この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
お金の話をするのは難しいことかもしれないが、気候テックを語るうえでは欠かせないものだ。
かつてメタで最高技術責任者(CTO)を務め、現在は気候テック分野の投資家として活動するマイク・シュローファーに本誌のジェームス・テンプル編集者が話を聞いて以来、私は気候イノベーションの財務面についてより深く考えるようになった。インタビューではシュローファーの慈善事業のほか、彼が設立した気候テック関連のベンチャー企業「ギガスケール・キャピタル(Gigascale Capital)」にも話が及んだ(こちらのインタビューを最後まで読むことをお勧めする)。
シュローファーはインタビューの中で、企業に投資する際には単に気候変動への取り組みを約束しているだけでなく、気候アクションに役立つ優れた製品を安価に実現する能力も大事だと語っている。
インタビューを読んだ後、新しい技術から財務面で何が期待できるか、考えさせられた。企業は競争のためにどんなことをする必要があるのか。また、どれだけ早くそれを実行できるのだろうか。
気候に特化したベンチャーキャピタル企業のポートフォリオを閲覧したり、気候テックの会議に参加したりすると、提案された技術の創造性や率直な聡明さに感銘を受けるだろう。
しかし、すばらしいアイデアだけでは競争に勝つことはできない。本誌のデビッド・ロットマン編集主幹が「スタートアップがクリーンテック1.0の失敗から学ぶべき6つの教訓」という記事で今世紀最初の気候テックブームから得られる6つの教訓を紹介しているが、そこでも指摘されている通りである。2006年頃から、数え切れないほどの企業が輝かしいアイデアとともにスターの座に上り詰めたが、2013年までに破綻したり、倒産したりしている。
ロットマン編集主幹も記している通り、その栄枯盛衰の物語から現在の気候テックブームの教訓が得られる。それは「新しい気候テックの多くのすばらしさは明白であり、私たちはそれらを切実に必要としている。だが、成功が約束されたものは1つもない。ベンチャーキャピタルの支援を受けるスタートアップ企業が生き残るために必要になるのは、善意ではなく、経済的・財務的な優位性である」というものだ。
新しい製品で気候変動に対処しようとする企業は、すでに確立された産業としばしば競合することになる。これらの新規参入組は、ビル・ゲイツが言うところの「グリーン・プレミアム」に取り組まなくてはならないのだ。
グリーン・プレミアムとは、汚染を悪化させる安価な製品と、気候面で利点がある高価な代替品とのコスト差のことだ。新しい技術を世間に広めるには、そのギャップを埋める必要がある。
グリーン・プレミアムに関する文章でゲイツが説明している通り、ギャップ解消のための方法は大きく2つに分けられる。汚染源となる製品のコストを増やすか、気候汚染がゼロもしくはほとんどない代替品のコストを削減するか、である。
2つ選択肢のうちの前者を追求している政策もある。例えば、欧州連合(EU)は炭素に価格を設定し、化石燃料ベースの製品のコストを上昇させている。だが、政策に依存した場合、米国のように市場の政治的な雰囲気に企業が流される可能性がある。
そうなると、もう1つの選択肢である「新技術のコストを削減する」が残る。
シュローファーがテンプル編集者との対話の中で説明している通り、ギガスケール・キャピタルの主眼の1つは、経済的に競争でき、その他の恩恵を顧客に提供できる企業を選ぶことにある。シュローファーの言う通り、企業は「皆さん、こちらの方がいい製品ですよ」と言った後に、(ヒソヒソ声で)「ところで、環境にもいいんです」と言うべきだろう。
シュローファーは、「企業が安くて優れた製品をすぐに開発すると想定することは現実的ではない」と認める。だが、彼のチームは、他社製品とコスト競争でき、さらにはコスト優位性を得られるレベルまで、およそ5~10年という比較的短いスパンで成長できる企業を探しているのだという。
現在競争力のある技術の例として、シュローファーはバッテリー(電池)や太陽エネルギーを挙げている。利用可能である場合には、太陽光パネルで作られた電気は地球上でもっとも安い。バッテリーは、わずか15年前に比べて90%も安くなっている。
だがここから、グリーン・プレミアムに関して注意すべき点が浮かび上がる。多くの新技術によって最終的にコスト差が解消されるだろうが、それが実現するタイミングは企業や投資家が待てる期間をはるかに超える可能性がある。太陽光パネルやリチウムイオン電池は1990年代には市販されていたが、価格が低下して普及するには現代まで待たなくてはならなかった。
私たちに時間や財力を割く意思があれば、誕生したばかりの技術の一部は「2040年代のバッテリーや太陽エネルギー」になる可能性がある。すでに、気候に優しい製品にはお金を出してもいいという事例がいくつか見られる。その理由の1つは、未来に対する希望だ。
個人的には低排出の鉄鋼製品が思い浮かぶ。化石燃料に頼らない鉄鋼生産に取り組んでいるスウェーデン企業のH2グリーン・スチール(H2 Green Steel)によると、化石燃料を使って生産された製品よりも20~30%高い価格を受け入れる顧客もいるという。しかし、それは現在の価格に過ぎない。これらの技術が2040~50年までにコスト競争できるようになると予測している報告書もある。
気候変動のために設計された新技術のほとんどには、市場で能力を証明する必要が生じるだろう。私たちには「そこに至る最大のチャンスを与えるためにどれだけの支援や時間を注ぐ意思があるのか」という問題が突きつけられる。
MITテクノロジーレビューの関連記事
メタの元CTOの気候への取り組みの詳細については、こちらのインタビューを最後まで読んで欲しい。氷河の安定化や海洋ベースの炭素除去、太陽地球工学など、知るべきことが満載だ。
第1次クリーンテックブームから企業が得られる教訓については、デビッド・ロットマン編集主幹が書いたこちらの記事を。
集光型太陽熱に米エネ省が資金提供
米国エネルギー省(DOE)が集光型太陽熱の9つのプロジェクトに3300万ドルを投じる。本誌のジェームス・テンプル編集者によるスクープだ。
集光型太陽熱では鏡を使って日光を集め、対象の素材を温める。新しい技術ではなく、DOEは実用化のために1970年代から投資してきた。食品・飲料から低炭素燃料に至るまでの産業で役に立つ可能性がある。記事はこちらから。
気候変動関連の最近の話題
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