AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
コードを1行も書かずに、AIだけでマインクラフトのような世界を創り出す——。米AI企業2社は、プレイヤーの動きに合わせてリアルタイムで映像を生成するデモを公開した。 by Scott J Mulligan2024.11.11
- この記事の3つのポイント
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- 米AI企業がマインクラフト風ビデオゲームをAIがリアルタイムに生成するデモを公開
- ネクストフレーム予測と呼ばれる手法で環境や操作を再現している
- 新チップの開発により性能向上とコスト削減を目指している
AI企業のデカルト(Decart)とエッチド(Etched)が開発した「マインクラフト」風ビデオゲームの中を歩き回ると、少し違和感を覚えるかもしれない。確かに、本物のマインクラフトと同じように前進し、木を切り倒し、土ブロックを置くことができる。だが、後ろを振り返ると、たったいま置いたばかりの土ブロックがまったく新しい環境に変わっていることがある。本物のマインクラフトではそんなことは起こらない。このマインクラフトゲームの画面は、すべてAIが生成している。人間は1行もコードを書いていない。だから幻覚(ハルシネーション)が発生しやすいのだ。
デカルトとエッチドにとって、このマインクラフト風デモは概念実証(PoC)である。両社は、このテクノロジーが一般的な動画やビデオゲームのリアルタイム生成に使われる可能性を想像している。「あなたのスクリーンが、ある種の想像上の世界に変わる可能性があります。それは、コード化される必要のない、臨機応変にその場で変更可能な世界です。そしてそれこそが、私たちがここで目標にしようとしていることです」。先週、デモを公開したばかりのデカルトのディーン・ライタースドルフ共同創業者兼CEOはこう話す。
デカルトとエッチドが作ったマインクラフト風デモは、「ネクストフレーム予測(next-frame prediction)」と呼ばれる手法でリアルタイムに生成される。両社は、独自モデルの「オアシス(Oasis)」を、数百万時間ものマインクラフトのゲームプレイと、ゲーム内でユーザーが取るであろう付随アクションの記録によって訓練した。オアシスはこの訓練データだけを使って、マインクラフトの物理現象、環境、操作を整理できるようになった。
両社は、現時点ではまだ多くの不具合があることを認めている。解像度はかなり低く、一度に数分しかプレイできず、前述のような幻覚が発生することもしばしばだ。だが両社は、チップ設計のイノベーションとさらなる改良によって、より忠実に再現されたマインクラフトや、あるいは他のどのようなゲームでも開発できない理由はないと考えている。
「もし、『ここに空飛ぶユニコーンを追加して』とか、『ここにあるものをすべて中世風に変えて』と言えば、実際にそのようになるのです。または、『これをスター・ウォーズ風にして』と言えば、全部スター・ウォーズ風に変わります」。ライタースドルフCEOは言う。
現在の大きな制約となっているのは、ハードウェアだ。現在のデモ版ではエヌビディア(Nvidia)製のGPUに頼っているが、将来的にはエッチドが開発中の新しいチップ「Sohu」を使うことを予定している。このチップによって性能が10倍向上するとエッチドは主張している。実現すれば、リアルタイムのインタラクティブ動画を制作するのに必要なコストとエネルギーが、大幅に削減される。現在のデモ版よりも優れたバージョンを作ることが可能になり、このゲームをより長い時間、幻覚の発生頻度を減らし、より高解像度で実行できるようになるという。両社によれば、この新しいチップによって、より多くのプレイヤーが一度にこのモデルを使用することも可能になるという。
「AI用に特別に設計されたチップは、大幅な性能とエネルギー効率の向上を実現させる可能性を秘めています」。ニューヨーク大学タンドン校のシッダールト・ガーグ教授(電気・コンピューター工学)は言う。ガーグ教授はエッチドともデカルトとも関係はない。
エッチドによれば、同社の利益はAI開発に特化したカードの設計から得られているという。たとえば、このチップはシングルコアを使用し、エッチドによれば、複雑な数学演算をより効率的に処理することが可能になるという。また、このチップは、訓練(AIがデータから学習すること)よりも推論(AIが予測を行うこと)に重点を置いている。
「現在市販されているどのチップよりも、はるかに特殊化されたものを作っています」。エッチドのロバート・ワチェン共同創業者兼COOは話す。エッチドは来年、この新しいチップでプロジェクトを実行することを計画している。このチップはまだ市場に出ておらず、またその能力が確認できていないため、エッチドの主張は実証されていない。また、市販の高性能GPUがすでにある程度AIに特化していることを考えると、「より賢い設計、またはより特化した設計だけで性能が10倍向上するというのは、非常に疑わしい」とガーグ教授は考えている。
だが、両社には大きな野望がある。効率性の向上がエッチドの主張するレベルに近いものであれば、リアルタイムのバーチャルドクターや家庭教師の実現が可能になると確信している。「それらはすべて、これから次々に登場します。そして、より良いアーキテクチャと、それを動かすより優れたハードウェアを手に入れることで、実現されるのです。それこそが、この概念実証で人々に伝えたいことなのです」(ワチェンCOO)
デカルトとエッチドが作ったマインクラフト風デモは、当分の間ここで体験できる。
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- スコット・J・マリガン [Scott J Mulligan]米国版 AI担当記者
- 政策、ガバナンス、AIの内部構造などを取材するAI担当記者。AIに特化した若手ジャーナリスト育成プログラム「ターベル・フェローシップ(Tarbell Fellowship)」の支援を受けている。ヴァイス(VICE)ニュースでのドキュメンタリー映像制作、ビデオゲーム・デザイナーなどを経て現職。