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資源の未来
ネオジムから考える
らせん型経済への道
TMY350 VIA WIKIMEDIA COMMONS
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This rare earth metal shows us the future of our planet’s resources

資源の未来
ネオジムから考える
らせん型経済への道

持続可能な社会を実現するために利用可能な資源量を推測することは、材料の需要が移り変わり、採掘やリサイクルの技術が進歩する中、困難さを増している。エネルギー転換によって需要の主役となったネオジムを例に、今後100年のサプライチェーンの課題を考える。 by Casey Crownhart2024.08.27

この記事の3つのポイント
  1. 地球上の資源量はほぼ一定だが技術革新により需要は増大している
  2. ネオジムなどのレアアースは今後供給不足に陥る可能性がある
  3. リサイクルや代替材料の開発により持続可能な資源利用を目指す必要がある
summarized by Claude 3

地表に衝突する隕石と軌道から放り出された宇宙船を除けば、この地球上で利用可能な資源の量はほとんど変わっていない。

資源に限りがあるという単純な事実は、技術革新のペースが速まり、私たちの社会がそれを維持するために必要とする材料の種類がますます増える中で、より明確かつ厳しいものになってきている。人類は資源を組織的に採掘し始めて以来、それらの物質がどれだけの期間、需要を満たし続けられるのか、予測を試みてきた。井戸からどれだけ水を汲み上げることができるのか、あるいは鉱山からどれだけ採掘できるのかを予測し、それに応じて何をどのように作るのか、考え直す必要が出てくるまでの時間はどれほどあるのだろうか。

予測はますます複雑になってきている。そして今では、製造したり廃棄したりした物体からどれだけの材料を回収できるかという話にもなってきている。アイフォーン(iPhone)の部品や、巨大な風力タービンの中身をリサイクルできるのか? 激しく変化する技術経済の中で、どの程度の物体を再循環させていくことができるのか?

将来的に私たちがどの程度の量の材料にアクセスできるのか。推測は困難な傾向にあり、その中心となる部分は暗黙の了解になっていることが多い。つまり、私たちは今後もおおよそ同じ材料で同じ製品を作り続けていくことが前提になっているのだ。だがテクノロジーの移り変わりは速く、次に何が必要かを私たちが理解したり、採掘やリサイクルのための専門的なシステムを開発したりする頃には、次世代のテクノロジーがあらゆる前提を陳腐化させてしまう可能性がある。

私たちは変革が起こりうる時代の真っ只中にいる。世界の動力源として必要な材料は化石燃料から、気候を変化させる温室効果ガスを排出しないエネルギー源へと移行し始めている。わずか1世紀と少しほど前に発見された金属が、今ではよりクリーンなエネルギーを得るために私たちが依存しているテクノロジーの下支えとなっており、そうした金属が不足すれば進歩が鈍る可能性がある。

レアアース(希土類元素)のひとつであるネオジムを例に考えてみよう。家庭ではなじみがない名前かもしれないが、数世代にわたって人類が依存してきた金属だ。20世紀初頭から、装飾的なガラスに紫がかった色味を与えるために利用されてきた。現在では、超伝導体のようなデバイスに必要な極低温を作り出すために低温冷却器に使用されたり、スマホから風力タービンまであらゆるものの動力源となる強力な磁石に用いられている。

今後の10年間で、ネオジムベースの磁石の需要は供給を上回る可能性がある。ネオジムの供給に関する長期的な見通しはそれほど深刻ではないものの、ネオジムの将来的な可能性を慎重に考えてみると、今後100年にわたって材料分野のサプライチェーン全体が直面するであろう課題の多くが見えてくる。

ピークパニック

材料の未来について考える前に、この手の予測を正確に立てることがどれだけ困難であり続けてきたかを指摘しておくことは重要だ。化石燃料の供給に関する継続的な理論を考えてみよう。

経済学の授業でよく語られるストーリーは、石油の供給に限りがあることから、いずれ世界の石油は枯渇する、という話だ。そうなる前に石油の生産量が最大に達し、そこから不可逆的に生産量が減少していくとされる。この石油の生産量が最大になるポイントは「ピークオイル」と呼ばれている。

この考え方の起源は1900年代初頭にまで遡る。中でも最も有名なもののひとつが、シェル(Shell)の地質学者だったM・キング・ハバートによる分析だ。ハバートは1956年に発表した論文で、地質学者が割り出した地球に存在する石油(および石炭や天然ガスなどの化石燃料)の総量について検討している。推定される供給量と世界がこれまで消費してきた量から、ハバートは米国の石油生産が1965年から1970年の間にピークを迎えた後、減少し始めると予測した。世界の石油生産のピークについてハバートは、少し遅れて2000年にやってくると予測した。

しばらくの間、ハバートの予測は正しいように思われた。米国の石油生産は1970年まで増加し、劇的なピークを迎えた。その後は、およそ2010年頃まで減少を続けた。だがその後、採掘や水圧破砕法といった手法が進歩し、これまで到達が困難だった採掘地を利用できるようになった。米国では2010年代を通じて石油生産が飛躍的に増加し、2023年時点での石油生産量は史上最多を記録した。

ピークオイル・パニックはハバートよりも長く生き残ってきたが、経済学者や地質学者が石油生産はピークに達した、もしくは到達しそうだと予測するたび、その予測は外れてきた(今までのところは)。

今、化石燃料生産が本当にピークを迎え、いずれ減少していくと考えうる新たな理由が存在する。その理由とは、エネルギー転換である。エネルギー転換とは、温室効果ガスを生み出すエネルギー源を離れ、再生可能エネルギーや低炭素の選択肢へと切り替えていくための壮大な取り組みを端的に言い表した言葉だ。

ハバートの理論は、供給の限界によって生産量がピークから減少していくことを余儀なくされる、というものだった。だが世界が気候変動の危機に気づき、風力、太陽光、原子力といった低炭素のエネルギー源が軌道に乗る中で、私たちは残りの石炭、石油、天然ガスに手を付けずに済むかもしれない。平たく言えば、供給ではなく需要の落ち込みによって生産量が減少する可能性があるということだ。

だが新たに勢いを得ているこうしたエネルギー源が、皮肉にも「ピーク」パニックの新たな発生源なのである。太陽光パネル、風力タービ …

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