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CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
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A brief guide to the greenhouse gases driving climate change

CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス

地球温暖化の原因となるのは二酸化炭素(CO2)だけではない。個別に見るとCO2に比べて影響は小さいかもしれないが、全体を見ると、気候変動への対応という課題の難度を引き上げている温室効果ガスの概要を紹介しよう。 by Casey Crownhart2024.09.27

この記事の3つのポイント
  1. 二酸化炭素は気候変動の主因だが、重要な温室効果ガスはほかにもある
  2. メタンは短命だが温暖化効果は二酸化炭素の約86倍と非常に高い
  3. フッ素系ガスは最も強力な温室効果ガスで二酸化炭素の1万倍以上の影響がある
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

これまであまり気にしたこともなかった気体のことが頭から離れない。六フッ化硫黄(SF6)は送電網の高圧設備に使われている。そして少々困ったことに、とんでもない温室効果ガスでもある。

温室効果ガスとは、大気中に熱を閉じ込める気体のことである。SF6を含めたフッ素系ガスが地球を暖める力は、二酸化炭素の数千倍にもなる。しかし流出する量が比較的少量なため、めったに話題に上らない。個別に見れば、二酸化炭素に比べてその影響は微々たるものかもしれない。しかし全体を見ると、気候変動への対応という課題の難度を大きく引き上げる要因になる。

六フッ化硫黄の詳細については、先日の私の記事に目を通してほしい。一方、本記事では、知っておくべき最も重要な温室効果ガスについての概要を短くまとめておいた。

二酸化炭素:温室効果ガスの主役

温室効果ガスをリストアップするにあたって、その代表格に一切触れないわけにはいかない。2023年、人間の活動によって374億トンの二酸化炭素が大気中に放出された。二酸化炭素(CO2)は私たちが排出する温室効果ガスの中で最も多く、気候変動を推進する原因として筆頭に来る。

CO2がどれほどの期間大気中にとどまるのか、正確に特定するのは難しい。というのもCO2は地球規模の炭素循環に組み込まれているからだ。一部は海や森林などの生態系がすぐに吸収するが、残りは何世紀も大気中にとどまる。

経済活動のほぼ全てが二酸化炭素の発生源となる。最大のものは発電所であり、次いで運輸、そして産業活動だ。

メタン:短命ながらも影響は絶大

メタンも気候変動の強力な要因である。これまでに起こった気温上昇の約30%をメタンが引き起こしているが、大気中に存在する量は二酸化炭素の方が約200倍多い。

メタンガスの一番の特徴は寿命が非常に短いことで、大気中に出てからおよそ10年で分解される。しかしその間に、メタンは同量の二酸化炭素の約86倍の温暖化を引き起こす。(注記:温室効果ガスの比較は通常、一定期間にわたって実施される。気体の寿命はそれぞれ異なる上、大気化学と物理学の複雑さを単一の数字で表すことはできないからだ。)

メタンの最大の発生源は化石燃料産業、農業、そして廃棄物である。石油や天然ガスの採掘過程でメタンの漏出を減らすことは、メタン排出量を削減する最も簡単で、かつ現在実行可能な方法のひとつである。また、人工衛星をはじめとしたさまざまな手法でメタンをより正確に追跡し、最も排出量の多い石油・ガス会社の責任を追及する動きが高まっている。

亜酸化窒素:笑い話では済まない

亜酸化窒素を歯医者で知ったという人もいるかもしれない。歯医者では「笑気ガス」と呼ばれることもある。ただし気候変動に及ぼす影響は深刻で、現在までの温暖化のおよそ6%を引き起こしてきた。

亜酸化窒素の排出源はほぼすべてが農業である。特定の窒素肥料を散布すると、バクテリアが化学物質を分解する際に亜酸化窒素が放出される。このほか、特定の農業廃棄物を燃やしても排出される。

亜酸化窒素の排出量は1980年から2020年にかけておよそ40%増加した。この気体はおよそ1世紀の間大気中にとどまる。そしてその間に、同じ期間に二酸化炭素が閉じ込める量の200倍以上の熱を閉じ込める。

亜酸化窒素の排出量削減には、主に農業における土壌管理方法の慎重な調整が求められる。合成肥料の使用を減らし、使用する肥料をより効率的に散布し、できるだけ排出量をカットできるような製品を選択することが、私たちに打てる主な手である。

フッ素系ガス:静かなる巨人

最後の紹介となるフッ素系ガスもこれまでのものに劣らず重要だ。これは私たちが排出する温室効果ガスの中でも最も強力な部類に入る。ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)など、さまざまな物質がこれに該当する。これらは大気中に何世紀(ことによると何千年)もとどまり、そのいずれもが少なくとも二酸化炭素の1万倍以上の温暖化効果を発揮するなど、驚くほどの影響を及ぼす。

