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主張:インターネットアーカイブ敗訴、図書館の未来を守れ
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | NYPL (lion), Adobe Stock, Envato
Why a ruling against the Internet Archive threatens the future of America’s libraries

主張:インターネットアーカイブ敗訴、図書館の未来を守れ

図書館はこれまで、知識にアクセスする機会をすべての人に平等に与えるという重要な使命を果たしてきた。だが、図書館によるデジタル化を認めない判決を米国の控訴裁判所が下したことで、危機的な状況にある。 by MIT Technology Review Editors2024.09.18

この記事の3つのポイント
  1. 図書館のデジタル貸出を制限する判決が米国で下された
  2. 判決は「制御されたデジタル貸出(CDL)」をフェアユースとして認めない内容
  3. 図書館を電子書籍のエコシステムに閉じ込め、危機的状況に陥れる可能性
summarized by Claude 3

私は1980年代から90年代にかけて育った。私の世代やその前の世代にとって、公共図書館はあらゆる町で平等を実現する力となっており、アメリカンドリームを目指して前進するすべての人を助ける存在だった。私が育ったヴァージニア州シャンティリーでは、コンピューターを持っていなくても、あるいは両親の資金力に制限があり家庭教師を雇えなくても、問題はなかった。公立図書館で無料の生涯教育を受けることができたからだ。その平等の約束が、米国第2巡回控訴裁判所の下した判決によって疑念にさらされることとなった。図書館によるデジタル貸出を制限するという、出版社アシェット(Hachette)を支持し、非営利法人インターネットアーカイブ(Internet Archive)にとって不利な判決である。

なぜこの判決が図書館の未来にとって非常に重要なのか理解するには、まず、図書館の電子書籍貸出の悲惨な現状を理解する必要がある。

図書館は伝統的に、1つの大前提に基づいて運営されてきた。一度購入した本は、どれだけ多い(もしくは少ない)回数でも好きなだけ利用者に貸し出すことができる、という前提である。図書館が所蔵する本は出版社から購入することが多いが、寄付や古本販売、他の図書館から入手することもある。どのような方法で入手するにしても、いったんその本を合法的に所有すれば、それは図書館のものであり、好きなように貸し出すことができる。

デジタル書籍の場合、そうではない。図書館がライセンス供与を受けた電子書籍を利用者に貸し出せるようにするためには、出版社に対し何度もお金を払わなければならない。まず、図書館は、オーバードライブ(OverDrive)などのアグリゲーター・プラットフォームに(有料で)加入する必要がある。アグリゲーター業者は、HBOのマックス(Max)などのストリーミングサービスと同様に、自らのカタログのコンテンツの追加や削除を完全にコントロールできる。図書館の意見を聞くことなく、いつでも、どんな理由でもコンテンツを削除できるのだ。その決定は、地域社会レベルではなく、影響を受ける利用者から何千キロも離れた場所において企業レベルで下される。

そして図書館は、電子書籍として提供したい個々のタイトルのコピーを、1つひとつ個別に購入しなければならない。それらの電子書籍のコピーは、消費者向け小売価格の最大300%という法外な高値に設定されているだけでなく、時間制限や貸出制限も設けられている。つまり、一定数の貸し出しの後、その電子書籍ファイルは自動的に消滅してしまうのだ。したがって図書館がその書籍を所蔵し続けるためには、同じ書籍を新しい価格で再購入する必要がある。

従来の秩序を覆すこの仕組みは、図書館と、図書館の運営資金を提供している納税者に、多大な経済的負担を強いる。また、プライバシーに関する懸念も生じさせる。図書館は読者データの収集・共有が制限されている一方で、民間企業にはそのような義務が課されていない。

一部の図書館は、別の解決策に取り組んできた。「制御されたデジタル貸出(CDL)」である。CDLのプロセスでは、図書館がすでに所蔵している物理的な書籍をスキャンして、権利侵害の危険がない安全なデジタルコピーを作成し、そのコピーを「所蔵数と貸出数」が1対1の比率となるように貸し出す。 インターネットアーカイブは、この手法を早期に始めた先駆者だった。

デジタルコピーが貸し出されているとき、その物理的な書籍は貸し出し可能リストから除外される。物理的な書籍が貸し出されれば、そのデジタルコピーは利用できなくなる。図書館にとってのメリットは明らかだ。デリケートな書籍を破損の心配なく配布できる。設備工事の際にも利用者がアクセスできるようにしたまま、大量の蔵書を施設の外に移動させられる。また、古い作品やもう手に入らない貴重な作品が検索可能となり、それらの作品に書籍として第二の人生を歩むチャンスを与えられる。地元の図書館の書籍購入資金を自分たちの税金で賄っている図書館利用者も、制限なく書籍にアクセスできることから利益を得られる。

残念なことに、出版社はこのモデルがおもしろくない。2020年には4つの出版社が、CDLプログラムをめぐりインターネットアーカイブを提訴した。この訴訟で最終的な焦点となったのは、ライセンス供与を受けたアグリゲーター業者を通じてすでに市販されていた127冊を対象とするインターネットアーカイブの貸し出し行為だった。原告の出版社側はインターネットアーカイブを多数の著作権侵害で訴えたが、インターネットアーカイブ側は、自分たちのデジタル化と貸出プログラムは書籍のフェアユースであると主張した。第一審裁判所は出版社側を支持し、9月4日に第2巡回区控訴裁判所が、基本的な論拠に若干の修正を加えた上でその判決を改めて支持した

この判決は、図書館に悪影響を及ぼす。可能な限り多くの利益を生み出しながら、同時に大量の読者データを収集(および転売)できるように設計された電子書籍のエコシステムに、図書館を閉じ込めてしまうからだ。地域社会の読書習慣が、支配的な4つの出版社が何千キロも離れた場所で下すキュレーション上の決定に、なすすべもなく左右されてしまうことになる。米国人はもうわずかしか残っていないプライバシー保護の砦から遠ざけられ、巨大テック企業のような監視エコシステムへと送り込まれる。そのようなエコシステムは、データ漏洩が起こるたびに危険性が増す。そして、知識へアクセスするための価格が引き上げられることで、十分なサービスを受けていない地域社会とアメリカンドリームとの間に、さらに多くの障壁が築かれる。

それだけにとどまらない。この判決は、パロディから教育、報道に至るまで、あらゆる分野において法的に極めて重要なフェアユースの原則を、ほとんど使えないものにもしてしまう。そして、たとえば、「寄付はこちら」ボタンによって非営利団体が営利団体へと魔法のように変わりはしないことを認めたことなど、時々健全さを見せる瞬間もあったものの、この判決は法律を明確にするどころか、破壊してしまった。

もし裁判所が今後もCDLに基づく図書館の貸し出しをフェアユースとして認めないのであれば、次のステップは議会に委ねられる。図書館は危機的状況にあり、縮小する予算と増大するサービス需要に挟まれ、身動きが取れなくなっている。議会は、私たちの地域社会の平等を支える柱が利益のために犠牲になることがないように、今すぐ行動を起こさなければならない。

クリス・ルイスは、公益のためにテクノロジー政策の具体化に取り組む消費者支援団体パブリック・ナレッジ(Public Knowledge)の代表兼CEO(最高経営責任者)。パブリック・ナレッジは、表現の自由、開かれたインターネット、手頃な価格のコミュニケーション・ツールやクリエイティブな作品へのアクセスを推進している。

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