KADOKAWA Technology Review
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フェイスブックを追放されたVR起業家はなぜ、軍事ビジネスに転じたのか
Philip Cheung
Palmer Luckey’s vision for the future of mixed reality

フェイスブックを追放されたVR起業家はなぜ、軍事ビジネスに転じたのか

VRヘッドセット企業オキュラス(Oculus)の創業者は、新たな企業を立ち上げ、ターゲットを消費者から軍へと方向転換した。「VRの天才」と呼ばれた人物は、なぜ軍事ビジネスに転じたのか。 by Melissa Heikkilä2024.11.14

この記事の3つのポイント
  1. シリコンバレーのテック企業が軍事用AIビジネスで利益を得ている
  2. 軍事用AIの倫理性をめぐる議論が続いているが規制は進まない
  3. 透明性を求められないなど、軍事ビジネスはテック企業にとって好都合
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

戦争は変化の触媒である——。2022年、人工知能(AI)と戦争のある専門家が私に話した。当時はウクライナでの戦争が始まったばかりで、軍事AIビジネスが活況を呈していた。それから2年が経ち、地政学的緊張が高まり続ける中で、事態は激しさを増す一方だ。

シリコンバレーで活動する者たちは、利益を享受する態勢を整えている。そのうちの1人が、フェイスブックに20億ドルで売却された実質現実(VR)ヘッドセット企業オキュラス(Oculus)の創業者、パルマー・ラッキーだ。メタ(旧フェイスブック)から追放されたことで世間の注目を集めたラッキーは、その後、ドローンや巡航ミサイルなど、AIで強化された米国防総省(DOD)向けテクノロジーに特化した企業、アンドゥリル(Anduril)を創設した。同社は現在、140億ドルの評価を受けている。本誌のジェームス・オドネル記者がラッキーにインタビューし、長年温めてきた新たなプロジェクトである軍事用ヘッドセットについて話を聞いた。

ラッキーは、複合現実(MR)ハードウェアの価値を最初に見出すのは消費者ではなく、軍であるとの確信をますます深めている。「すべての民間人にARヘッドセットが普及するずっと前に、兵士全員がARヘッドセットを装着するようになるでしょう」。一般消費者の世界では、ヘッドセットのメーカーはどこもスマホの普及率や使い勝手と競争しているが、防衛分野ではまったく別のトレードオフがあるとラッキーは考えている(インタビュー記事はこちら)。

軍事目的でのAIの使用には、賛否両論がある。 2018年にグーグルは、ドローン攻撃の改善を目的に画像認識システムの構築を目指すペンタゴン(米国防総省)の取り組み「プロジェクト・メイブン(Project Maven)」から撤退した。このテクノロジーの倫理性をめぐり、スタッフが離脱したことを受けての撤退だった(その後、グーグルは防衛部門向けのサービス提供に復帰した)。「殺人ロボット」とも呼ばれる自律兵器については、長年にわたり禁止を求める運動が続いているが、米国などの強力な軍事力を持つ国は禁止に同意していない。

しかし、さらに大きなブーイングの声が浴びせられているのは、シリコンバレーの影響力のある一派である。その中の1人であるグーグルの元CEOエリック・シュミットは、軍に対して、敵対国よりも優位に立つためにAIを採用し、投資額を増やすことを呼びかけている。世界中の軍隊が、このメッセージを非常に素直に受け入れてきた。

テクノロジー・セクターにとっては都合がいい。まず、軍との契約は長期かつ利益が高い。直近では、ペンタゴンがマイクロソフトとオープンAI(OpenAI)から検索、自然言語処理、機械学習、データ処理のためのサービスを購入したと、ジ・インターセプト(The Intercept)が報じている。パルマー・ラッキーはジェームス記者とのインタビュー中、新たなテクノロジーにとって軍隊は完璧な実験場であると語っている。兵士たちは言われたとおりに動くし、消費者ほどえり好みしないと、ラッキーは説明する。また、価格に敏感でもない。軍隊は、最新版のテクノロジーを手に入れるために割高な出費をすることを気にしない。

しかし、このようなリスクの高い分野で強力なテクノロジーを拙速に採用することには、重大な危険がある。基盤モデルは、たとえば機密情報が漏洩することで、国家安全保障とプライバシーに深刻な脅威をもたらすと、AIナウ(AI Now)研究所の研究者たち、および通信プライバシー団体シグナル(Signal)のメレディス・ウィテカー代表は、新たな論文の中で主張している。プロジェクト・メイブンに対する抗議運動の中心的な主催者であったウィテカーは、AIの軍事化の推進は実際のところ軍事作戦の改善というよりも、テック企業を儲けさせることが目的であると述べてきた。

透明性に関するルールの厳格化が求められているにもかかわらず、各国政府が自主的な倫理コミットメントを超えて、有意義な方法で自国の国防部門を制限する可能性は低いだろう。今はAIによる実験の時代であり、軍隊は何よりも高いリスクを負ってあれこれ試している。そして、軍の秘密主義的な性質のおかげで、テック企業各社は透明性や十分な説明責任すら必要とせずに、このテクノロジーを実験できる。シリコンバレーには非常に好都合な状況なのだ。


無人自動運転車の意外な課題にどう対処するか

英国の無人自動運転車スタートアップ企業であるウェイブ(Wayve)は、西へ向かっている。ウェイブの自動車はロンドンの路上で運転方法を学習した。だが、同社はサンフランシスコ周辺でもその技術テストを開始すると発表した。そのことは新たな課題を提起している。左側通行から右側通行に切り替える必要があるのだ。

現在、全力で対処を進めている。英国訪問者あるいは英国出身者なら理解できるだろう。この切り替えは想像以上に難しい。道路の見え方、車の曲がり方、すべてが異なるのだ。米国への進出は、ウェイブのテクノロジーの試金石となるだろう。ウェイブは自社の技術について、多くのライバル企業が提供しているものよりも汎用性が高いと主張している。ウェイブはこれから大西洋を越え、クルーズ(Cruse)、ウェイモ(Waymo)、テスラ(Tesla)といった成長を続ける自動運転車業界の有力企業たちと真っ向から勝負することになる。  ウェイブの自動車に試乗し、さらに多くのことを明らかにしたウィル・ダグラス・ヘブン編集者の記事を読もう

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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