ハエトリグモは誰に恋をする? DIY実験装置で迫る動物の心理
動物は何を考え、何を感じているのか。この謎に挑む科学者たちが、ユニークな実験装置を次々と生み出している。ハエトリグモの視線を追跡する装置から、ミツバチを徹夜させる磁石仕掛けまで、DIY装置が明かす動物たちの心理と行動を紹介しよう。 by Betsy Mason2024.11.15
- この記事の3つのポイント
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- 動物の心理を研究するため科学者たちは独創的な実験を考案
- 動物の生活や心理を理解するため科学者が作った5つの装置を紹介
- ヤドカリ、ハヤブサ、ハエトリグモなどの意外な行動が明らかに
ダートマス大学のマーク・ライドレ助教授(生物学)は、ヤドカリの「住宅市場」を理解しようと試みる中で、独創的な方法を編み出さなければならなかった。ヤドカリは常に、より大きく、より良い貝殻に引っ越そうとしているが、本当に良い住処を得ることにはリスクも伴う。時にはヤドカリたちは徒党を組んで、とても魅力的な貝殻の住人を引きずり出そうとする。もし成功すれば、その貝殻はすぐに一番大きなヤドカリのものとなり、その空いた貝殻は少し小さめのヤドカリのものとなり、そして、全員が引っ越すまで、その連鎖が続く。
貝殻のサイズと防衛力のトレードオフをより正確に評価するために、ライドレ助教授はエンジニアと協力して「ヤドカリ立ち退き装置」を開発した。この装置は、占有されている貝殻を固定し、科学者がヤドカリを引き抜くのにどれだけの力が必要かを測定する(ヤドカリを傷つけたり、貝殻を失わせたりすることはない)。これは実質的には、野外の太陽、砂、湿気に耐えられる携帯型の荷重測定装置である。
ヤドカリを追い出すのに必要な力は重要な測定値である。なぜなら、ヤドカリにとって自分の家にしがみつくことは、生死に関わる問題だからだ。「(貝殻から)追い出された場合、連鎖の最後に残る貝殻は、小さすぎて入ることさえできない可能性が非常に高いのです」とライドレ助教授は言う。コスタリカの砂浜にある同助教授の研究現場では、貝殻を失ったヤドカリは捕食者や暑さによってすぐに命を落としかねない。「ある意味、本当に死んだも同然なんです」。
人間以外の動物の心理を研究することには、人間を対象とする心理学者が通常直面することのない課題が伴う。被験者は自身が何を考えているかを伝えることができないのだ。動物から答えを引き出し、動物がなぜそのように行動するのかを理解するために、科学者たちは独創的な実験を考案する必要がある。時には、実験装置をゼロから設計・製作しなければならないこともあるのだ。
動物行動科学者が手作りする装置は、非常にシンプルなものから非常に複雑なものまで多岐にわたる。これらはすべて、昆虫から象まで、特定の種の生活や心理に関する疑問の解決に役立つよう作られている。ミツバチはぐっすり眠る必要があるのだろうか? ハエトリグモがセクシーだと思うものとは? ハヤブサはパズルが好きだろうか? このような疑問に対して、既製の装置は対応できない。
この立ち退き装置は、ヤドカリに対するライドレ助教授の好奇心から着想を得たものだ。しかし、動物に関する新たな疑問は、興味深い装置やテクノロジーから着想を得ることもある。同助教授の別の発明であるヤドカリの脱出ルーム(詳細は後述)もその一例だ。同助教授によると、重要なのは、自分の疑問が動物たちの生活に関連があるものかどうかを確認することだとという。
研究対象の動物の生活や心理を理解するために、科学者たちが特別に作った5つの装置を紹介しよう。
1.ハヤブサのイノベーション・ボックス
オウム科やカラス科の知能が高い鳥は、鳥類の知性に関する科学的研究の主役だ。そして今、この賢い鳥たちに驚きの新たなライバルが現れた。ハヤブサだ。猛禽類は創造的な問題解決で知られているわけではない。ウィーン獣医科大学の行動生態学者ケイティ・ハリントンは、遠く離れたフォークランド諸島で観察したハヤブサ科のフォークランドカラカラハヤブサは、他のハヤブサと異なるのではないかと考えた。「フォークランドカラカラは本当に物事を調べることに興味を持っています」とハリントンは言う。「一般的に、とても賢い鳥です」。
その知能を試すためにハリントンは、問題解決能力で知られるオウム科のシロビタイムジオウムのために設計された「イノベーション・アリーナ」から着想を得た。これは、カシューナッツやトウモロコシ粒などの報酬を得るためにさまざまな方法で解かなければならない課題が入った20個の透明プラスチック箱を半円形に並べたものだ。幅2メートルのアリーナをフォークランド諸島まで運ぶ選択肢はなかった。そこで、ハリントンは幅40センチメートルの「イノベーション・ボックス」を木の板に取り付け、オウムの研究から応用した8つの仕切りと課題を設けた。
フォークランドカラカラハヤブサたちは大喜びだった。「カラカラたちは全力で走って参加していました」とハリントンは言う。課題は、1羽がボックスで遊んでいる間、他の鳥を寄せ付けないことだった。カラカラたちは、板をガタガタさせて羊肉を落としたり、羊肉が乗っている台の下から小枝を引き抜いたりする課題を解くことができた。さらに、ご褒美を隠しているティッシュに穴を開けるという難しい課題さえ解くことができた。これは一部のオウムには解けない課題だった。
実際、15羽のカラカラのうち10羽がすべての課題を解き、そのほとんどが箱を使った課題を2回以内の挑戦で解いた。そこで、ハリントンはさらに難易度の高い8つの新しい課題を考案したが、そのうちのいくつ …
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