氷の先に生命体は存在するか
極限環境を突破する
エウロパ探査ロボのアイデア
10月14日、NASAの木星系探査機「エウロパ・クリッパー」が打ち上げられた。同探査機が目標地点に到達するのは2030年だが、科学者たちはすでにその次を見据えている。斬新なアイデアのロボットを用いて、厚さ16キロ以上の氷殻の下に広がる海で生命体を探す探査プロジェクトだ。 by Robin George Andrews2024.11.13
- この記事の3つのポイント
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- 木星の衛星エウロパの地下海に生命体が存在する可能性がある
- エウロパ探査には過酷な環境に耐えられる技術の開発が必要不可欠だ
- 世界中の研究者が氷を突破し海を探査するロボットの実用化を目指している
2024年10月14日、ついに米国航空宇宙局(NASA)の探査機「エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)」が木星へ向けて打ち上げられた。この50億ドルを投じたミッションは、資金面と技術面の数々のハードルを乗り越え、フロリダ州のケネディ宇宙センターで打ち上げを成功させた。現在、木星の衛星「エウロパ」を目指して飛行中だ。表面が氷の地殻で覆われたエウロパの地下には、温かい塩水の海が広がっていることが確実視されている。エウロパ・クリッパーは目標地点に到達後、エウロパの氷殻の下に広がる海洋の性質を理解し、そして一番の目的である生命体が生息可能な場所を調べるために、数十回にわたって接近通過飛行(フライバイ)をすることになっている。
エウロパ・クリッパーが目標地点に到達するのはまだ何年も先で、実際、木星系に到達するのは2030年の予定である。それでもエンジニアや科学者は、その結果が有望であれば続いて実施するミッション、つまり生命体そのもののエビデンス(科学的根拠)を発見するプロジェクトのために研究を続けている。
生命体を発見するプロジェクトの構成要素はおそらく、着陸機(ランダー)、自律型解氷ロボット、そして何らかの自律航行型潜水艇の3つとなるだろう。実際、複数の国でさまざまなグループがすでに海氷下潜航ロボットやスマート潜水艇のプロトタイプを実用化しており、今後数年のうちにアラスカや南極大陸など地球上のさまざまな極寒の地で試験をすることになっている。
しかし、エウロパの過酷な環境は、地球の海洋とは似ても似つかない。エウロパの海洋を探査するには、電子回路が焼損してしまうような絶え間なく降り注ぐ放射線に耐えられるように、ミッションを成功させる方法をエンジニアは考え出さなければならない。また、エベレストの高さの少なくとも2倍の厚さがある氷殻を突き破らなければならない。
「可能性の限界に迫る難しい問題が数多く存在します」。ウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institution)深海潜水研究室(Deep Submergence Laboratory)の自律型ロボットシステムの専門家、リチャード・カミリ博士は語る。しかし、どこかから始めなければならない。地球の海は重要な実験の場となるだろう。
「私たちは、これまで誰もやったことのないことをしています」。ドイツのブレーメン大学海洋環境科学センター(Center for Marine Environmental Sciences:MARUM)の研究者で、未来的なエウロパ潜水艇のひとつの開発に協力しているセバスチャン・メッケル博士は話す。実地試験が成功すれば、これらの水中探査機の後継機が地球外生命体の最初のエビデンスを発見する可能性は十分にある。
極度に難しい降下
地球外生命体の痕跡探しは、地球の近くのちりに覆われた小さな惑星である火星で主に実施されてきた。氷に覆われた海が広がる世界での生命体探しは、これとはまったく新しい(未知の)問題だが、宇宙生物学者は取り組む価値は十分にあると考えている。火星では、非常に低温で乾燥した地表やそのすぐ下で、過去に生息していた微生物のエビデンスが発見されることが期待されている。しかし、豊富な液体の水(木星の強力な引力によって内部摩擦と熱が大量に発生するため、温かく保たれている)が存在するエウロパでは、微生物や、もしかしたらそれよりも進化した小型水生動物が今も存在している可能性がある。
ただ残念なことに、エウロパの環境の過酷さは、少なくとも、その隠れた海より上層では間違いなく、太陽系の中でトップクラスだ。
NASAのエウロパ・クリッパーは2030年に木星系に到達すると、木星の巨大で強力な磁場によって巻き上げられ、主にエウロパ自体に降り注いでいる高エネルギー粒子の絶え間ない嵐に直面することになる。カミリ博士によると、「普通の人なら数秒で死んでしまうほどです」。エウロパに人間が居合わせる予定はないが、その放射線は非常に強いため、ほとんどの電子回路が故障してしまう可能性がある。これはエウロパ・クリッパーにとって大きな危険要因だ。そのためエウロパ・クリッパーは、周回軌道が周期的にエウロパに接近するときに、すばやくフライバイのみをすることになっている。
エウロパ・クリッパーは、エウロパ自体に接触することはない。だが、エウロパの海の物理的および化学的特性を調査できるすばらしいリモートセンシング・ツール一式を装備している。しかし、ほとんどの科学者は、生物活動のエビデンスを発見するには、エウロパの氷殻を突き破ってその下の海の中を泳ぎ回るものが必要になるだろうと考えている。
幸いなことに、エウロパの生命体探査ミッションには、その基盤となるすばらしい技術的遺産がある。長年にわたり、科学者はロボット潜水艇を開発・配備し、深海に生息する奇妙な生き物や風変わりな地質の数々を発見してきた。ロボット潜水艇には、水上 …
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