耳をすませば: 私たちを取り巻く響きの世界

The author who listens to the sound of the cosmos 耳をすませば:
私たちを取り巻く響きの世界

私たちを取り巻く世界は、想像以上に音で満ちている。海の深みから宇宙の果てまで、生命の営みから地球の鼓動まで、耳をすませば驚くべき音の世界が広がっている。3冊の本を通じて、その不思議な世界を覗く旅に出かけよう。 by Bryan Gardiner2024.09.24

1983年、ミュージシャンでサウンドスケープ(自然環境音)生態学者のバーニー・クラウスは、フィールド・レコーディングの仕事でケニアにいたとき、注目すべきことに気づいた。ある夜、ハイエナ、アマガエル、ゾウ、そして周囲の原生林の昆虫たちの鳴き声を、遅い時間にテントの中で横たわり聞いていたクラウスは、オーケストラのように奏でられる一種の集団演奏のようなものを耳にした。真夜中のノイズの無秩序な不協和音というよりも、それぞれの動物が決められた音域の中で歌っているように聞こえた。まるで、大きな森のシンフォニーの中の、生きた楽器のように。

この構造化された音楽性が現実のものなのか、それとも疲れ果てた心が創り出したものなのか確信が持てなかったクラウスは、帰宅後にサウンドスケープの録音をスペクトログラムで分析した。思った通り、昆虫はある特定の周波数帯を占めており、カエルは別の周波数帯、哺乳類もまったく別の周波数帯を占めていた。それぞれのグループが、広い音響スペクトルの中の独自の領域を確保していたのだ。この事実がコミュニケーションを容易にしているだけでなく、生態系の健全性や歴史に関する重要な情報を伝えるのに役立つのではないかとクラウスは考えた。

クラウスは2012年に出版した書籍『野生のオーケストラが聴こえる(The Great Animal Orchestra)』(みすず書房)の中で、自身の「ニッチ仮説」を説明し、そのシンフォニーのようなサウンドスケープを「バイオフォニー(biophony)」と呼んでいる。特定の生物群系において人間以外の生物が生み出すすべての音を示す、クラウスの造語である。クラウスは同僚のミシガン州立大学のスチュアート・ゲイジ主任研究員とともに、さらに「アンソロポフォニー(anthropophony)」と「ジオフォニー(geophony)」という2つの用語を作った。アンソロポフォニーは人類に関連する音(音楽、言語、交通渋滞、ジェット旅客機などの音)、ジオフォニーは地球の自然のプロセスに由来する音(風、波、火山、雷などの音)を指す。

オックスフォード在住の作家でジャーナリストのキャスパー・ヘンダーソンは、著書『A Book of Noises: Notes on the Auraculous(ノイズの本:オーラキュラスに関するメモ)』(2023年刊、未邦訳)の中で、クラウスの作ったサウンドスケープに関する3つの用語に対し、さらに「コスモフォニー(cosmophony)」、つまり「宇宙の音」を加えている。この4つのカテゴリーは、音と音楽の本質を探る短いながらも魅力的な旅の基礎を提供する役割を果たしている。48編の短いエッセーでは、人間の頭の中で何度も繰り返される音から、クジラの耳垢に至るまで、さまざまな話題を取り上げている。

ビッグバンの話から始めるのがいいだろう。ヘンダーソンの説明によれば、音は媒質の中を通る圧力波であり、媒質の密度が高いほど音は速く伝わる。ビッグバンから数十万年の間、宇宙は密度が高く、光は閉じ込められていたが、音は自由に通り抜けることができた。この若い宇宙の原始プラズマが冷え、膨張が続くにつれて、物質がそのような宇宙波の波紋に沿って集まり、やがて我々の銀河と同じような星系を成す基盤になった。「現在、私たちが見ている宇宙は、当時の残響であり、その波が宇宙の大きさを測るのに役立ちます」とヘンダーソンは著書の中で述べている。

ビッグバンは、音を探求する旅を始めるには論理的な場所のように思えるかもしれない。しかし、コスモフォニーは、実際のところノイズに関する書籍に導入するには奇妙なカテゴリーである。結局、真空の宇宙に音はほとんど存在しないのだ。ヘンダーソンはこの問題をうまく避けるため、このセクションを短くし、人類が歴史的に天体の音についてどのように考えてきたかということに焦点を当てている。例えば、2つのエッセーで「球体の音楽」、つまり天体の動きによって生み出される一種の神秘的なハーモニーが存在するという考え方に対する、人類の数世紀にわたる執着について書いている。

音には物質が必要であり、物質がなければ音は存在しない。そのため、太陽系のさまざまな地球型惑星やガス状惑星で人間の声がどのように聞こえるかという異世界的な検証や、宇宙から届く視覚データを音楽やその他の形式の音声に変換してきた、音楽家や科学者たちの創造的な取り組みも取り上げられれている。これらの話は楽しく興味深い探求だが、同じくらい短い地球の音に関するジオフォニーのセクションが終わるまで、読者はヘンダーソンが副題で言及している「オーラキュラスネス(auraculousness)」、つまり「耳に関連する驚異」を感じ取ることができない。

バイオフォニーとアンソロポフォニーの両セクションの記述の多さと多様さから判断すると、ヘンダーソン自身も、その2つのカテゴリーの驚異に特に敏感なのではないかという印象を受ける。無理もないことだ。

人間界と人間以外の動物界における音の魅惑的な使われ方の多さには、あぜんとさせられる。そして、この書籍は最後の2つのセクションで、ヘンダーソンの散文とキュレーターとしての能力が真に輝き始める。「歌い始める」と言うべきなのかもしれない。

例えば、他の種の雄の鳴き声を無視するために独自の生物学的ノイズキャンセリング・システムを考案してきた雌のカエルや、「葉っぱを噛んで穴を開け、そこから頭を突き出してメガホン代わりにする」ことで鳴き声を増幅させるコオロギについて学ぶことができる。また、地面の振動を通して互いに耳を傾けコミュニケーションするゾウや、ハチの飛ぶ音に反応して花の蜜の糖分濃度を高める植物、コウモリが狩りに使う高周波のエコーロケーション(音の反響で周囲を探知)パルスを妨害する外骨格に小さな突起を持つ蛾の話も紹介される。

ヘンダー …

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