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主張:生成AIがもたらす本質的なアクセシビリティを見落とすな
Sarah Rogers/MITTR | Photos Getty
AI could be a game changer for people with disabilities

主張:生成AIがもたらす本質的なアクセシビリティを見落とすな

人工知能(AI)にはさまざまな課題が山積しているが、アクセシビリティを大幅に向上させ、障害者に大きな恩恵をもたらす可能性についても評価すべきだ。 by Steven Aquino2024.08.27

この記事の3つのポイント
  1. AIは障害者の自立と社会参加を促進する可能性がある
  2. AIによる自動化は障害者の日常生活を大きく改善し得る
  3. AIの発展には障害者のニーズが大きな影響を与えるだろう
summarized by Claude 3

障害者として生まれ、常に数々の問題と格闘している人間の1人として、新しい技術を懐疑的な目で見る姿勢が自然と身についている。大部分の新技術は世の多数派、この場合は健常者向けに作られている。私がその技術を使えるかどうかについては保証がないのが現実だ。

もちろん例外もある。その代表例がアイフォーン(iPhone)だ。2009年に第3世代モデルが発売されるまで個別のアクセシビリティソフトウェアは存在しなかったが、それ以前の世代はそれでも革新的に感じられた。とても小さな画面と押しづらいボタンを備えた折り畳み式の携帯電話を長年使用した後では、初代のiPhoneが比較的大きな画面とタッチベースのUI(ユーザーインターフェイス)を有していたという事実それ自体が、使いやすさを意味していた。

広い範囲の技術において、アクセシビリティのこうした飛躍が人工知能(AI)によってさらに一般的になる可能性がある。だがおそらく、そのような可能性について耳にしたことはあまりないだろう。ニューヨーク・タイムズ紙は、チャットGPT(ChatGPT)が自社のコンテンツを取り込んだことについてオープンAI(OpenAI)を訴え、世間はAIツールの倫理について思いを巡らせている。その一方で、チャットGPTがさまざまな障害を持つ人々にもたらすことのできる恩恵については、あまり考察されていないようだ。視覚や運動能力に問題を抱える者にとって、チャットGPTを使って何かを調べられることは大きな救いになるだろう。グーグル検索の際に10個以上のタブを操ったり、関連する情報を管理したりしようとする代わりに、チャットGPTに1カ所に列挙してもらえばいいのだ。同じように、通常の方法で描くことができない芸術家が、音声指示でミッドジャーニー(Midjourney)やアドビ・ファイアフライ(Adobe Firefly)に自分のアイデアを創作させることも十分考えられる。それは、そうした人々が芸術の情熱を解放できる唯一の方法かもしれない。

私のように目がまったく見えなかったり弱視だったりする人々にとっては、他人の助けを借りることなく配車サービスを呼んでどこへでも行くことができれば、それは相当大きなことだ。

もちろん、データの正確性は精査する必要があるし、収集の際には許可を得なくてはならない。AIが障害者のコミュニティに関する誤情報、あるいは危険性のある差別的情報を提示してくることを警戒する理由はいくらでもある。それでも、AIベースのソフトウェアは真に支援テクノロジーになり得るもので、それがなければ不可能だったことを可能にしているという事実が過小評価(あるいは過小報告)されているように思える。AIは障害者に主体性と自立をもたらす可能性がある。それこそがアクセシビリティの本質なのだ。障害者のニーズに合わせて設計されていない社会において、人々を解放するのである。

映像の字幕や画像の説明を自動生成する機能は、自動化によってコンピューターや生産性の技術が使いやすくなる事例をさらに提示している。より広い文脈で言えば、急成長を続けている自律型移動手段のような技術には大きな興奮を覚えずにはいられない。大部分のテック系ジャーナリストやその他の業界ウォッチャーが自律走行車に関心を抱く理由は、その純粋な新規性にある。しかし、ウェイモ(Waymo)が稼働するジャガーSUVのような車両を支えるAIソフトウェアによって、障害者コミュニティの多数の人が文字通り移動に関する主体性を高めることができる。私のように目がまったく見えなかったり弱視だったりする人々にとっては、他人の助けを借りることなく配車サービスを呼んでどこへでも行くことができれば、それは相当大きなことだ。技術の将来的な成熟に伴い、目の見えない人がマイカーを購入できるところまで自律走行車が普及する未来は容易に想像できる。

同時に、AIは手足に障害を抱える人々のための技術においても重大な進展を可能にしている。何十年か後に、ほぼ実物のように動く人工の腕・脚・手・足が実現されれば、それは大きな喜びをもたらすだろう。ボストンのタタム・ロボティクス(Tatum Robotics)のチームは、ハードウェアとAIを組み合わせ、視聴覚障害者のコミュニケーション能力を向上させている。ロボットアームで手話の形をつくったり、手のひらで触れて理解できる米国手話の単語をつくったりできるのだ。自律走行車と同様、これらの応用例には、無数の人々の毎日の生活にプラスの影響を及ぼす非常に大きな可能性がある。そうした可能性は、単なるチャットボットを遥かに超えた範囲まで広がっている。

歴史的に見て、障害者が新規技術を最初期に取り入れてきた集団の1つであることには言及しておくべきだろう。それはAIについても同じだが、世間ではこの点への有意義な言及が常に欠けているようだ。何と言っても、AIはコンピューターの最大の長所である「自動化」の中核を担っている。時間の経過とともに、AIの成長・進化する過程が、障害者およびその無数のニーズや寛容さによって形成されていくことは間違いないし、それは消すことのできない事実となるだろう。それは情報や生産性へのアクセスを向上させ、最重要のポイントとして、社会全体へのアクセスも向上させるだろう。

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アクセシビリティや支援技術について取材しているフリーランスのテック系ジャーナリスト。サンフランシスコ在住。
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