気候変動による低炭素社会の必要性を、共和党のドナルド・トランプ大統領候補が中国人の「詐欺」とみなしているのは米国ではよく知られている。トランプ候補のエネルギー政策は完全に「炭素派」だが、個別の政策は矛盾だらけだ。共和党は2016年の綱領で、石炭火力発電を「低炭素」な電力源と述べている。
ところが民主党が掲げる政策も、結果としては似たようなものだ。バラク・オバマ大統領はパリ協定に署名し、米国が排出する二酸化炭素量を削減すると大風呂敷を広げた。しかし、米国の最高裁判所がオバマ大統領の「クリーン・パワー・プラン」を差し止めたことで、二酸化炭素排出量の削減について、共和党と民主党の違いは実際上何もなくなった。
民主党のヒラリー・クリントン候補(予定)の気候変動計画は、オバマ大統領のクリーン・パワー・プランを踏襲している。また、クリントン候補は石油やガス業界への補助金を削減する公約を掲げており「合衆国を21世紀のクリーンエネルギー超大国にする」とも繰り返し述べている。
クリントン候補の主張は、再生可能エネルギーや二酸化炭素の排出量削減に正面から反対するトランプ候補の主張とは似ても似つかない。だがクリントン候補の気候変動に関する公約には、重大な論点が抜け落ちている。炭素税だ。
オバマ大統領は、米国が2025年までに電力の半分を二酸化炭素を排出しない方法でまかなう目標を掲げたが、ここ数年で排出量が減っているとしても、実現はまず不可能である。もちろんクリーン・パワー・プランを実施できれば達成できるかもしれない。米国環境保護庁の見積もりでは、2030年までに、工場が使うエネルギーの炭素排出量を現在の32%(2005年の水準)未満に削減できる。だが、連邦政府は各州に削減しろとは指示するが、この方法で排出しろとはいわない。
炭素に値段をつけるのは各州が採用しうる方法だ。しかも「キャップ・アンド・トレードスキーム」(排出枠の設定と余剰排出枠の取引)や、発電所が排出する炭素1トンごとに料金を設定するなど、いくつかの形態で実施できる。排出権の設定は、酸性雨やNOx対策で効果があったように、エネルギー業界の二酸化炭素排出量を削減できるかもしれない。実際、排出権は、オバマ政権が内外に約束した変化を起こし、地球温暖化を抑える唯一の方法だが、「税金」が不人気な民主主義国の政治家が、あえてやりたがらない方法でもある。
実は、今週初めまで、民主党の大統領候補をクリントン前国務長官と争ったバーニー・サンダース上院議員は、炭素税を支持する唯一の大統領候補だった。民主党の大統領候補がクリントン前国務長官にほぼ決まった今、2016年の大統領選で炭素税は話題にならないだろう。気候変動について有意義な対策も議論されることはない。