KADOKAWA Technology Review
×
左側通行から右側通行へ、
英有力スタートアップが挑む
完全自動運転の意外な難題
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato (car), Adobe Stock (map)
人工知能(AI) Insider Online限定
How Wayve’s driverless cars will meet one of their biggest challenges yet

左側通行から右側通行へ、
英有力スタートアップが挑む
完全自動運転の意外な難題

英スタートアップのウェイブ(Wayve)は、米国で自動運転車のテストを開始する。エンドツーエンド学習を採用する同社の自動運転技術は適応性の高さを売りにしているが、左側通行の英国から右側通行の米国への進出で、その真価が問われることになる。 by Will Douglas Heaven2024.10.29

この記事の3つのポイント
  1. ウェイブは英国で自動運転車の運転方法を学習し米国でもテストを開始する
  2. 同社の車は単一の大型モデルによって制御され運転に必要なタスクを一度に学習する
  3. 自動運転の実現に向けて着実に前進しているが一部懐疑的な意見もある
summarized by Claude 3

英国の無人自動運転車スタートアップ企業であるウェイブ(Wayve)は、西へ向かっている。ウェイブの自動車はロンドンの路上で運転方法を学習した。だが、同社はサンフランシスコ周辺でもその技術テストを開始すると発表した。そのことは新たな課題を提起している。左側通行から右側通行に切り替える必要があるのだ。

英国訪問者あるいは英国出身者なら理解できるだろう。この切り替えは想像以上に難しい。道路の見え方、車の曲がり方、すべてが異なる、とウェイブのソフトウェア担当副社長シルヴィウス・ルスは言う。米国で長年過ごしたルス副社長自身、昨年になってようやく左側通行を習得した。「長年運転してきた人間にとっても、それは些細な違いではありません」。

米国進出は、多くのライバル企業よりもはるかに汎用的な技術を提供すると主張しているウェイブのテクノロジーが試されることになる。同社は、独自のアプローチにより、今年5月に英国の記録を塗り替えた10億ドルの資金調達ラウンドを含む巨額の投資や、アズダ(Asd)やオカド(Ocado)などのオンライン食品小売業者やウーバー(Uber)との提携をすでに確保している。だが、今後はクルーズ(Ocado)、ウェイモ(Waymo)、テスラ(Tesla)といった、成長を続ける自動運転車業界の有力企業と真っ向から勝負することになる。

2022年、私が初めてロンドン北部にあるウェイブのオフィスを訪れたとき、建物内の自動車整備場には2、3台の車が止まっていた。だが、この秋の晴れた日に再び訪れると、整備場も前庭も車でいっぱいだった。10億ドルを調達したことで、多くのハードウェアを購入できるようになったのだ。

私は同乗試乗に参加した。ロンドンでは、自動運転車は依然として人々を振り向かせるほど特異なものだ。だが、ウェイブのジャガー・Iペイス車の助手席に座っていて印象的だったのは、コンピューター・プログラムが運転する車に乗っていることがいかに奇妙に感じられるかということではなく、いかに普通で、快適で、安全かということだった。この車は私よりも運転がうまかった。

英国の規制当局はまだ、完全無人運転のロンドンでの路上走行を認めていない。テストドライバーはハンドルから1センチメートルだけ両手を浮かせた状態で私の隣に座っており、ハンドルは手の下で左右に回転していた。試乗中、ルス副社長が後部座席から解説をしてくれた。

ルス副社長によると、日中の交通量は少ないが、その方が難易度が高くなるという。「混雑時は、前の車についていくことになります」。私たちは、道路工事やサイクリスト、道路の真ん中で止まっている他の車などを避けながら進んでいった。雨が降り始めた。あるとき、私は自分たちが道路の間違った側を走行しているのではないかと思った。しかし、その道路は一方通行だった。この車は、私が見落とした標識を認識していたのだ。私たちはあらゆる交差点を、意図的に自信を示すように進んでいった。

あるとき、(人間がハンドルを握っている)青い車が私たちのすぐ前の車の流れに鼻先を突っ込んできた。都会のドライバーなら、これには2通りの展開があることを知っている。進むのを控えれば、他の車が割り込む合図になる。前に進めば、その車に順番を待つよう指示することになる。ウェイブの車は前に出た。

1秒ほどのやりとりだった。しかしそれは、試乗中、最も印象的な瞬間だった。ウェイブによれば、同社のモデルはこのような防衛運転の習慣を数多く身につけているという。「こちら側に優先通行権があり、最も安全なアプローチはそれを行使することでした」とルス副社長は話す。「プログラムされているわけではなく、そうするように学習したのです」。

運転方法の学習

ウェイブの車がすることはすべて、プログラムされたものではなく、学習されたも …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る