米国国土安全保障省(DHS)は、乳児も含めた移民の子どもたちが成長しても、その身元を追跡できる顔認識テクノロジー(FRT)を模索している。同省生体認証管理局(OBIM)副局長、ジョン・ボイドによると、同副局長が担う重要な役割の1つは、政府のために将来の生体認証身元サービスを研究・開発することだ。
ボイド副局長が6月にある会議で説明したように、生体認証管理局にとって重要な問題は、「例えば、南部国境でパナマから来た4歳の子どもを検知し、次に6歳になった時に検知した場合、その子どもを同一人物だと確認できるのか?」ということだ。
顔認識テクノロジーは従来、子どもには適用されていなかった。その主な理由は、実際の子どもの顔の訓練用データセットが非常に少なく、インターネットから収集された低品質の画像か、多様性に乏しい少数のサンプルしかなかったからだ。こうした制約は、未成年者に関するプライバシーと同意の問題に対する重要な配慮によるものだ。
シラキュース大学の記録アクセス情報センター(TRAC:Transactional Records Access Clearinghouse)によると、現在入手可能な最新データである2022年の時点で、33万9234人の子どもたちが米国とメキシコの国境にやって来た。そのうち15万人が、保護者が同伴しない1人きりの子どもたちで、年間における過去最高の人数だった。仮にそのような子どもたちの1%でも生体認証管理局の「頭蓋顔面構造進行プログラム(craniofacial structural progression initiative)」に顔のデータが登録されれば、結果として得られるデータセットは、実際に加齢研究に使用されている子どもの顔の既存データセットのほぼすべてを大幅に上回る規模になるだろう。
この記事が公開される前にボイド副局長は本誌に対し、同副局長が知る限り、頭蓋顔面構造進行イニシアチブの下でのデータ収集は開始していないと話した。しかし、「上級管理者」としてスタッフに確認する必要があるとも付け加えた。同副局長に確認できたのは、同局がこのイニシアチブに「資金を提供している」ことだけだった。再三の要請にもかかわらず、同副局長からそれ以上の情報提供はなかった。この記事が公開された後、DHSは14歳未満の未成年者から顔画像を収集する計画はないと否定している。
ボイド副局長は、DHSの一部の部門や下部組織で、生体認証データの収集に対する年齢制限を撤廃する最近の「規則制定」について説明した。税関・国境警備局(CBP)、運輸保安局(TSA)、移民・税関捜査局(ICE)は、記事公開前に要請したコメントを拒否した。市民権・移民局(USCIS)にも複数回コメントを要請したが、応答がなかった。生体認証管理局は本誌の問い合わせに対して、DHSの広報本部に再度問い合わせるよう伝えてきた。
DHSはこの記事の公開前に頭蓋顔面構造進行イニシアチブに関してコメントしなかったが、記事公開後、電子メールで声明が送られてきた。「DHSは任務遂行のため、一部の生体認証機能を含むさまざまな形態のテクノロジーを使用しています。DHSは、種類にかかわらずすべての技術を、確立された権限の下、法律の範囲内で運用することを保証します。私たちは、国の安全と安心を守るために使用するテクノロジーの対象となり得るすべての個人のプライバシー、市民権、市民的自由の保護に務めています」。
その後、「DHSは14歳未満の未成年者から顔画像を収集せず、現在も運用または研究の目的で収集する計画はありません」と述べ、ボイド副局長の(年齢制限撤廃)発言を訂正した。
ボイド副局長は6月、個人識別管理に関する連邦政府職員・業務委託先に向けた年次会議「連邦アイデンティティ・フォーラム/展示会(Federal Identity Forum and Exposition、以降アイデンティティ・フォーラム)」で、このイニシアチブについて公に話した。しかし、DHSの動向に詳しい複数の関係者(元職員、連邦政府による監視技術の使用について声を上げている2人の有力議員の代表、移民に関する政策を注視している移民権利団体など)は、14歳未満の子どもの生体認証データ収集を許可する新しい方針について把握していなかった。
全員が驚いているわけではない。「予想通りです」と述べたのは、いくつかの移民処理センターを訪問したことがある税関・国境警備局の元職員(匿名希望)だ。この元職員によれば、「訪れたすべてのセンターで」生体認証データの収集が実施されており、「(移民や難民)全員からデータが収集されていた」という。ただし、そのような収集を義務付ける方針があるのかどうかは知らなかったと話す。「子どもたちを除外していた記憶はありません」と元職員は付け加えた。
「税関・国境警備局や、より広範囲に及ぶ管轄権のあるDHSが、移民の子どもたちを追跡するために顔認識テクノロジーの使用を拡大しているという報告は、監視国家に向かってさらに一歩踏み出すものであり、プライバシーを重視するすべての人々にとって懸念すべきことです」。オレゴン州選出のジェフ・マークリー上院議員(民主党)の下で広報副部長を務めるジャスティン・クラッコフは、本誌に宛てた声明でこう述べている。同上院議員はこれまで、DHSの移民政策と政府による顔認識技術の使用に対して公然と批判してきた。
一部の専門家は、プライバシー、透明性、説明責任に関する懸念だけでなく、同意を提供または保留する手段をほとんど持たない人々を、生体認証技術のテストや開発の対象にすることについても問題視している。
『The Walls Have Eyes: Surviving Migration in the Age of AI(壁に目あり:AI時代の移住を生き抜く)』(2024年刊、未邦訳)の著者、ペトラ・モルナーは問いかける。「もし国境に到着して(中略)生体認証データを提供すれば入国できるが、提供しなければ入国できないという選択を迫られたとしたら(どうするでしょうか)」。
「そのような選択は、インフォームド・コンセントを完全に無効にしてしまいます」とモルナーは付け加えた。
子どもに関しては、この問題がさらに難しくなると、米国自由人権協会(ACLU)の上級専属弁護士、アシュリー・ゴルスキーは言う。「そこには重大な脅迫の要素が存在します。そ …