KADOKAWA Technology Review
×
MITTRが選ぶ35歳未満のイノベーター「IU35 2024 Japan」発表!
11/20授賞式開催決定
Hillary Clinton’s Climate Plan Needs a Carbon Tax

トランプの環境政策は間抜け
結果的にはクリントンも同じ

米国では、共和党も民主党も、二酸化炭素排出量の削減を大統領選で扱うのをやめた。 by Michael Reilly2016.07.15

気候変動による低炭素社会の必要性を、共和党のドナルド・トランプ大統領候補が中国人の「詐欺」とみなしているのは米国ではよく知られている。トランプ候補のエネルギー政策は完全に「炭素派」だが、個別の政策は矛盾だらけだ。共和党は2016年の綱領で、石炭火力発電を「低炭素」な電力源と述べている。

ところが民主党が掲げる政策も、結果としては似たようなものだ。バラク・オバマ大統領はパリ協定に署名し、米国が排出する二酸化炭素量を削減すると大風呂敷を広げた。しかし、米国の最高裁判所がオバマ大統領の「クリーン・パワー・プラン」を差し止めたことで、二酸化炭素排出量の削減について、共和党と民主党の違いは実際上何もなくなった。

民主党のヒラリー・クリントン候補(予定)の気候変動計画は、オバマ大統領のクリーン・パワー・プランを踏襲している。また、クリントン候補は石油やガス業界への補助金を削減する公約を掲げており「合衆国を21世紀のクリーンエネルギー超大国にする」とも繰り返し述べている。

クリントン候補の主張は、再生可能エネルギーや二酸化炭素の排出量削減に正面から反対するトランプ候補の主張とは似ても似つかない。だがクリントン候補の気候変動に関する公約には、重大な論点が抜け落ちている。炭素税だ。

オバマ大統領は、米国が2025年までに電力の半分を二酸化炭素を排出しない方法でまかなう目標を掲げたが、ここ数年で排出量が減っているとしても、実現はまず不可能である。もちろんクリーン・パワー・プランを実施できれば達成できるかもしれない。米国環境保護庁の見積もりでは、2030年までに、工場が使うエネルギーの炭素排出量を現在の32%(2005年の水準)未満に削減できる。だが、連邦政府は各州に削減しろとは指示するが、この方法で排出しろとはいわない。

炭素に値段をつけるのは各州が採用しうる方法だ。しかも「キャップ・アンド・トレードスキーム」(排出枠の設定と余剰排出枠の取引)や、発電所が排出する炭素1トンごとに料金を設定するなど、いくつかの形態で実施できる。排出権の設定は、酸性雨やNOx対策で効果があったように、エネルギー業界の二酸化炭素排出量を削減できるかもしれない。実際、排出権は、オバマ政権が内外に約束した変化を起こし、地球温暖化を抑える唯一の方法だが、「税金」が不人気な民主主義国の政治家が、あえてやりたがらない方法でもある。

実は、今週初めまで、民主党の大統領候補をクリントン前国務長官と争ったバーニー・サンダース上院議員は、炭素税を支持する唯一の大統領候補だった。民主党の大統領候補がクリントン前国務長官にほぼ決まった今、2016年の大統領選で炭素税は話題にならないだろう。気候変動について有意義な対策も議論されることはない。

関連ページ

人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る