脳データも個人情報として保護の対象に、カリフォルニア州の新法
テック企業は、私たちの思考を推論するのに使用される可能性のある脳や神経のデータをすでに収集している。カリフォルニア州はこうしたデータを個人情報として保護する州法を新たに制定した。 by Jessica Hamzelou2024.10.08
- この記事の3つのポイント
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- カリフォルニア州が心のプライバシーを保護する法律を制定した
- 法律は神経データの収集や販売を規制し消費者の権利を守る
- 専門家は法律の抜け穴を指摘しさらなる保護措置の必要性を訴えた
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
カリフォルニア州は9月28日、州法で正式に心のプライバシーの重要性を認めた米国で2番目の州となった。あなたの頭蓋骨の下で拍動している、そのピンク色でゼリー状の塊、つまり脳には、あなたのすべての考えや記憶、アイデアが格納されている。脳はあなたの感情や行動をコントロールする。脳の活動を測定することで、その人について多くのことを明らかにできる。そしてそれこそが、神経データを保護する必要がある理由だ。
普段からMITテクノロジーレビューを読んでいる読者なら、「心を読む」テクノロジーの用途として急増しているものをいくつか、よくご存じだろう。脳の活動は、あらゆる種類の装置で追跡できる。脳波を測定する装置もあれば、電気的な活動や血流を追跡する装置もある。科学者たちはこれまで、脳データを信号に変換することで、麻痺のある人々が手足を動かしたり、さらには思考だけでコミュニケーションをとったりするのを助けることができた。
しかし、脳データの用途は、医療以外にもある。現在、消費者向けに、自分の脳がどのように働いているか詳しく知ったり、脳を落ち着かせるのを支援したりするヘッドセットが売られている。そのようなデバイスを使って、雇用主は従業員の注意力を監視し、学校は生徒が集中しているかどうかチェックする。
脳データは貴重だ。脳データは思考と同じではないが、私たちがどう考え、どのように感じているか解き明かしたり、私たちの心の奥底にある嗜好や欲望を明らかにしたりするのに使うことができる。では、カリフォルニア州の法律がどのように心のプライバシーを守るのか、そしてまだどれほどやるべきことが残されているのか、見てみよう。
2018年に制定されたカリフォルニア州消費者プライバシー法を改正するこの新たな法案は、企業が収集する個人情報に対する権利を消費者に付与するものだ。「個人情報」の中には、すでに生体情報(顔、声、指紋など)が含まれていた。それが、神経データも明確に含まれるようになった。
この法案は神経データを、「消費者の中枢神経系または末梢神経系の活動を測定することによって生成される情報で、神経以外の情報からは推測されないもの」と定義している。言い換えれば、人の脳や神経から収集されたデータ、ということだ。
この法律は、企業が個人のデータを販売したり共有したりするのを防止すると共に、企業にはデータを匿名化する努力を義務付けている。 また、消費者には収集された情報を知る権利と、削除する権利を与えている。
「カリフォルニア州のこの新法は、消費者の生活をより安全なものにします。同時に、急成長するニューロテクノロジー業界に対して明確なシグナルを送り、企業が消費者の心のプライバシーをしっかりと保護することが、大いに求められていることを示しています」。この法案を共同提案したニューロライツ財団(Neurorights Foundation)のジャレッド・ゲンサー法務部長は声明文の中で述べている。 「とはいえ、まだ多くの課題が残されています」。
ゲンサー部長は、このカリフォルニア州法が、世界中で、個人の心のプライバシーを保護する国内法・国際法制定のための下地となることを望んでいる。そのスタートとして、カリフォルニア州はよい場所である。同州は多くのニューロテクノロジー企業を抱えているため、この法案の効果が同州から波及して広がっていく可能性が十分にある。
しかし、心のプライバシーの擁護者たちの中には、この法律に満足しておらず、神経データを保護するのに十分ではないと考える者もいる。「重要な保護措置が導入されたとはいえ、重要な部分のあいまいさによって、特に神経データからの推論に関しては、プライバシーの保護を弱体化させる抜け穴の余地が残されています」と、ミュンヘン工科大学の倫理学者マルチェロ・イエンカ教授はX(ツイッター)に投稿した。
ノースカロライナ州ダーラムにあるデューク大学の未来学者で法倫理学者のニタ・ファラハニー教授によれば、そのような曖昧さの1つは、「非神経情報」の意味に関係しているという。「法案の文言からは、(人の脳から収集される)生のデータは保護されるかもしれないが、プライバシーのリスクが最も高い推論や結論は保護されない可能性があることがうかがえます」と、ファラハニー教授はリンクトイン(LinkedIn)の投稿で書いている。
イエンカ教授とファラハニー教授は最近、心のプライバシーに関する論文を共同執筆した。その中で、2人と、デューク大学のパトリック・マギーは、神経データの定義を、彼らが「認知生体認証」データと呼ぶものまで広げることを主張している。このカテゴリーには、脳データとともに、生理学的情報や行動学的情報が含まれる可能性がある。言い換えれば、バイオセンサーによって拾い上げられ、人の心の状態を推論するために使われる可能性のある、ほぼすべての情報が含まれうるということだ。
結局のところ、あなたがどう感じているのか秘密をばらすのは、脳の活動だけではない。たとえば、心拍数の上昇は興奮やストレスを示している可能性がある。アイトラッキング(視線追跡)装置は、あなたが選択しそうなものや、購入を選ぶかもしれない商品など、あなたの意図することを伝えるのに役立つかもしれない。この種のデータはすでに、通常であれば極めてプライベートなものかもしれない情報を明らかにするために使われている。 最近では、ボランティア被験者の脳波データを使って性的指向や、娯楽目的の薬物を使用しているかどうかを予測している研究もある。また、アイトラッキング装置を使って性格の特徴を推論した研究もある。
それらすべてを踏まえると、心のプライバシーを保護することに関しては、適切に実行することが不可欠である。ファラハニー教授、イエンカ教授、マギーは言う。「個人は、自分の生体認証データを共有するかどうか、共有する場合はいつ、どのようにするか選択することで、個人情報をコントロールし続けながら、テクノロジーや医療の進歩に貢献できます」。
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ニタ・ファラハニー教授は昨年、興味深いQ&Aで、私たちの心を読み、記憶を探ることを目指すテクノロジーについて、自らの考えを詳しく述べている。ターゲットを定めて夢を創り出すことに誰か関心はあるだろうか?
あなたの脳のデータが自分に不利な目的で(あるいはもしかすると、身の潔白を証明する目的で)使われる可能性がある方法は、たくさん存在する。司法当局はすでに、ニューロテック企業に対し、人々の脳インプラントから取得したデータの提供を求め始めている。あるケースでは、1人の人物が警察官への暴行の疑いで起訴されていたが、脳データから、当時は発作が起きていただけであることが証明された。
脳波の測定を可能にするテクノロジーのEEG(脳波計)は、100年ほど前から存在していた。神経科学者は、このテクノロジーが今後100年以内に、思考、記憶、夢を読み取る目的でどのように使われる可能性があるだろうかと考えている。
脳の中や上に埋め込んだ電極は、私たちの心の働きについて最も詳細な洞察を提供してくれる。そのような電極は、思考が形成されているときの様子を本質的に示すこの動画のような、驚くべき画像も提供する。
いずれにせよ、私たちの脳の中ではいったい何が起こっているのだろうか? 神経科学者たちがてんかんの治療を受けている人々の脳の奥深くに埋め込んだ電極を使って調べたたところ、秩序と混沌が見つかった。
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- ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
- 生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。