作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
MITメディアラボの研究チームが、子どもたちが自分でAIモデルを作りながら仕組みを学べる新しい教育アプリ「リトル・ランゲージ・モデル」を開発した。サイコロを使って確率的思考を体験したり、データの偏りがAIに与える影響を実験したりできる。子どもたちが「AIの単なるユーザーではなく、開発者」として理解を深めることを目指す。 by Scott J Mulligan2024.10.30
「この新しい人工知能(AI)テクノロジーの仕組みを学んだり、理解したりするのはとてもおもしろい!」 10歳の若きAIモデル開発者、ルカは言う。
ルカは、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの博士課程研究者であるマヌジ・ダリワルとシュルティ・ダリワルが開発した新しいアプリケーション「リトル・ランゲージ・モデル(Little Language Models)」を試用した最初の子どもの1人だ。このアプリケーションは、子どもたちが自分自身で小規模なAIモデルを構築することで、AIモデルの仕組みを理解するのに役立つ。
このプログラムは、現代のAIモデルの基礎となる複雑な概念を、理論的な講義でくどくど説明することなく紹介する方法だ。講義を受ける代わりに、子どもたちは概念を視覚化したものを実際に見ながら構築することで、AIへの理解を深めることができる。
「子どもたちに、自分がAIの単なるユーザーではなく、開発者であると思わせることには、どのような意味があるでしょうか?」 シュルティは言う。
このプログラムではまず、一組のサイコロを使って、不確実性を考慮に入れた意思決定システムである「確率的思考」を実演することから始まる。確率的思考は、 文の中で次に来る可能性が最も高い単語を予測している今日の大規模言語モデル(LLM)の根底にある考え方だ。この概念を教えることで、LLMの仕組みを解明し、AIモデルの選択が常に完璧ではなく一連の確率の結果であるということを子どもたちに理解させる。
生徒は、サイコロの各面を自由に設定し、それぞれの面が出る確率も調整できる。ルカは、自分が遊んでいるポケモン風ゲームの設計にこの機能を取り入れたら「とてもクール」だろうと考えている。しかし、このプログラムは、AIに関するいくつかの重要な現実も示すことができる。
たとえば、AIモデルにおけるバイアスの発生について、生徒たちに教えたいとしよう。教師は生徒に対し、一組のサイコロを作って、それぞれの面にさまざまな肌の色の手を設定するように指示できる。子どもたちは最初、白い手が出る確率を100%に設定するかもしれない。その場合、データセットに白人の画像しかないという仮想的な状況が反映される。そのような状況でAIにビジュアルを生成するように頼むと、白い手しか生成されない。
次に、教師は子どもたちに他の肌の色の割合を増やすように指示することで、より多様性のあるデータセットをシミュレートできる。この場合、AIモデルはさまざまな肌色の手のビジュアルを生成する。
「リトル・ランゲージ・モデルズを利用するのは興味深いことでした。AIがどのように機能しているのか、生徒が理解できるような、小さなものにすることができるからです」。マサチューセッツ州クインシーの中学校で司書を務めるヘレン・マスティコは言う。マスティコは、中学2年生のグループにこのプログラムの使い方を教えた。
「『ああ、こうやってバイアスがこっそり入り込むんだ』と、理解するようになります。これらの概念がどのようにして大規模に拡大していくのか、子どもたちが想像したり、教育者が話し始めたりするための豊富なコンテキストを提供するのです」。
シュルティとマヌジは、このツールを世界中で使ってもらうことを計画している。今後、生徒たちが自分のデータをアップロードできるようになり、教師がそれを監督する。「(生徒たちは)自分たちの文化を代表する独自の音や画像、背景を追加することもできます」と、マヌジは言う。
シュルティとマヌジはまた、子どもたちがマルコフ連鎖のような高度な概念で遊べるツールも導入した。このツールでは、先行する変数がその後に続くものに影響を与える。たとえば、ある子どもが、レゴブロックのランダムな家を作成するAIを構築する場合、最初に赤いレンガを使ったら、次に黄色いレンガの割合をかなり高くする、といった指示ができる。
「創造的な学習者である若者たちを支援する最善の方法は、彼らが自分の情熱に基づいたプロジェクトに取り組むのを手助けすることです」。シュルティとマヌジの博士課程の指導教官であるミッチ・レズニック教授は言う。レズニック教授は、子どもたちにコードを教えるために使われる世界で最も有名なプログラム「スクラッチ(Scratch)」の共同開発者である。「それが、リトル・ランゲージ・モデルズがやっていることです。子どもたちが新しいアイデアを取り入れ、創造的な方法でそのアイデアを使えるようにしているのです」
リトル・ランゲージ・モデルズは、現在の教育状況の穴を塞ぐ役割を果たすかもしれない。「データ・リテラシーやAIの概念について創造的に子どもたちに教えるための、遊び心のあるリソースやツールが本当に不足しています」と、学習体験デザイナーのエマ・キャロウは言う。キャロウは、教育者や学校と協力して、子どもたちにテクノロジーについて教える新しい方法の導入に取り組んでいる。「学校はAIを活用する可能性よりも、むしろ安全性について心配しています。しかし、学校でもAIの活用が進み、少しずつ使われるようになっています。教育には変わる余地があります」。
リトル・ランゲージ・モデルズは、11月中旬にシュルティとマヌジのオンライン教育プラットフォーム「coco.build」で展開され、1カ月にわたりさまざまな学校でプログラムが試用される。
ルカの母親であるダイアナは、AIを試してみるこのチャンスが、ルカの役に立つことを期待している。「このような経験によって、ルカは幼い頃からAIについて学ぶことになり、今後、より賢明な方法でAIを使うための助けになるでしょう」と、ダイアナは言う。
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- スコット・J・マリガン [Scott J Mulligan]米国版 AI担当記者
- 政策、ガバナンス、AIの内部構造などを取材するAI担当記者。AIに特化した若手ジャーナリスト育成プログラム「ターベル・フェローシップ(Tarbell Fellowship)」の支援を受けている。ヴァイス(VICE)ニュースでのドキュメンタリー映像制作、ビデオゲーム・デザイナーなどを経て現職。