生成AIはゲーム業界の働き方改革に役立つか?

What impact will AI have on video game development? 生成AIはゲーム業界の働き方改革に役立つか?

ビデオゲーム開発におけるゲーム内環境の構築は手間と時間のかかる作業だ。生成AIを使って同環境をテキスト・プロンプトから自動生成できるようになれば労働条件を改善できるかもしれないが、人々を失業に追い込む可能性もある。 by Scott J Mulligan2024.09.12

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ビデオゲーム業界は長きにわたり、「クランチ」(納期に間に合わせるためにゲーム開発者が長時間労働を強いられること)の恐怖に悩まされてきた。ビデオゲームの黎明期には、クランチは通過儀礼と見なされることが多かった。発売日が近づくと、肝が据わった熱心な開発者たちは、夢のゲームを完成させるために夜遅くまで働いていた。

しかし今では、クランチが美化されることは少なくなり、精神疾患や燃え尽き症候群を引き起こす危険がある搾取の一形態と見なされるようになっている。問題の一部は、かつてクランチ・タイムはゲーム発売直前を指していたが、今ではゲームの開発期間全体になっていることだ。ゲームが高価になるにつれ、企業には、開発者から搾取することで、さらに短期的な利益を上げようとするインセンティブが働く。

しかし、もし人工知能(AI)がゲーム開発の過酷な状況を改善するのに役立つとしたらどうだろう? それはすでに実現しているかもしれない。 ベンチャー・キャピタル(VC)のアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が実施した最近の世論調査によると、ゲーム開発スタジオの87%がゲーム内環境の作成に「ミッドジャーニー(Midjourney)」のような生成AI(ジェネレーティブAI)ツールを使用している。ゲームのテストやバグ探しに生成AIを利用しているスタジオもある。また、ユービーアイソフト(Ubisoft)は、AIを用いてさまざまな基本的な対話オプションを作成する実験をしている。

そして、さらなる「助っ人」も登場している。 ロブロックス(Roblox)のチームが開発したツールは、開発者がテキスト・プロンプト(指示テキスト)を入力するだけで瞬時に3D環境やシーンを作成できるようにすることを目的としている。通常、環境の作成には、小さなゲームの場合は1週間かかり、スタジオ・プロジェクトの場合はデザインの複雑さに応じてもっと長い時間がかかる。しかしロブロックスは、開発者の個人的なビジョンをほぼ瞬時に具現化することを目指している。

たとえば、仏教寺院のような内装の宇宙船をゲームの舞台にしたいとしよう。プロンプトに「〇〇のような宇宙船を作成」と入力するだけで、世界に一つだけのユニークな環境が即座に生成されるのだ。

ここでのテクノロジーは、ロブロックスだけでなく、どんな3D環境にも使用できる。詳しくはこちらの記事で説明しているが、簡単に言えば、チャットGPT(ChatGPT)のトークンが単語だとすると、ロブロックス・システムのトークンはより大きなシーンを構成する3Dキューブ(立方体)で、チャットGPTによるテキスト生成に相当する3D生成を可能にする。 つまり、このモデルは、人気ゲーム『グランド・セフト・オート(GTA:Grand Theft Auto)』の世界の街全体を生成するのに使える可能性があるということだ。とはいえ、私が目にしたロブロックスのデモは規模がはるかに小さく、レーストラックしか生成できなかった。従って、より現実的に言えば、このツールは『グランド・セフト・オート』の街の一部、たとえばスタジアムなどを作るのに使われるのだろう。少なくとも現時点では。

ロブロックスは、プロンプトでシーンを修正することもできるとしている。たとえば、仏教寺院のデザインに飽きてしまったとしよう。「宇宙船の内部を森にする」と再度プロンプトを入力すれば、瞬時に仏像がすべて木に変わるのだ。

もちろん、この種の作業の多くはすでに手作業でもできるが、それには多くの時間がかかる。 理想は、このようなテクノロジーによって、3Dアーティストが退屈な作業の一部をAIに任せることができるようになることだ (とはいえ、中には環境の構築は創造的でやりがいのある作業であり、さらには自分が一番好きな作業だと主張する人もいるかもしれない。AIが一瞬で環境を生み出すようになれば、環境の構築過程でゆっくりと環境を発見していく喜びが失われるかもしれない)。

私は個人的に、ビデオゲームにおけるAIに対してかなり懐疑的だ。元ゲーム開発者として、AIがキャラクターの台詞を作成するのに使われるという話を聞くと、少しぞっとする。台詞がひどく陳腐になることや、ライターが職を失う可能性を懸念している。それと同様に、3Dアーティストが仕事を失い、見た目が不自然な3D環境や、何の配慮も思考もなしにAIによって生成されたことが明らかな3D環境ばかりになってしまうことも懸念している。

AIの大きな波が押し寄せているのは明らかだ。そして、それがゲーム開発者のワークライフバランスの改善につながるかどうかは、このようなシステムがどのように実装されるかで決まるだろう。開発者は、退屈な作業を減らし、反復作業をなくすツールを手に入れることになるのだろうか。それとも、人間の同僚の数を減らし、「掘り下げる(delves)」や「展示する(showcasing)」といった単語を過剰に使う新しい同僚として生成AIを迎え入れることになるのだろうか。

ゲーム内の不適切発言も取り締まる

ロブロックスによる新たなツールの開発は、同社が昨年秋にゲーム内のボイスチャットをリアルタイムで分析するAIを導入したことに続くものだ。『コール・オブ・デューティ(Call of Duty)』のような他のゲームも同様のシステムを実装している。プレイヤーが汚い言葉を使用しているとAIが判断した場合、警告を発する。制限された言葉の使用が続くようであれば、そのプレイヤーは利用停止に(BAN)される。

ただ、AIによるコンテンツモデレーションは問題が多いことが判明している。膨大な情報に目を通し、迅速に評価を下すことができるAIの能力を活用すべきなのは自明のように思えるが、ニュアンスや文化的背景を完全に理解するのはAIにはまだ無理だ。だからといって、ビデオゲームへのAIの実装が止まることはない。ビデオゲームは、これまでも、そしてこれからも、AIの最新イノベーションの実験場の一つであり続けるだろう。AIがバーチャル世界の没入感と柔軟性をいかに向上するかについては、本誌のこちらの記事を参照してほしい。


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