2012年頃、マサチューセッツ州ケンブリッジ市にあるパン屋で、スカイラー・ティビッツは3Dプリンティング会社のロゴ入りのシャツを着ている女性に気づいた。マサチューセッツ工科大学(MIT)で准教授を務め、デザイナーであり、コンピューター科学者でもあるティビッツは、女性に近づき、「どうして、機械から歩き出すようなものをプリントできないのでしょう?」と問いかけた。
このアイデアが、工業用3Dプリンティング会社ストラタシス(Stratasys)と、ティビッツ准教授が率いるMIT自己組織化研究所(Self-Assembly Lab)との間の、複数年にわたる共同研究のきっかけになった(Tシャツに入っていたロゴはストラタシスのものだった)。両者は協力して、機械から歩き出してはこないが、プリントされた後に形状や特性を変化させられる3Dプリント材料の研究を始めた。ティビッツ准教授はこのコンセプトを「4Dプリンティング」と名付けた。第4の次元は「時間」である。現在、4Dプリンティングは独自の分野を確立し、専門学会や何千本もの論文のテーマになっている。世界中の研究者が、自己調整型のバイオ医療機器やソフトロボットなどの潜在的な用途について研究している。
ドイツのアーヘン工科大学のトーマス・グリース教授(機械工学)は、変形する材料、正確に言うと変形後も元の形を「記憶」している材料というアイデアは、数十年前からすでに存在していたと話す。グリース教授はティビッツ准教授のイノベーションに触発され、大学で4D織物の研究を始めた。「しかし、そのコンセプトに名前を付け、次の段階、多くの人に知ってもらう段階にまで前進させたことは(中略)スカイラー・ティビッツ准教授のブレークスルーだったと言って間違いありません」。
4Dプリンティングが軌道に乗った後、間もなく、ティビッツ准教授はすでに新たな挑戦に目を向けていた。他にどんな能力を材料に組み込めるのだろうか? そして、それをプリントすることなく実現できないだろうか?
ティビッツ准教授は現在も、2011年頃に設立した自己組織化研究所でいくつもプリントをしている。自己組織化研究所は最近、大型で伸縮可能な家具や、義肢などの製品を、ジェルで満たした容器内でプリントできる企業、ラピッド・リキッド・プリント(Rapid Liquid Print)をボストンで立ち上げた。ティビッツ准教授はまた、溶けたアルミニウムから数秒で家具を作る「リキッド・メタル・プリンティング(Liquid Metal Printing)」という新たな手法を発明した。しかし、ティビッツ准教授の研究対象はプリンティングの範囲をはるかに超え、ティビッツ准教授自身が「プログラマブル材料」と呼ぶ世界にまで及んでいる。ロボット機構に頼ることなく変形、感知、形状や特性の再構成、または自己組織化が可能な材料のことである。
ティビッツ准教授が、材料を変形させることに初めて興味を抱いたのは、2000年代にフィラデルフィア大学で建築の学士号を取得した頃にまでさかのぼる。ここでティビッツ准教授は、2つの新興分野に「異常なほどの興味を抱く」ようになった。デジタル・ファブリケーション(3Dプリンターやレーザーカッターなどの機械にコードを実行させることで、物理的に何かを作ること)と、コンピューターを利用した設計だ。ティビッツ准教授は、同級生の父親が経営する看板屋で働き始めたが、そこには初期のコンピューター数値制御(CNC:Computerized Numerical Control)の機械があった(その同級生、ジャレッド・ラックスは現在、ティビッツ准教授と共同で自己組織化研究所の所長を務めている)。「当 …