どんなバイオハッキングの議論でも「参考資料1」として言及される「グローイングプラント(Glowing Plant:発光植物)」は、夜に発光する植物を作るという名目で2013年に48万4013ドルを集め大成功したキックスターターのキャンペーンだ。
しかし1つ問題がある。発光植物はいまだ誕生してないのだ。
「グローイングプラント」プロジェクトはその後「タクサ・バイオテクノロジーズ」に名前を変えたが、自家発光植物はいまだに生み出せていない。支援者に約束した植物の種はすでに2年遅れており、「頓挫したキックスターター」への道をたどっている。しかし、自社のウェブサイトでは依然、植物の事前予約を受け付けている。
「この一件でわかるのは、バイオテクノロジーはメディアでいわれているほど簡単ではないことです」と語るのは、ワシントンDCのウィルソン・センターに努めるトッド・クイケン研究員だ。合成生物学を研究しており、プロジェクトに出資していた。
「ガレージからウィルスや新生物を創造する話がよくありますが、レゴを組み立てるようにはいきませんよ」
しかし、キックスターターのキャンペーンでは簡単にできることになっていた。プロジェクト創設者のシナリオでは、ホタルや発光バクテリアの転写した遺伝子を植物に添加すると、緑色に光るはずだったのだ。40ドルを出資すると1年以内に植物がもらえ、150ドルを出すと発光バラの特典付きだ。プロジェクトの中核的な目標はタバコのゲノムに6つの遺伝子を組み込み、全体が代謝経路となるように調整することだが、かなり困難であることが判明した。遺伝子組み換え作物に得意とするモンサントなどの企業もそこまでの挑戦的ではない。
ケンブリッジ大学で数学を専攻した起業家でモバイルアプリのマーケターを務め、タクサでプロジェクトの指揮をとるアンソニー・エバンスCEOは「製品の選択がまずかったですね。実現可能性は五分五分といったところです。いまだに(約束の品を)発送できていないことを辛く感じていますが、資金を持ち逃げしたわけではありません」といった。事態はその対極にある。タクサは、給与や賃料、そして数百回の植物改変の試行のための遺伝子パーツの購入も含め、キックスターターで集めた以上の金額を使い果たしたのだ。これまでに費やした金額は90万ドル以上で、エンジェル投資家の資金も含まれている。
ペンシルベニア大学ウォートン校でクラウドファンディングを研究しているイーサン・モリック教授は、もし失敗すれば、発光植物はキックスターターでも大規模な頓挫プロジェクトの中になるという。また、キックスタータープロジェクトの約9%は、約束したものが提供されないという。法的な罰則はないが、プロジェクト創設者にとっては、何としても避けるべき汚点だ。
敗北を認めるどころか、エバンスCEOは現在クラウドファンディングサービスのウィーファンダーで100万ドルを調達しようとしている。ウィーファンダーは、5月に新たなルールを施行し、誰でもリスクの高い会社の株を買えるようになった。新手のキックスターターといったところだが、返礼品はモノではなく株である。エバンスCEOによれば、今回の資金調達ではもっと実現性の高いものを目指すようだ。遺伝子を1つだけ加え、パチョリ油のような香りがするコケをつくり出すという。
この空気を入れ換えるようなアイデアが受ければ会社は救われるかもしれない。それでも数千人のキックスターター出資者は発光植物を待ち続けるだろう。エバンスCEOは「頓挫したキックスタータープロジェクトにはなりたくありません。しかし返金する手段がないのも事実です」というが、もしタクサが最終的に発光植物を作れなかった場合は「適切な処置をとる」と述べた。キックスターターの出資者に、コケを配ったり会社の株を提供するのかもしれない。
成功したキャンペーン
発光植物は、DIYの生物学コミュニティから生まれたプロジェクトの中でも最大の衆目を集めた。コミュニティでは、プロやアマチュアの科学者がラボを共有したり、自宅で独自のプロジェクトを進めて、日々拡大している。趣味や教育として関わる人が大部分だが、大企業や学会以外で薬や新製品をつくろうとする野心的な試みも増えている。
バイオキュリ …