画期的な遺伝子編集ツール「CRISPR(クリスパー)」の共同開発者であるカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ生化学教授は、この技術が、高温化、乾燥化、湿潤化、あるいは極端化する気象条件に適応した作物や動物を生み出すことで、世界が増大する気候変動のリスクに対応する助けになるだろうと述べている。
CRISPRの発見に貢献した功績により2020年のノーベル化学賞を共同受賞したダウドナ教授は、「CRISPRには非常に大きな可能性が秘められています」と語る。「今、CRISPRによる革命がまさに始まろうとしています」。
ダウドナ教授が設立したイノベーティブ・ゲノミクス研究所(IGI)は10月、カリフォルニア大学バークレー校で気候と農業に関するサミットを開催した。このサミットでは、増大する気候変動の危険性に対処するためにゲノム編集が果たせる役割について講演者らが議論した。ダウドナはこの非公開イベントの合間に、MITテクノロジーレビューの短いインタビューに応じた。
12年前、ダウドナ教授が共同執筆したCRISPR技術に関する画期的な論文がサイエンス(Science)誌で発表された。この論文では、細菌の免疫系がDNAの特定の部分を見つけ出し、切り取るようプログラムできることが実証された。この「ゲノム編集ハサミ」を利用した世界初の承認治療である鎌状赤血球症の遺伝子療法が患者に提供され始めている。また、CRISPRを活用して作られた食品も増え続け、徐々に食料品店の棚に並びつつある。
CRISPRで編集された植物や動物はさらに増えつつあり、その多くは気候変動が引き起こす厳しい環境下で生き延びたり繁栄したりするのに役立つ形質を持つよう改変されている。これにより、遺伝子工学における長年の約束の1つが実現し始めている。その一例として、ミネソタ州に拠点を置く精密育種企業アクセリジェン(Acceligen)が、高温環境に適応しやす短毛になるよう編集した2頭の牛の子孫が挙げられる。2022年には、米国食品医薬品局(FDA)がこれらの遺伝子編集牛の肉や製品について、「人間、動物、食糧供給、環境に対するリスクが低い」と認定し、米国消費者への販売を承認した。
CRISPRを活用している他の企業は、激化する暴風雨による作物被害を減らすための短く丈夫な茎を持つトウモロコシや、より多くの二酸化炭素を隔離してバイオ燃料の生産に役立つ新しい被覆作物、さらに気候変動によって広がりつつある鳥インフルエンザなどの人獣共通感染症に耐性を持つ動物の開発に取り組んでいる。
IGIとしては、乾燥した気候に耐えられるイネや、気候変動を引き起こす主要な温室効果ガスである二酸化炭素をより多く吸収・貯蔵できる作物の開発に取り組んでいる。
ある生物の遺伝子を別の生物に組み込むという従来の遺伝子組み換え手法によって、除草剤に耐性のある作物や、害虫に強いトウモロコシ、ジャガイモ、大豆など、すでに農業分野では大ヒット作が世に送り出されている。このような遺伝子組み換えツールを使って作物を変化させると、いわゆる「フランケンシュタイン食品」がアレルギーを悪化させ、人間に病気をもたらすのではないかという懸念が沸き起こったが、こうした健康上の懸念は大げさに誇張されたものだった。
従来の遺伝子組み換え手法では、ある生物の遺伝子を別の生物に移すことで、除草剤に耐性のある作物や、害虫に強いトウモロコシ、ジャガイモ、大豆などがすでに農業分野で成功を収めている。このような技術を用いた作物改変は、いわゆる「フランケンシュタイン食品」がアレルギーを悪化させ、人間に病気をもたらすのではないかとの懸念を引き起こしたものの、こうした健康リスクへの懸念は大げさに誇張されたものだった。
植物や動物の既存ゲノム内のDNAの特定部分を正確に除去できるCRISPRの能力により、気候変動に強い作物や家畜をこれまでより迅速かつ容易に作ることが可能となり、従来の育種や遺伝子編集技術にあった多くの課題を回避できると期待されている。さらに、こうした技術によって得られる製品の多くは他の生物のDNAを含まないため、バイオテクノロジー応用製品と見なされないことが多く、一般消費者にとっても魅力的なものになる可能性がある(ただし、CRISPRは外来遺伝子を導入するトランスジェニック動植物の作成にも利用できる)。
「これらの製品が実際に世に出てくるのを見るのは、とても意義深いことです。特に、私たちが気候変動や人口増加に直面している中で、これらは現実世界において非常に重要な影響を与えるからです」。ダウドナ教授はこう述べる。
しかし、変革をもたらす新しい作物や動物を開発し商業化 …