バーチャル世界に再現された人間を「アバター(avatar)」と呼ぶ。では、女性の生殖器を生物学的に再現したら何と呼べばいいだろうか?
「エバター(Evatar)」 とでも呼べばいいだろうか。
小さな肺や肝臓のように動作するチップ型の臓器は、MIT Technology Reviewで以前紹介したことがある。開発者によれば「エバター」は世界初の、卵子が成熟して排出されるまでの28日間の排卵周期を再現する研究用ガジェットだ。
装置は、B6判コミック本ほどの大きさで、プラスチック製の各区画が、女性の卵巣、卵管、子宮、子宮頚部、肝臓の働きを模倣する。エバターには、さまざまな事情で手術を受けた女性から提供された本物の人間の細胞が使われている。 小さな肝臓まで収められているのは、薬を代謝する器官だからだ。
装置を開発したノースウェスタン大学とシカゴ・イリノイ大学、ドレイパー(本社マサチューセッツ州ケンブリッジ)の科学者によれば、エバターはプラスチック製の小区画に、個々に培養された各組織を、微細な管でつなぎ合わせてネットワーク化されている。20個の電動マイクロポンプで、栄養素とホルモンを混ぜ合わせた青色の液体(血液の代わりに、各組織を連動させる)が装置を循環する。
装置が排卵できるかどうかは、マウスの卵巣(人間の卵巣を入手するのは難しい)で試験された。ネイチャー・コミュニケーション誌に掲載の論文によれば、約14日間で卵巣から卵子が排出されたという。
プロジェクトを率いたノースウェスタン大学のテレサ・ウッドラフ教授(産婦人科)によると、研究チームは、男性版の同様の装置も開発中だという。また、同じ女性から組織サンプルの提供を受けて幹細胞を使えば、やがては「個人用エバター」が実現するかもしれない。
エバターの登場で、科学者は人間の生理機能をシミュレーションできる身体機能チップ(body-on-a-chip)の実現に向けて前進した。ドレイパーのジョナサン・コペタ生物系・組織エンジニアによれば、人工的に排卵周期を再現するシステムがあれば、製薬会社は避妊具の開発や子宮筋腫、子宮内膜症、子宮頸がんや卵巣がん等の病気の治療薬の試験を安全に実施できるという。「歴史的に、女性の生理学は医薬開発の過程では十分に注目されていませんでした」とコペタ・エンジニアはいう。