比亜迪(BYD)の知名度は米国ではまだそれほど高くないかもしれないが、手頃な価格で入手しやすい電気自動車(EV)メーカーとして、中国国外での認知度は高まりつつある。欧米では規制当局の監視の目が向けられているが、BYDは世界各地でEVを製造・輸送するためのハードルを低くしようと必死だ。
5年前、深センに本社を置く比亜迪(BYD)は混戦状態にある中国の自動車メーカーの1社に過ぎなかった。だがその後、中国の自動車産業を圧倒的にリードする存在に急成長し、世界最大の電気自動車(純EVとプラグイン・ハイブリッド車の両方を含む)メーカーとなった。
BYDの成長は、主に数十億ドルもの政府補助金によるものである。BYDはまた、ガソリン価格の上昇によってEVブームが起こった、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)による大きな恩恵も受けた。
BYDの成功のもう一つの鍵は、厳密に管理された自社生産ラインにある。BYDは、バッテリーやモーターをはじめ、手頃な価格のEVやプラグイン・ハイブリッド車、電気バス、モノレールの製造に必要な大部分の部品を子会社を通じて調達できる。このアプローチにより、BYDは競合他社よりも低コストで自動車を製造できるだけでなく、厳密な管理によってサプライチェーン全体に革新をもたらし、新機能を迅速に製品に組み込むことができる。
基本データ:
- 産業:電気自動車
- 設立:1995年
- 本社所在地:中国・深セン
- 特記事項:BYDは2023年に、バッテリーだけで走行するEVとハイブリッド車を含む「新エネルギー」車を302万4417台販売した。前年比62%の増加だった。
潜在的なインパクト
EVの販売台数は世界的に増加しているが、その大半は中国での新規販売である。BYDは、昨年の総販売台数のわずか8%を占めた海外市場での販売台数を拡大するため、世界各地に次々と工場を建設し、多数の自動車輸送船の建造に多額の投資をしている。
過去18カ月の間に、BYDはブラジル、オーストラリア、タイなどの新市場に進出し、インドネシアの新工場で最初のロットを生産したと発表した。また、ハンガリーで欧州初となる工場の建設を開始し、最近ではトルコの工場に10億ドルを投資し、年間15万台の電気自動車と充電式ハイブリッド車を生産する計画を発表した。
留意点
BYDにとって依然として最大の課題となっているのは、中国国外でのブランド認知度の低さと、中国企業への敵対心を強めている欧米の規制当局による監視である。米国は最近、企業による中国製EVの米国への輸入を抑制するため、中国製EVに対するもともと高額な関税をさらに引き上げた。今後、さらに規制が強化される見込みだ。
同様の取り組みとして、欧州の自動車産業を低価格の中国製EVの流入から守るため、欧州連合(EU)はBYDや他の中国自動車メーカーに対して、既存の関税に追加関税を上乗せした。BYDのハンガリーとトルコの工場は、この関税を回避し、EUに無関税で輸出することを可能にするためのものだ。
こうした世界経済の緊張関係は、今後100年を決定づけるクリーン産業を席巻しようと各国が競争を続ける中で、これ以上悪化はしないとしても、今後も続く可能性が高い。
次のステップ
BYDのモデルの手頃な価格は、その大きなアピールポイントとなっている。BYDの最も安価なモデルは「シーガル(海鷗)」で、中国では1万ドル以下で販売されている。BYDは来年から欧州でシーガルの販売を開始する予定だ。また、3年以内にハンガリー工場を稼働する予定だ。
人工知能(AI)よりもバッテリーで知られるBYDは、ソフトウェアに関しては長らくテスラ(Tesla)などに後れをとってきた。現在はその差を縮めようとしている。BYDは最近、自動駐車やAIによる音声認識を含むスマートカー・システム「璇璣(Xuanji)」を発表した。さらに、チップメーカーのエヌビディア(Nvidia)と協力し、来年から次世代車載用チップを自社モデルに搭載する予定だ。
BYDはまた、自動運転レベル3の機能を搭載した自動車の走行試験資格を取得した最初の中国の自動車メーカーの一つでもある。レベル3は、指定された高速道路で、特定の条件下で完全な車両の制御ができることを意味する。これらの自動運転機能はウーバー(Uber)との提携で試験される予定で、将来的にBYDの無人運転車が顧客の送迎に使用されるようになる可能性がある(世界各国の政府から承認が得られればの話だが)。