作品をAIの訓練に使わないで!アドビが電子透かしツール提供へ
アドビは、クリエイターのIDやハンドルネームなどを「透かし」として作品に付加できるWebアプリのベータ版を、来年初頭にも提供する。作品がAIの訓練に使われることを望まないクリエイターにとって、明確な意思表示ができるようになる。 by Rhiannon Williams2024.10.15
- この記事の3つのポイント
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- アドビが作品のAIモデル訓練使用を防ぐツールを発表した
- ツールはコンテンツに作者情報などを付加し改ざんを防ぐ
- アドビとアーティストの関係は複雑だが前進した取り組みと言える
アドビは、クリエイターが自分の作品に透かしを入れ、生成AIモデルの訓練に使用されないように設定できる新しいツールを発表した。
AIモデルは一般的に、インターネット上で収集されたコンテンツの膨大なデータベースを用いて訓練される。「アドビ・コンテンツ・オーセンティシティ(Adobe Content Authenticity)」と呼ばれるこのWebアプリを使うことで、クリエイターは自分の作品をAIモデルに使用しないよう表明できる。また、「コンテンツ・クレデンシャル」とアドビが呼ぶ、認証されたID、ソーシャルメディアのハンドルネーム、その他のオンライン・ドメインなどの情報を追加することも可能だ。
コンテンツ・クレデンシャルは、出所を明確にする情報を暗号化して、画像、映像、音声に安全にラベル付けする技術仕様「C2PA」に基づいている。つまり、21世紀におけるアーティストの署名に相当するものだ。
アドビはすでに、フォトショップ(Photoshop)や独自の生成AIモデル「ファイアフライ(Firefly)」など、いくつかの自社製品にコンテンツ・クレデンシャルを組み込んでいる。今回のアドビ・コンテンツ・オーセンティシティによって、作品制作にアドビのツールで使ったかどうかにかかわらず、コンテンツ・クレデンシャルを適用できるようになる。アドビは2025年初めに、同ツールのパブリック・ベータ版の提供を始める予定だ。
非営利団体「パートナーシップ・オン・AI(Partnership on AI)」でAI・メディアインテグリティ(AI and Media Integrity)プログラムの責任者を務めるクレア・レイボヴィッチは、アドビ・コンテンツ・オーセンティシティは、C2PAを普及させるための正しい方向への一歩であり、クリエイターが作品にコンテンツ・クレデンシャルを追加しやすくなるだろうと語る。
「アドビは少なくとも、文化的な会話をスタートさせ、クリエイターがさらなるコミュニケーション能力を持ち、より大きな力を得たと感じられるようにするために、少しずつ取り組んでいると思います。しかし、人々が実際に 『AIの訓練に使わないで』という警告に反応するかどうかは別の問題です」。
アーティストがテック企業に対抗し、著作権で保護された作品を同意や補償なしにスクレイピングすることを防ぐツールは急成長しており、アドビ・コンテンツ・オーセンティシティはこの分野に新たに加わることになる。昨年、シカゴ大学の研究チームは、ユーザーが目に見えない「毒」を自分の画像に仕込める「ナイトシェード(Nightshade)」と「グレイズ(Glaze)」という2つのツールをリリースした。ナイトシェードは同ツールで保護されたコンテンツがスクレイピングされたときにAIモデルを破壊し、グレイズはAIモデルからユーザーの作風を隠せるようにするものだ。アドビはまた、ユーザーがWebサイトのコンテンツに既存のクレデンシャルがあるかどうかをチェックできるクロム(Chrome)ブラウザーの拡張機能を開発した。
アドビ・コンテンツ・オーセンティシティのユーザーは、アップロードするコンテンツに好きなだけ情報を付加できる。あるコンテンツをWebサイトにアップロードする準備をする際に、固有のメタデータを誤って削除してしまうことは比較的容易に起こるため、アドビは暗号化メタデータのほか、電子指紋や目に見えない電子透かしなどの方法を組み合わせている。コンテンツ・クレデンシャルはWeb上で画像、音声、映像ファイルに付随して流通することになり、別のプラットフォームにアップロードされてもデータは失われない。アドビによると、たとえスクリーンショットを撮ったとしても、クレデンシャルは復元できるという。
しかしアドビは、このツールが絶対確実なものではないことを認めている。「『100%破られない電子透かし』という謳い文句は嘘になります」。アドビのデジタルメディア担当最高技術責任者(CTO)であるイーライ・グリーンフィールドは言う。「これは、偶発的な、あるいは意図的でない削除に対する防御であり、悪意のある行為に対する防御ではありません」。
アドビとアーティスト・コミュニティとの関係は複雑だ。アドビは今年2月、利用規約を更新し、アドビが「自動および手動の両方の方法で」ユーザーコンテンツにアクセスできるようにし、曖昧な言葉で表現された「サービスとソフトウェア」を改善するために機械学習などの技術を使用すると記した。この利用規約の更新は、アドビがユーザーの作品をファイアフライの訓練に使うつもりだと解釈したアーティストたちから大きな反発を受けた。アドビは後に、この文言は、画像からオブジェクトを除去するフォトショップのツールなど、生成AIに基づかない機能について言及していることを明確にした。
アドビは、ユーザーのコンテンツでAIを訓練していない(あるいは、するつもりもない)と述べている。ただ、アーティストの権利活動家であり、アメリカレコード協会(RIAA:Recording Industry Association of America)の元執行副社長であるニール・タークウィッツは、多くのアーティストは、アドビは実際には同意を得ておらず、個々のコントリビューターの画像に対する権利も所有していないと主張していると語る。
「アドビがこの分野で真に倫理的な行為者となり、リーダーシップを発揮することは、さほど大きな変化とはならないでしょう」とタークウィッツは話す。「しかし、企業がコンテンツの出所証明に取り組み、メタデータ用のツールを改善していることは素晴らしいことです。そのような取り組みはすべて、問題に対処するための究極の解決策の一部となります」。
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- リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。