生成AIで個別指導の質向上、教育格差に挑むスタンフォード新ツール
スタンフォード大学がGPT-4をベースに、生徒を個別指導するチューター向けに助言を生成するツールを開発した。5~13歳の生徒にオンライン授業をするチューター900人を対象とする調査でその有効性を確認した。 by Rhiannon Williams2024.10.31
- この記事の3つのポイント
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- 米国では教育格差が大きな問題となっている
- スタンフォード大学が初心者チューターを支援するAIシステムを開発
- このツールにより生徒の学習成績が向上する可能性が示された
米国は教育格差という大きな問題を抱えている。低所得層の子どもたちは質の高い教育を受けられないことが多い。貧しい地域では経験豊富な教師をなかなか確保できないことがその理由のひとつだ。
人工知能(AI)を利用することで、そうした学校で補習として実施されることがある1対1の個別指導の質を改善できるかもしれない。AIツールの助けを借りれば、チューター(個別指導員)はバーチャルな個人指導の中で、より経験豊富な教師の専門知識を活用できるだろう。
スタンフォード大学の研究チームが、オープンAI(OpenAI)の「GPT-4」をベースにAIシステム「チューター・コパイロット(Tutor CoPilot)」を開発し、生徒とチューターをバーチャルにつなぐ「FEVチューター(FEV Tutor)」というプラットフォームに統合した。 チューターと生徒は、チャットを利用して互いにメッセージをやり取りできる。生徒が間違えた理由や経緯を説明するのに詰まったチューターは、ボタンを押すだけでチューター・コパイロットからアドバイスを受けられる。
研究チームはこのモデルを開発するために、経験豊富な教師たちが小学1年生から5年生までの生徒を対象に実際に実施した算数の個人指導授業700件のデータベースを利用してGPT-4を訓練した。この個人指導授業では、教師は生徒の間違いを特定し、生徒が学習内容のより広い概念を理解できるように生徒と一緒に間違いを正していった。こうして開発されたモデルは、チューターに対し、オンライン授業で生徒の指導に役立つレスポンスをカスタマイズして生成する。
このプロジェクトに携わったスタンフォード大学の博士課程の学生、ローズ・ワンは、「人間とAIの協働システムの将来に大きな期待を寄せています」と言う。プロジェクトの論文はアーカイブ(arXiv)で公開されたが、まだ査読は受けていない。「このテクノロジーは大きな可能性を秘めていると思います。ただし、適切に設計された場合に限ります」。
このツールは、生徒に算数を実際に教えるために設計されたものではない。生徒をより深い学びへと促しながら正しい答えに導く方法について、チューターに役立つアドバイスを提供するためのものだ。
たとえば、チューターに対して、生徒にどのように答えを導き出したかを尋ねるようアドバイスしたり、問題を解決する別の方法を指し示すような質問を提案したりできる。
研究チームはこのツールの有効性をテストするため、米国南部の歴史的に教育機会に恵まれていない地域に住む5歳から13歳の生徒1787人に算数のオンライン授業をした900人のチューターのやり取りを調査した。チューターの半数はチューター・コパイロットの利用を許され、残りの半数は利用できなかった。
チューター・コパイロットを利用できたチューターに教わった生徒は、利用できなかったチューターに教わった生徒よりも、終了チケット(生徒が科目を習得したかどうかの評価)に合格する可能性が4パーセントポイント高かった(合格率はそれぞれ66%と62%だった)。
オックスフォード大学の機械学習研究者であるサイモン・フリーダー博士(このプロジェクトには参加していない)によると、このツールがこれほどうまく機能するのは、比較的基本的な算数を教える授業に使われているためだという。「現在の時点では、これよりはるかに高度な数学を教える授業を対象に研究をすることは不可能でしょう」とフリーダー博士は言う。
研究チームは、チューター1人当たり年間20ドル程度のコストで、このツールは生徒の学習を改善できると見積もっている。これは、対面による教師の養成に通常かかる数千ドルというコストと比べて大幅に安価だ。
シカゴ大学のコンピューター科学助教授のミナ・リー(このプロジェクトに関与していない)によると、初心者のチューターを、経験豊富な教師と同じようなやり方で問題に取り組むように訓練することで、初心者のチューターと生徒の関係を改善できる可能性があるという。
「この研究は、このツールが実際に現場で使えることを示しています」とリー助教授は語る。「私たちは人間同士のつながりを促進したいと考えており、この研究はAIが人間同士の交流をいかに強化できるかを浮き彫りにしています」。
ワンの研究チームは次のステップとして、初心者のチューターが、チューター・コパイロットによって伝授された教授法をどの程度覚えているかを調査することに興味を持っている。そうすることで、この種のAI介入による効果がどのくらい持続するかを把握するのに役立つだろう。同チームはまた、このようなアプローチから恩恵を受けることができる他の学習科目や年齢層を突き止めることも計画している。
「基盤となるテクノロジーを改善できる実質的な方法はたくさんあります」とワンは言う。「しかし、事前検証せずに、やみくもにAIテクノロジーを導入するのではなく、厳密に評価できることを確認してから、実際に世に送り出したいと思っています。私が一番恐れているのは、生徒たちの時間を無駄にしてしまうことです」。
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- リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。