草の根からスタートアップへ
急成長遂げるアフリカの
AIエコシステム
研究者の自発的な集まりから始まったアフリカのAI会議は、いまや47カ国に広がるムーブメントへと成長、スタートアップの創業にもつながっている。資金不足やインフラの課題と向き合いながら、独自の発展を遂げるアフリカAIコミュニティの現状と課題とは。 by Abdullahi Tsanni2024.11.18
- この記事の3つのポイント
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- スタートアップや資金調達の活発化などアフリカでAI分野が盛り上がりを見せている
- 資金とインフラ不足、アフリカ言語のデータ不足がAI開発の障壁になっている
- アフリカ大陸全体でのAI戦略をめぐり研究者間で意見の相違も
ケッセル・オキンガ・コウムは、混み合った廊下を歩き回っていた。話を聞こうと集まったアフリカの機械学習コミュニティの研究者で埋め尽くされた会場で、彼女は「ディープラーニング・インダバ(Deep Learning Indaba)」への登壇はこれが初めてだと語った。
1週間にわたるこの年次カンファレンス(「インダバ」はズールー語で集会を意味する)は、直近では今年9月、セネガルのダカールにあるアマドゥ・マハタール・ムボウ大学で開催された。700名を超える参加者が集まり、アフリカ中心の人工知能(AI)の可能性、さらには農業、教育、医療、その他大陸経済の重要分野におけるAI導入のあり方について講演を聞き、議論を交わした。
南アフリカのケープタウンにある西ケープ大学でコンピューター科学を学ぶオキンガ・コウム(28歳)は、大学の研究室における実験機器の不足という、一般的な問題に対する自身の取り組みを発表した。講師たちは長らく、顕微鏡、遠心分離機、その他高額なツールを必要とする実習を、黒板や印刷物を使ってシミュレーションすることを余儀なくされてきた。「実習中に装置の絵を学生の描かせることもあります」と彼女は嘆いた。
オキンガ・コウムはブルージーンズのポケットからスマートフォンを取り出し、自身が作ったWebアプリのプロトタイプを開いた。このアプリは、学生が必要な実験機器を拡張現実(AR)とAIの機能を利用してシミュレーションでき、教室や実験室といった実際の環境で3Dモデルのツールを探索できるようになっている。「学生は実験機器の詳細なARを通じて、より効果的で実践的な体験を積むことができます」とオキンガ・コウムは説明した。
2017年に立ち上がった「ディープラーニング・インダバ」は、現在アフリカ55か国中47カ国に支部を持ち、オキンガ・コウムのようなアフリカのAI研究者たちにトレーニングとリソースを提供することで、アフリカ大陸全体のAI開発を促進することを目指している。アフリカはまだAIテクノロジー導入の初期段階にあるが、比較的若く高学歴の人たちが増えてきていること、AIスタートアップ企業のエコシステムが急速に成長していること、潜在的な消費者が多いことなどの複数の理由から、アフリカ大陸は他に類を見ないほどAIを好意的に受け入れていると主催者は説明する。
「地域の状況に合わせたAIソリューションを構築し、所有することは、衡平な開発のために極めて重要なことです」。グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の上級研究科学者で、カンファレンス主催組織の共同創設者、シャキール・モハメドは話す。アフリカは世界の他の大陸以上に、AIによって特定の課題に対処し、若き才能から多大な恩恵を受ける可能性を秘めているという。「アフリカ大陸の至るところに、すばらしい専門技能が存在します」。
その一方で、アフリカの人々のニーズに応えるAIツールを開発しようという研究者の野心的な取り組みは、多くのハードルに直面している。最大のハードルは資金とインフラ整備の不足だ。AIシステムの構築に多額の必要がかかるだけでなく、アフリカの多くの大学で言語学部が資金に窮しており、現地語を話したり書いたりできない人が増えていることも、アフリカのオリジナル言語でAI訓練データを提供する研究を妨げている。また、インターネットの接続環境が限られており、国内のデータセンターが不足していることも、最先端のAI機能を展開する上での障壁だ。
この状況をさらに複雑にしているのが、AIの莫大な利益を活用し、その欠点を規制するための包括的な政策や戦略の欠如である。さまざまな政策の草案はあるものの、アフリカ全体の戦略については研究者間で意見が対立しており、どの政策がアフリカに最も利益をもたらすか、そして技術的イノベーションをしばしば支援してきた裕福な欧米諸国や企業ではなく、アフリカにとって何が最善なのかについても、意見が分かれている。
研究者らは、これらの問題が積み重なってアフリカのAI分野の足かせとなり、世界的なAI競争で独自の道を切り開く取り組みが妨げられるのではないかと懸念している。
変化の最前線で
アフリカの研究者たちは、生成AIの優れた機能を最大限に活用している。たとえば南アフリカでは、HIVの蔓延に対処する助けとなるよう、科学者らが大規模言語モデル(LLM)ベースのチャットボットを搭載した「ユア・チョイス(Your Choice)」というアプリを開発した。このアプリは、利用者の性的履歴を対話を通じて偏見や差別なく取得できるようになっている。ケニアでは、農場経営者がAIアプリを活用し、作物の病気を診断、生産性を向上させている。また、ナイジェリアでは、「アワリ(Awarri)」という新興AIスタートアップ企業が政府の支援を得て、ナイジェリア言語のAIツールへの統合を目指して同国初のLLMの構築に取り組んでいる。
ディープラーニング・インダバは、アフリカのAI研究シーンの発展ぶりを示すもう1つのサインでもある。ダカールで開かれたカンファレンスでは、150枚のポスターと62本の論文が発表された。主催者組織のモハメドによると、うち30本は一流の学術誌に掲載される予定だという。
一方、2013年から2022年にかけて発表されたAI関連の論文1646本を分析したところ、アフリカ発の論文の「著しい増加」が見られた。また、アフリカ諸言語の自然言語処理(NLP)研究を推進するディープラーニング・インダバの関連団体「マサハネ(Masakhane)」は2018年の設立以来、400以上のオープンソースモデルと20のアフリカ言語データセットをリリースしている。
「これらの数字は、現在進んでいる能力開発を象徴するものです」。ケニア出身のコンピューター科学者で、母国語であるスワヒリ語のN …
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