大豆・昆虫の次は微生物、
空気からタンパク質を作る
「夢の食品工場」
世界的なタンパク質需要の増加に応える新技術として、二酸化炭素を直接タンパク質に変換する微生物が注目されている。従来の農地や水をほとんど使わず、環境負荷も低いことから、スタートアップなど25社が開発に取り組み、一部は商品化もされた。未来の人類の食卓を支える可能性は? by Claire L. Evans2024.11.20
- この記事の3つのポイント
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- 微生物を使って空気からタンパク質を生産する技術が注目されている
- 従来の農業に比べて温室効果ガス排出量を大幅に削減できる可能性
- 商業的競争力を持つためには生産規模の拡大と消費者の理解が必要だ
乾燥させた細胞——それが夕食のおかずになる。少なくとも、炭素を大量に消費するバクテリアと潤沢な資本を武器とするバイオスタートアップ企業は、私たちがそれを受け入れることを望んでいる。あまりにもうまい話で、信じがたい。何もないところから食品を作れる、というのだから。
だが、それがまさに土壌に生息する特定のバクテリアの働きなのだ。自然界ではこれらの「独立栄養」微生物は、大気から直接取り入れた酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気をわずかな食事として生きている。この微生物は研究施設でも同じように熱心に廃棄炭素を食べ尽くして繁殖し、その個体数は巨大な発酵タンクを満たすほどに膨れ上がる。吸い上げて乾燥させると、そのバクテリアのバイオマス(生物資源)はタンパク質豊富な粉末になる。栄養がぎっしり詰まった、基本的に無限に再生可能な食品だ。
リサ・ダイソンは、このようなスタートアップ企業の1社であるエア・プロテイン(Air Protein)の創業者兼CEOだ。彼女はエア・プロテインのインスピレーションについて語るとき、しばしば1960年代のNASAの研究を引き合いに出す。当時、宇宙飛行士を長時間の宇宙旅行中でも栄養不足にさせないことを目指していたNASAは、船内でバクテリアを食品として培養するアイデアを検討した。しかし最終的には、宇宙飛行士が心理的にそれを受け入れられないかもしれないという結論に達した。ダイソンCEOは2016年のTEDトークで、「地球は実は宇宙船のようなものです」と説明している。「私たちには限られたスペースと限られた資源しかありません。そのため、地球上で炭素を上手にリサイクルする方法を見つける必要があるのです」。バクテリアがその答えになるのだろうか?
今のところ、答えは間違いなく「そうかもしれない」だ。豊富な二酸化炭素を栄養価の高い 「エア・プロテイン」に変えようと、世界中ですでに25社ほどがこの課題に取り組んでいる。これらの企業で働く人々の最終的な目標は、従来の農業よりもはるかに温室効果ガス排出量の少ない食料源を開発することだ。それはもしかしたら、農業を完全に崩壊させることになるかもしれない。そのためには、これらの企業はいくつかの非常に現実的な課題を克服する必要がある。商業的な競争力を持つため、各社はタンパク質の生産規模を拡大する必要がある。それも、温室効果ガス排出量やその他の環境問題を増やさない方法によってだ。さらに厄介なことに、バクテリアを材料とする食事を想像したときに人々が感じるかもしれない不快感を克服する必要がある。
これらの企業の中には、産業用動物飼料や魚粉、ペットフードに注力している企業もある。こうした製品は利益率は低いものの、消費者の目はそれほど厳しくなく、規制のハードルも少ない。しかし、人間用の食品は、巨額の金が関わり、インパクトが大きい分野だ。だからこそ、ダイソンCEO率いるエア・プロテインのように、この分野に力を入れている企業がある。エア・プロテインは2023年、商業用食品生産産業のハブ地であるカリフォルニア州サン・レアンドロに、自社初の「エア・ファーム」を建設した。同社はまた、世界最大級の農産物商社であるADMと戦略的開発契約を結び、共同で研究開発に取り組み、さらに大規模な商業規模の工場を作ると発表している。エア・プロテインの 「エア・チキン」(実際のチキンではないことを明確にしておこう)は、食料品店の棚や食卓に徐々に並び始めている。しかし、それはほんの始まりに過ぎない。空気からタンパク質を作り出すバクテリアの利用は他の企業でも進んでいる。そして近い将来、こうした微生物タンパク質のパテが、ベジバーガーと同じくらい一般的なものになるかもしれない。
代替タンパク質の代替品
微生物タンパク質が環境に良い理由は十分に明確だ。耕作可能な土地、エネルギー、食料が必要な人口を単純に計算すればいい。タンパク質に対する世界的な需要はすでに史上最高水準に達しており、2050年には人口が97億人にまで増加すると予想される中、従来の農業は、特に気候変動、土壌劣化、病気といった問題がある中で、この需要に対応するのが難しくなるだろう。
世界的な中産階級の増加による食肉消費量の増加が見込まれているが、工場畜産された肉は温室効果ガス排出の主要な要因のひとつとなっている。大豆のようなタンパク質が豊富な代替品の方がはるかに持続可能ではあるが、世界で栽培される大豆のほとんどは、人間用の食品としてではなく家畜の飼料として使用される運命にある。
一方、バクテリア「作物」は、二酸化炭素を直接タンパク質に変換するが、このプロセスで使用する土地と水はずっと少なくて済む。微生物タンパク質「農場」は、再生可能な電力が安価な場所であれば年間を通じて稼働できる可能性がある。チリのアタカマ砂漠のように、農業がほとんど不可能な場所でもだ。この方法では農地の負担を軽減でききる上、農地を自然に返すチャンスが生まれる可能性さえある。
「私たちは農業の制約から食品生産を解放しつつあります」。フィンランドのスタートアップ企業であるソーラー・フーズ(Solar Foods)の共同創業者で最高技術責任者(CTO)のユハ=ペッカ・ピトカーネンは、同社による最近の映像でこう説明している。2024年4月、ソーラー・フーズはヘルシンキ空港から電車ですぐのヴァンターに実証工場を開設した。この「ファクトリー01」で、ソーラー・フーズは山吹色のプロテイン・パウダー「ソレイン(Solein)」を、同社が競争力を持っていることを証明するのに十分な量である年間約160トンを生産する予定だ。
エア・プロテインと同様、ソーラー・フーズの製造工程は、植物と同じように二酸化炭素を代謝する、自然界に存在する水素酸化バクテリアから始まる。醸造業界で使われる発酵槽 …
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