AIの進歩が速すぎるなら、人間とAIをつなげばいいじゃない?
知性を宿す機械

The AI Mind Merge Vision That Silicon Valley Won’t Give Up AIの進歩が速すぎるなら、人間とAIをつなげばいいじゃない?

テスラのイーロン・マスクCEOとワイ・コンビネーターのサム・オルトマン社長は、人間がAIに支配されたくないなら、人間の脳と人工知能を一体化すればいい、と考えている。 by Jamie Condliffe2017.03.29

ロボットの学習スピードが以前に増して早くなっているのだから、人間もロボットに追いつく新たな手段が必要だろうか?

いかにも、イーロン・マスクが考えそうな疑問だ。Webメディアのバニティ・フェアが今週掲載したマスクの大型特集によれば、テスラとスペースXの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクは、人間用の斬新な移動手段を考えるだけでなく、人工知能が人類に及ぼす影響についても深い懸念を示していることがわかる。2014年、AIは人類の存亡を脅かす最大の脅威であるとマスクが力説したのは有名な話で、汎用型知性のあるAIを開発する動きについて「悪魔を召喚する」ようなものだと述べていた。

この種の主張はマスクCEOに限らない。3月27日にロンドンで開催されたイベント(MIT Technology Reviewも出席)で講演したワイ・コンビネーターのサム・オルトマン社長も、マスクCEOと同様の懸念を口にした。「もしAIと人間の両方が同じモノを欲しがれば、お互いを支配しようとするでしょう。それが地上で最高の知性を備える種の座を意味するなら、困った状況になります。あらゆる場面で争いが起きます」と強い不安をあらわにした。

マスクCEOの解決策は、AIと競うよりもAIを活用することだ。マスクCEOの構想が目指すのは「機械との共生」であり「ニューラル・レース(ひも)」を脳に埋め込めば実現できる。マスクCEOによれば、ニューラル・レースを埋め込むことで、人間の小さな脳が抱える入出力の本質的限界を打破できるという。MIT Technology Reviewのアントニオ・レガラードが記事で述べているとおり、人間が会話で送信する情報はせいぜい約40bpsであり、マスクCEOはコンピューティングのデータ伝送速度に比べて「ばかばかしいくらいに遅い」という。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事によれば、マスクCEOはこうした問題に取り組むための会社ニューラリンクを立ち上げた。詳細は不明だが、ニューラリンクのスタッフには脳インプラントや神経科学の専門家がいる。また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、最初に開発されるのは「重度の脳障害を治療するためのインプラント」だという。しかし将来的には、人間の脳とAIを融合させる小型の脳電極の網を提供できるかもしれない。

ニューラリンクは、脳インプラントの開発に何十年も携わってきた一流の研究者や民間企業と肩を並べることになり、麻痺の治療会話の解読にいたるまで、あらゆる分野への対応を目指す。とはいえ、起業家ブライアン・ジョンソンの例は、テクノロジストがまさにこの種の事業への参入を急に決めると何が起きるかの教訓になる。ジョンソンは、ニューラリンクと同様の脳コンピューター・インターフェイスを開発中だが、プロジェクトは今のところあまりうまくいっていない

とはいえ、シリコンバレーでは人間の脳とAIの融合に向けた他の手法も検討されている。オルトマン社長によれば、融合といっても「電極を脳に埋め込んで文字通り融合させる方法、脳をコンピューターにアップロード方法、自分の考えをそのままテキスト化できるような専用の小型チャットボットを誰もが持つようになるだけ」といった、あらゆる方法が考えられるという。

オルトマン社長が考えるように、実際に使われるシステムはマスクCEOがいうほど重要ではない。オルトマン社長は「人間とAIを一体化される」方法が大事なのであって「人間対AI」にならないようにする、何らかの設計方式が必要だと考えているだけだ。そんな風に表現すると、脳とAIの融合も、夢物語とは思えなくなってくる。

(関連記事:Vanity Fair, Wall Street Journal, “1億ドルの資金で起業家が進める脳コンピューター接続計画,” “2017年度版ブレークスルーテクノロジー10:麻痺の回復,” “Tech’s Enduring Great-Man Myth”)