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家族に迫る「最期の決断」
AIはそのとき力になるか?
Stephanie Arnett / MIT Technology Review | Getty Images
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End of life decisions are difficult and distressing. Could AI help?

家族に迫る「最期の決断」
AIはそのとき力になるか?

意思表示ができない患者に代わり、家族が下す「最期の決断」。その重圧を和らげるため、AIによる意思推定システムの開発が米国で検討されている。患者の望みをより正確に反映できるのか、それとも新たな問題を引き起こすのか。議論が始まっている。 by Jessica Hamzelou2024.08.07

この記事の3つのポイント
  1. 終末期の意思決定の負担を軽減するためAIツールの開発が検討されている
  2. 患者の医療データやSNS投稿などを基に患者の望む治療を予測
  3. 倫理的懸念があるものの患者や家族の意思決定の一助となる可能性
summarized by Claude 3

数カ月前、50代半ばの女性(仮にソフィーと呼ぶ)が出血性脳卒中を起こした。脳内出血が始まり、脳の手術を受けたが、ソフィーの心臓は止まってしまった。

ソフィーはこの苦難により、脳に大きな障害が残った。彼女は反応を失った。手を握ったり、目を開けたりすることを求められてもできず、皮膚をつねられてもぴくりともしなかった。呼吸ができないため首には気管切開チューブが、飲み込むことができないため胃には直接栄養を送る栄養チューブが必要だった。この後、ソフィーの治療はどこへ向かうべきなのだろうか?

この種の状況ではよくあるように、難問はソフィーの家族に委ねられたと、治療に関わったテキサス州にあるベイラー医科大学の内科医、ホランド・カプラン助教授は振り返る。しかし、家族の意見は一致しなかった。ソフィーの娘は、母親が治療をやめて安らかに死ぬことを望んでいるだろうとかたくなに主張した。別の家族は強く反対し、ソフィーは「ファイター」であると主張した。この状況は、ソフィーの主治医を含め、関係者全員を苦しめた。

本人の代わりに終末期の意思決定をしなければならない代理人は、強く動揺する。米国立衛生研究所(NIH)の生命倫理学者、デビッド・ウェンドラー研究倫理部長は言う。同部長らは、状況ごとに患者が何を望むかを予測するのに役立つ人工知能(AI)ベースのツールという、代理人の負担を軽減し、より良い意思決定を助けるアイデアに取り組んでいる。

このツールはまだ出来上がっていない。しかし、ウェンドラー部長は、本人の医療データ、個人的なメッセージ、ソーシャルメディアへの投稿を基に、このツールの訓練を計画している。同部長は、このツールが患者の望むことをより正確に解き明かすだけでなく、家族にとって難しい意思決定のストレスや精神的負担を和らげることも期待している。

ウェンドラー部長は、オックスフォード大学の生命倫理学者ブライアン・アープ上級研究員らと共に、資金が確保でき次第すぐに(おそらく数カ月以内に)このツールの構築を始めたいと考えだ。しかし、このツールを展開することは単純ではない。批評家たちは、このようなツールをある人のデータで倫理的に訓練できる方法や、生死に関わる決断をAIに委ねることの可否について、疑問を呈している。

生か死か

医療現場ではおよそ34%の人が、さまざまな理由で自分の治療について意思決定ができないと考えられている。例えば、意識がなかったり、論理的に考えられなかったり、意思疎通ができなかったりするからかもしれない。そうした人の割合は高齢者ほど高く、米国の60歳以上の人を対象にした調査では、自分の治療について重要な決断に直面する人の70%が、自分自身で決断する能力を欠いていることが分かった。「決断する事柄が多いだけではありません。本当に重要な決断が多いのです」とウェンドラー部長は言う。「基本的に、近い将来その人が生きるか死ぬかを決める種類の決断です」。

心不全に対して胸部圧迫(心臓マッサージの一部)をすれば、その人の寿命は延びるかもしれない。しかし、その治療によって胸骨や肋骨が折れる可能性がある。また、息を吹き返すことがあったとしても、脳の深刻な損傷が進行しているかもしれない。機械を使って心臓と肺の機能を維持すれば、他の臓器へ酸素を含んだ血液を供給し続けられるかもしれない。だが回復の保証はなく、その間に多くの感染症を発症する可能性もある。末期患者はそのまま病院にとどまり、寿命をあと数週間か数カ月延ばしてくれる可能性のある薬や処置を試すことを続けたいと思うかもしれない。しかし、そのような介入を諦め、自宅でもっと快適に過ごしたいと考える人もいるかもしれない。

終末期の意思決定を明示しておく法的文書「事前指示書(Advance Directive)」を何らかの形で作成している成人米国人は、3人に1人だけである。ウェンドラー部長の推定によれば、終末期の意思決定の90%以上は、患者以外の誰かによって遂げられることになるという。代理人の役割は、患者が受けることを望むであろう治療に関する信念に基づいて、その決定を下すことだ。しかし、一般的に人はそのような種類の予測をすることは、あまり得意ではない。研究では、代理人が患者の終末期の意思決定を正確に予測する割合は68%程度であることが示されている。

意思決定自体も非常に悩ましいものになることがあると、ウェンドラー部長は付け加える。愛する人を支えたという満足感を感じる代理人もいれば、精神的な負担に苦しみ、その後数カ月間、あるいは数年間も罪悪感にさいなまれる代理人もいる。愛する人の人生を、早く終わらせすぎたと懸念する人もいる。また、不必要に苦しみを長引かせたのではないかと気にする人もいる。「多くの人々にとって、本当に良くないことです」と同部長は言う。「人々はこの決断を、これまでにしなければならなかった最悪のことの1つと言うでしょう」。

ウェンドラー部長は、代理人がそのような決断をするのを助ける方法に取り組んできた。10年以上前、同部長は、年齢、ジェンダー、保険加入状況などの特徴に基づいて患者の優先事項を予測するツールのアイデアを開発した。そのツールの基礎となるのが、一般的な集団から集めた調査結果で訓練されたコンピューター・アルゴリズムだった。大ざっぱに思えるかもしれないが、それらの特徴が人々の医療に関する感じ方に影響を与えているようだ。例えば、十代の若者は90歳の高齢者よりも積極的な治療を選ぶ可能性が高い。そして研究では、平均値に基づく予測は家族の推測よりも正確 …

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