プラごみが食べ物に?
環境・食糧問題に同時に挑む
米軍の革新的プロジェクト
微生物を利用して廃棄プラスチックを分解する方法はこれまでも研究されてきた。だが米国国防高等研究計画局(DARPA)のプロジェクトでは、廃棄プラスチックを食べる微生物を人間の食糧として利用する研究が進んでいる。 by Sara Talpos2024.08.23
- この記事の3つのポイント
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- プラスチック廃棄物を食料に変換するシステムを米国防総省が研究
- ミシガン工科大学などが微生物を使ったコンパクトなソリューションを開発中
- 食用微生物の安全性を示すエビデンスの提出が今後の課題
2019年、米国防総省内の機関が、軍が遠隔地や災害地帯に派遣された際に大量に発生するプラスチック廃棄物の処理に役立つ研究プロジェクトを公募した。同機関は、食品包装やペットボトルなどを、さまざまなものの中でも、燃料や食料といった使用可能な製品に変換できるシステムを求めていた。システムは、軍用車両「ハンヴィー(Humvee)」に搭載できるほど小型で、少ないエネルギーで稼働できる必要があった。また、プラスチックを分解する微生物の力を利用する必要もあった。
「4年前にこのプロジェクトを始めたとき、アイデアはありました。 理屈上は、理にかなっていました」と、資金提供を受けている3つの研究グループの1つを率いるミシガン工科大学の微生物学者、スティーブン・テクトマン准教授は述べた。しかし、当初、この取り組みは「実際に機能するものというよりも、SF小説のような感じでした」と同准教授は言う。
この不確実性は重要だった。米国国防高等研究計画局(DARPA)は、ハイリスク・ハイリターンのプロジェクトを支援している。つまり、個々の取り組みが失敗に終わる可能性が高いということだ。しかし、プロジェクトが成功すれば、真の科学的進歩となる可能性がある。「私たちの目標は、当初の『冗談だろ。何をしようっていうんだ』という、信じてもらえない状態から『もしかすると、これは実現可能かもしれない』と思ってもらえるまでに変えることです」。プラスチック廃棄物プロジェクトを監督するDARPAのプログラムマネージャー、レナード・テンダーは話す。
プラスチックの生産と廃棄の問題は周知の事実だ。国連環境計画(United Nations Environment Program)によると、世界では年間約4億4000万トンのプラスチック廃棄物が発生している。その多くは最終的に埋立地や海洋に廃棄され、マイクロプラスチック、プラスチックペレット、プラスチック袋が野生生物に脅威をもたらしている。多くの政府や専門家は、この問題の解決には生産量の削減が必要であることで意見が一致しており、一部の国や米国の州は、リサイクルを奨励する政策も導入している。
長年にわたり、科学者たちはさまざまな種類のプラスチックを食べるバクテリアの実験をしてきた。しかし、DARPAはプラスチックを使って全く別のもの、つまり人間の食料を作り出すコンパクトで移動可能なソリューションを探求するという、少し異なるアプローチを取っている。
テクトマン准教授は、プラスチックを人々に食べさせることが目的ではないと急いで付け加える。むしろ、自身のシステム内のプラスチックを食べる微生物自体が、人間による消費に適していることが証明されることを期待しているのだ。テクトマン准教授は、プロジェクトの大部分は1年か2年で準備が整うと考えているが、より長い時間がかかる可能性があるのは、この食品のステップだ。同准教授のチームは現在、毒性試験をしており、その後、結果を米国食品医薬局(FDA)に提出して審査を受ける予定だ。すべてが順調に進んだとしても、さらなる …
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