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「脳の交換」で死を克服、
米政府機関が1億ドルの
狂気的アイデアを採用
Stephanie Arnett / MIT Technology Review
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This researcher wants to replace your brain, little by little

「脳の交換」で死を克服、
米政府機関が1億ドルの
狂気的アイデアを採用

米政府研究機関は、老衰による死を回避するために体のすべて、脳まで含めた入れ替えを提案している研究者をプログラムマネージャーとして採用した。1億1000万ドル規模の研究資金を提供する。 by Antonio Regalado2024.08.22

この記事の3つのポイント
  1. 米国医療高等研究計画局が死の克服を目指す急進的な研究者を採用
  2. 体の各部位を交換することで老化による死を回避できる考えを持つ
  3. 未熟な組織を付加していく漸進的な方法による脳の交換を提案
summarized by Claude 3

健康に関する壮大なブレークスルーを目指す米国の機関が、死の克服に向けた極めて急進的なプランを提唱している研究者を採用した。

彼のアイデアは体の各部位の交換である。体のすべて、脳までもである。

米国医療高等研究計画局(ARPA-H)に新たに採用されたジャン・エベール博士は、「機能的な脳組織の置換(functional brain tissue replacement)」に関する新たな大規模イニシアチブを主導する見込みだ。機能的な脳組織の置換とは、未熟な組織を人の脳に付加するというアイデアである。

ジョー・バイデン大統領は2022年、変革を起こす可能性を秘めた「大胆で緊急性のあるイノベーション」を求めて、米保健福祉省内の機関としてARPA-Hを創設した。

脳再生のコンセプトは、脳機能の一部を失った脳卒中患者の治療などに応用できる可能性がある。だが、アルベルト・アインシュタイン医学校の生物学者であるエベール博士は、老衰による死を回避するための唯一妥当性のある手段として、人体の他部位の交換と合わせて、脳全体の入れ替えを最も頻繁に提案してきた人物だ。

エベール博士は、2020年に刊行された著作『Replacing Aging(老化を置き換える)』(未邦訳)で述べているとおり、人が永久に生き続けるには体のあらゆる部位を新しいものと取り替える方法を見つける必要があると考えている。走行距離を重ねた車が新しいストラット式サスペンションやスパークプラグに交換することで走り続けるのに非常に似ている。

すでに肝臓移植、チタン製の人工股関節、人工角膜、代替心臓弁などが存在することで、このアイデアには妥当性の後光が差している。最も困難なのが脳だ。脳も老化し、高齢になると劇的に縮小する。だが脳を取り替えることは避けたい。なぜなら、脳はあなた自身であるからだ。

そこでエベール博士の研究の出番である。彼はラボで作られた未熟な組織の断片を付加していくことで、脳を「漸進的に」置き換える方法を模索してきた。このプロセスは脳が適応し、記憶と自己同一性を配置し直せるように、順を追って十分な時間を掛けて実施する必要がある。

今年の春、アルベルト・アインシュタイン医学校のエベール博士のラボを訪れた際に、彼はMITテクノロジーレビューに対し、マウスを使ってどのように初期実験をしてきたかを披露してくれた。マウスの脳の各部位をわずかに切除し、そこに液状の胚細胞を注入するというのがその内容である。これは未熟な組織が生存し、重要な機能を引き継げるかどうかを証明するための一歩だ。

念のために述べておくと、この戦略は老化分野の研究者も含め、広く受け入れられているわけではない。「表面的には完全に狂気じみた話に聞こえますが、彼が実にうまく自分の主張の根拠を述べていたことに驚きました」。老化研究企業、オイシン・バイオテクノロジーズ(Oisín Biotechnologies)の最高経営責任者(CEO)で、今年エベール博士と出会ったマシュー・ショルツはそう話す。

ショルツCEOは今でも懐疑的だ。「新しい脳は人気のアイテムにはならないでしょう。どうやって切るにせよ、外科的な要素が非常にシビアになります」。

だが現時点で、エベール博士のアイデアは米国政府からの大きな後ろ盾を得たようだ。同博士はMITテクノロジーレビューに対し、猿やその他の動物で自身のアイデアを証明するためにARPA-Hに1億1000万ドル規模のプロジェクトを提案したところ、政府はその金額を「即座に受け入れた」と語る。

ARPA-Hは、エベール博士をプログラムマネージャーとして採用したことを認めた。

ステルス戦闘機の開発をした米国防総省(DOD)内の米国国防先端研究計画局(DARPA)を手本に創設された米国医療高等研究計画局(ARPA-H)は、新たなテクノロジーを開発するための契約において、マネージャーに対して異例の自由裁量を与えている。ARPA-Hの初期のプログラムでは、家庭でのがん検査の開発、眼球移植による失明の治療といった取り組みが実施されている。

エベール博士の新プロジェクトの詳細が発表されるまでには数カ月かかるかもしれない。また、ARPA-Hが急進的な寿命延長という極端なアイデアではなく、脳卒中やアルツハイマー病患者といった脳に損傷を受けた人々の治療など、より型通りの目標を設定する可能性もある。

「もしうまくいけば、老化を気にする必要がなくなります。あらゆる種類の神経変性疾患に有効性を発揮するでしょう」。長寿科学者で起業家のジャスティン・レボはそう話す。

だがエベール博士が目標に掲げているのは死の克服だ。「私は変わった子どもでした。人は皆老いて死ぬのだと知った時、『なんで皆それを受け入れているの?』と思ったんです。そしてその思いが、私のあらゆる行動の指針となってきました」とエベール博士は話す。「 …

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