KADOKAWA Technology Review
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パルマー・ラッキー
軍事用MRで再起をかける
「VRの天才」が描く未来
Philip Cheung
人工知能(AI) Insider Online限定
Palmer Luckey on the Pentagon’s future of mixed reality

パルマー・ラッキー
軍事用MRで再起をかける
「VRの天才」が描く未来

オキュラスVRの創業者として知られるパルマー・ラッキーは今、米陸軍の野心的なMRヘッドセットの開発に取り組んでいる。メタ(旧フェイスブック)退社後、防衛企業アンドゥリルを率いるラッキーが目指すのは、AIで増強された「未来の戦士」の実現だ。 by James O'Donnell2024.11.08

パルマー・ラッキーは、ある意味で一周して原点に戻った。

ラッキーが初めて実質現実(VR)ヘッドセットに触れたのは、南カリフォルニアのある防衛研究センターで研究員として働いていた十代の頃である。VRテクノロジーで退役軍人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を抑えられないかを探っていた。その後、ラッキーはオキュラス(Oculus) VRを開発し、後にフェイスブックに20億ドルで売却。世間でも大騒ぎになった解雇劇の末にフェイスブックを去り、米国防総省(DOD)向けのドローン、巡航ミサイルなどのAI活用テクノロジーを専門とするアンドゥリル(Anduril)を創業した。同社の評価額は現在140億ドルにのぼる。

そして今、ラッキーは再び軍事用ヘッドセットに力を入れるようになった。9月、アンドゥリルは、マイクロソフトと提携して米陸軍の「統合視覚増強システム(IVAS)」を開発することを発表した。軍による戦闘支援ヘッドセット開発プロジェクトとしておそらく最大規模である。IVASプロジェクトはアンドゥリルの最優先事項だとラッキーは説明している。

IVASゴーグルの事業に関するMIT Technology Reviewの先週のインタビューの中で、ラッキーは「ごく近い将来にどの兵士もヘッドアップディスプレイを装着するようになるでしょう」と述べている。「私たちが開発している製品が、そのうちの大きな部分を占めることになるはずです」

ラッキーが複合現実(MR)の分野のベテランであることに異を唱える者はまずいないが、IVASプログラムに対するその楽観的な展望に共感する専門家は少ない。むしろ、これまでのところは失敗続きだと思われている。

IVASは、兵士用の最先端MRヘッドセット開発計画として2018年に初めて承認を受けた。2021年3月、マイクロソフトは約220億ドルでこのプロジェクトを進める10年契約を結んだが、すぐに遅れが生じ始めた。わずか1年後には、米国防総省の監査で、プロトタイプ設計時に適切なテストが実施されていなかったとの指摘が入り、このプログラムは「兵士が使いたがらない、あるいは当初の目的どおりに使わないシステムの導入に、最大218億8000万ドルの税金を浪費してしまう可能性がある」と批判された。ブルームバーグが入手した内部文書によると、陸軍が1万ユニットを購入した初期の2バージョンのゴーグルを使用した兵士は吐き気、首の疼痛、眼精疲労を訴えたという。

こうした報告もあって、IVASは、その予算の決定にかかわる上院軍事委員会のメンバーから厳しい制約を課されている。5月に開かれた小委員会会議で、アーカンソー州選出の共和党上院議員・筆頭理事のトム・コットンは、IVASの遅々として進まない開発状況と高いコストに不満を表明。7月に委員会は同プログラムの予算を2億ドル削減することを提案した。

一方、マイクロソフトは、普及が進まないことを理由に、IVASプログラムの基盤になるハードウェア「ホロレンズ(HoloLens)」ヘッドセットへの投資を年々減らしてきた。マイクロソフトは6月、ホロレンズ・チームの人員削減を発表し、以降は国防総省へのサービス提供に専念する方向性が示された。8月、陸軍がマイクロソフトを完全に排除する方向で入札の再開を検討していると報道され、同社は大打撃を受けた。

この難局にラッキーは足を踏み入れた。アンドゥリルはドローンからレーダー電波妨害機まであらゆるものをつ接続して監視、物体検出・意思決定を支援するAI搭載システム「ラティス(Lattice)」をこのプロジェクトに提供する。ラティスは次第にアンドゥリルの主力サービスになりつつある。同社のハードウェアに限らず、レーダー、車両、センサーなど他社製の機器からも兵士が瞬時に情報を受け取れるツールなのだ。それが今後はIVASゴーグルに組み込まれることになる。ラッキーはこんな言い方で説明した。「ハイブマインド(集合精神。集団の全員が同じことを考える状態)とまでは言えなくとも、ハイブアイ(集合の目)にはなります」 。

米陸軍によると、IVASプログラムをラティスで強化し、兵士が戦場で「潜在的な脅威をすばやく察知し、果断な行動をとる」ことができるよう支援するヘッドセットの開発を目指しているという。適切に設計できれば、このデバイスは無数の情報(ドローンの位置、車両、機密など)を自動的に分類し、特に喫緊の情報をリアルタイムで装着者に知らせてくれるようになるだろう。

ラッキーは、IVASプログラムの行く手を阻む困難は、防衛用のMRを開発する際に当然予想されることそのものなのだと主張する。「どの問題も、決して克服できない類のものではありません。ただ、それが今年になるか、数年後になるかというだけのことです」。また、劣悪な製品を公開するよりは開発が遅れるほうがはるかにましだ、と付け加え、任天堂のゲーム開発者である宮本茂の名言を引用した。「発表を延期したゲームは延期の事実だけで済むが、ひどいゲームは永遠にひどいままだ」。

ラッキーは、一般消費者ではなく軍がMRハードウェアの最も重要な試験場になるとの確信を強めている。「すべての民間人にARヘッドセットが普及するずっと前に、兵士全員がARヘッドセットを装着するようになるでしょう」。一般消費者の世界では、ヘッドセットのメーカーはどこもスマホの普及率や使い勝手と競争しているが、防衛分野ではまったく別のトレードオフがあるとラッキーは考えている。

「生死を分けるシナリオとなると、理想のメリットが大幅に変わってきます。『うーん、どうもやぼったいなあ』とか『もうちょっと軽かったらいいのに』などというのはどうでもよくなります。それ以 …

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