ロボットは人間とはまったく異なる方法で周囲の世界を認識する。
通りを歩いているとき、私たちは、何に注意を払う必要があり、何に注意を払う必要がないか分かっている。通り過ぎる車、潜在的な危険、邪魔になる障害物などには注意を払う必要があるし、遠くを歩いている歩行者などには注意を払う必要がない。一方、ロボットは、周囲について受け取るすべての情報を同等の重要性で扱う。たとえば、無人乗用車は、重要であるかどうかにかかわらず、周囲の物事に関するデータを絶え間なく分析しなければならない。そうすることで、車を運転している人たちや歩行者の安全が確保されるのだが、そのためには多くのエネルギーと計算能力が必要になる。ロボットに、何を優先すべきで何を無視しても安全かを教えることにより、その負荷を軽減する方法があったらどうだろうか?
これが、オランダのアイントホーフェン工科大学のルネ・ファン・デ・モレングラフト教授が提唱する「レイジー・ロボット工学(Lazy Robotics、レイジーは「怠惰な」という意味)」という研究分野の根底にある考えだ。同教授は、あらゆる種類のロボットに、データに対して「怠け者」になるように教えることで、機械が人間をはじめとする現実世界の環境にある物事と、よりうまくやりとりする道が拓かれると考えている。基本的に、ロボットが情報をより効率的に扱えれば扱えるほど、それはより優れたものになる。
ファン・デ・モレングラフト教授のレイジー・ロボット工学は、研究者やロボット工学企業が、うまく柔軟に、そして可能な限り最も効率的に動作を完了できるよう、ロボットを訓練する際に現在採用しているアプローチの1つにすぎない。
ロボットが収集したデータをより賢くふるいにかけ、見過ごしても問題ないデータの優先順位を下げるように教えることで、ロボットをより安全で信頼性の高いものにすることができる。これはロボット工学コミュニティの長年の目標である。
ロボットがより広く採用されるためには、このようなタスクの簡素化が必要であるとファン・デ・モレングラフト教授は言う。現在のロボットのエネルギー使用量では拡張性がなく、法外な費用がかかり、環境にも悪影響を与えるからだ。「最高のロボットは怠け者のロボットだと思います」と同教授は話す。「ロボットは、人間と同じように、デフォルトでは怠け者であるべきです」。
怠け者になることを学ぶ
ファン・デ・モレングラフト教授は、こうした取り組みを試す面白い方法を思いついた。ロボットにサッカーを教えるというものだ。先日、同教授は自分の大学の自律ロボット・サッカーチームであるテック・ユナイテッド(Tech United)を率いて、「ロボカップ(サッカー場でロボットのスキルをテストする毎年恒例の国際ロボット工学・AIコンテスト)」で優勝した。サッカーはロボットにとって難しい挑戦だ。ゴールを決めるのもゴールをブロックするのも、すばやい制御された動き、戦略的な意思決定、協調性が求められるからだ。
最高のサッカー選手のように、集中して周囲の雑音を遮断することを学ぶことで、ロボットはエネルギー効率が向上(特にバッテリー駆動のロボットの場合)するだけでなく、ダイナミックで動きの速い状況でより賢明な判断を下せる可能性が高くなる。
テック・ユナイテッドのロボットは、ロボカップで対戦相手より優位に立つために、「怠け者」の戦術をいくつか使った。その1つのアプローチには、試合中ずっと変わらないサッカー場のレイアウトとラインマークを識別・マッピングして、サッカー場の「世界モデル」を作成することが含まれていた。こうすることで、バッテリー駆動のロボットは、貴重な電力を浪費につながる周囲の絶え間ないスキャンをする必要がなくなる。さらに …