックに、力強く、確信をもって気候変動対策を支援する米国は、もういないのですから」。独立系気候アドバイザーで、過去には英国政府代表団としてCOP26に参加したカミラ・ブラウンは、カーボンブリーフ(Carbon Brief)が主催した先日のオンラインイベントで語った。

他国がこの空白を進んで埋めるだろうと予想する専門家もいる。「気候変動対策の原動力はホワイトハウス以外にもたくさんあります」。パワーシフト・アフリカ(Power Shift Africa)の創業者兼代表であるモハメド・アドウは、前述のカーボンブリーフのイベントで述べた。

気候業界の現在の雰囲気を一言でまとめるなら、不確実だ。しかし、今後2週間の交渉の行方から、今後数年間に期待できることのヒントが得られるかもしれない。トランプ政権は、世界の気候変動対策をどれだけ遅らせるだろう?欧州連合は議論を主導できるのか? それとも、気候分野のリーダーとしての中国の台頭が決定的となるのか? 今後の動向に注目だ。

関連記事

過去数年のCOPの文脈を詳しく知りたい方は、COP28での脱化石燃料の転換をめぐる応酬を報じた昨年の記事や、COP27での「損失と損害」基金についての交渉を取り上げた記事がおすすめだ。


その他の話題

トランプの再選は、経済と私たちの生活に重大な波及効果をもたらすだろう。彼の勝利が気候変動対策の悲劇的敗北であることは、本誌のジェームズ・テンプル記者が論説記事で述べた通りだ。未読の方はぜひ目を通して、今後4年間とその後に起こりうるさまざまな帰結への理解を深めよう。

気候関連の最新の話題

米環境保護庁は、石油・ガス企業によるメタン排出に対する罰金規則を確定させた。この罰金制度は、2022年のインフレ抑制法で定められたものだ。(AP通信
→トランプ政権下でのこの規則の行方は不透明だ。業界団体からはすでに撤廃を望む声が聞かれる。(NPR

米環境保護庁(EPA)といえば、ドナルド・トランプは元共和党下院議員(ニューヨーク州選出)のリー・ゼルディンを長官に指名した。ゼルディンは気候政策や経済政策での実績で知られる人物ではない。(ニューヨーク・タイムズ

石油メジャーのBPは、初期段階にある水素プロジェクトを縮小させている。同社は収支報告で、18のプロジェクトを中止し、現在は5〜10のプロジェクトの継続を予定していると明かした。(テッククランチ

アンチ再生可能エネルギーの投資家たちは先日、12億ドル近い莫大な利益をあげ、同セクターの株価は暴落した。フィナンシャル・タイムズ

リン酸鉄リチウムイオン電池が世界を席巻している。少なくとも、電気自動車の世界を。このタイプのリチウムイオン電池は、ニッケルを含むタイプと比べて安価で長持ちするが、より重いのが欠点だ。(カナリーメディア
→わたしは昨年、電池とその原料をめぐるこうしたトレンドについて、ニュースレターで取り上げた。(MIT Technology Review

米国は2050年までに原子力発電能力を3倍に引き上げるという目標を掲げる。実現すれば、安定利用可能な電力が200ギガワット増加する計算だ。(ブルームバーグ

英国で、数百万戸の住宅に電力を供給する5つの海底ケーブル計画が承認された。このプロジェクトは英国と他国の電力網を接続し、オランダ・ベルギーの経済水域にある洋上風力発電所とも接続する。(ガーディアン

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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