HFCは冷媒であり、エアコンや冷蔵庫などの電化製品に使われている。ヒートポンプにまつわる主要な研究分野のひとつは、地球温暖化を引き起こさない代替冷媒の探索である。HFCは他にも、ヘアスプレーなどのスプレー缶や難燃剤、溶剤にも使われる。

SF6は高電圧の電力設備に使われており、気候変動に関する国際パネルで取り上げられた温室効果ガスの中でも群を抜いて最悪のものだ。これは1世紀の間に、二酸化炭素の2万3500倍の温暖化効果を発揮する。科学者たちは代替物質を探しているが、それは難しいことが判明しつつある。これについては私の先日の記事を読んでみてほしい。

とはいえ望みはある。フッ素系ガスに関しては状況を変えられることがもうわかっているのだ。私たちはすでに、フッ素系ガスのひとつであるクロロフルオロカーボン(CFC)から脱却している。これはもっぱら、現在HFCを使用しているのと同じ産業で使用されていたが、オゾン層に穴を開けるという厄介な性質を持っていた。1987年のモントリオール議定書により、フロン類の段階的廃止に向けた動きが始まった。このような変化を起こさなければ、私たちははるかに急激な温暖化への道をひた走るだろう

MITテクノロジーレビューの関連記事

大気からメタンを除去する化学反応を加速あるいは促進しようと考える科学者がいる。その中には、鉄粒子を海上に散布することを目指す研究者や企業もある。

メタンガスは食品廃棄物からも発生する。それを大気中に放出させるのではなく、回収してエネルギーとして利用しようとする企業がある。

航空機からの二酸化炭素排出は、航空業界による気候変動の原因のひとつに過ぎない。飛行機は水蒸気と粒子状物質の雲も排出し、それが飛行機雲になる。そしてこれは、空の旅が引き起こす温暖化の大きな原因となっている。飛行機を迂回させればその影響を軽減できるかもしれない


気候変動の「臨界点」に警報、英国が研究投資

私たちは気候変動の臨界点に少しずつ近づいている。これは、生態系や地球のはたらきがフィードバック・ループや急激な変化を起こしうる閾値である。気候の臨界点に危険なほど迫った時に警告を発する早期警戒システムを開発するため、英国の研究機関が1億600万ドルをかけた取り組みを開始したばかりだ。

同機関はもっぱら2つの点に注目する。ひとつは グリーンランド氷床の融解、もうひとつは北大西洋亜寒帯循環の減衰だ。プログラムの目標については、本誌のジェームス・テンプルの最新記事に記載がある。

気候変動関連の最近の話題

  • フォルクスワーゲン(Volkswagen)は過去6年にわたって電気自動車(EV)、バッテリー、そしてソフトウェア関連のスタートアップ企業に200億ドル以上を投じてきた。このような手当たり次第のアプローチが電気自動車事業の競争においてプラスになっているかどうかは、専門家にとっても不透明だ。(ザ・インフォメーション
  • 雲が気候変動にどう影響するかがようやく理解され始めた。雲は光を宇宙空間に反射するが、同時に熱を大気中に閉じ込める。研究者は、これが将来の気候に及ぼす影響を解き明かしつつある。(ニュー・サイエンティスト誌
  • 米国内の自動車は大型化を続けているが、これは命の危険につながる傾向である。大型車は乗り手にとっては安全だが、周囲の人間にとっては危険度が高い。(エコノミスト誌
    →加えて大型車は、走行に大型の電池(バッテリー)と多量の電力を必要とするため、気候変動の面でも問題になりうる。(MITテクノロジーレビュー
  • 植物ベースのミート業界は、米国での消費者獲得に苦労しており、売上は減少している。その支持者は今、議会に助けを求めている。(ヴォックス
  • ラスト・エナジー(last Energy)は小型原子炉の建設を目指すスタートアップ企業で、最近4000万ドルの資金を確保したばかりだ。同社は積極的なスケジュールを達成できると主張しており、早ければ2026年に最初の原子炉を欧州で稼働させると述べている。(カナリー・メディア
  • 2050年までに4300万トンの風力タービンブレードが埋立地に送られる可能性がある。研究者によると、ブレードをリサイクル可能にする代替素材を発見したという。(ニューヨーク・タイムズ紙
    →今あるブレードに含まれるグラスファイバーを化学的手法でリサイクルすることを目指す研究もある。(MITテクノロジーレビュー
  • 英国最後の石炭火力発電所が9月末に停止する。この発電所への最後の燃料がちょうど搬入されたところだ。(BBC
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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