ゲノムは設計図?プログラム? 生成AIにたとえる新しい考え方

How our genome is like a generative AI model ゲノムは設計図?プログラム? 生成AIにたとえる新しい考え方

ゲノムの働きについては、プロブラムや設計図のメタファーで説明されることが多い。だが最近、生成AIモデルのような、新しいモノをつくりだすことができるAIの一種と考える興味深い研究論文が発表された。 by Jessica Hamzelou2024.08.05

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ゲノムの働きとは、いったいどんなものだろう? ゲノムは生物個体の設計図だと聞いたことがあるかもしれない。あるいはレシピのようなものだと。だが、生物個体をつくるのは、家を建てたりケーキを焼いたりするよりも、はるかに複雑だ。

先日、私はゲノムについての新しい考え方に出会った。そこでは、人工知能(AI)の分野からアイデアを借用している。2人の研究者によれば、私たちはゲノムを生成AIモデルのような、新しいモノをつくりだすことができるAIの一種と考えるべきだという。

生成AIツールはもはやおなじみだろう。いくつかのプロンプト(指示テキスト)から、文章画像、さらには映像さえ生み出せるツールだ。私たちのゲノムは本当にこれと同じようにはたらくのだろうか? 魅力的なアイデアだ。詳しく見ていこう。

私は学校で、ゲノムとは要するに生物個体をつくるコードだと教わった。そこには私たちの細胞や組織を構成し、正常に機能させるのに欠かせない、さまざまなタンパク質をつくるのに必要な指示が含まれている。ヒトゲノムは人間をつくるプログラムのようなものという説明は、私にはしっくりきた。

しかし、このメタファーは詳しく見ていくとボロが出ると、神経遺伝学者のケヴィン・ミッチェル准教授は指摘する。アイルランドのダブリンにあるトリニティ・カレッジに所属するミッチェル准教授は、長年にわたりゲノムの働きを研究してきた。

コンピューター・プログラムは本質的に、順序が定められた一連のステップであり、各ステップが特定の部分の形成をコントロールしている。これをヒトにあてはめると、最初の脳のつくりかた、次に頭、その次は首といった形で、指示がまとめられているようなものだ。だが、ゲノムはこんなふうには機能しない。

別のよく聞くメタファーとして、ゲノムは体の設計図、というものもある。だが、設計図とは要するに、ある構造物が完成時にどんな見た目であるべきかを定めた計画だ。図のどの部分も、完成品の一部を表している。これもやはり、ヒトゲノムの働きとは大きく異なる。

なぜなら、ひじの遺伝子、眉毛の遺伝子といったものはないからだ。どの遺伝子も複数の部位の形成に関わり、またどの部位の形成にも複数の遺伝子が関わっている。遺伝子の機能には重複があり、発生段階のいつ、どこで活性化するかによって、同じ遺伝子が異なる働きをすることもある。設計図よりもはるかに複雑なのだ。

もうひとつ、レシピのメタファーもある。これはある意味で、設計図やプログラムのたとえよりも正確だ。私たちの遺伝子は総体として、材料と作業に関する指示の集まりであると考え、またそれに基づく最終産物は、たとえばオーブンの温度や焼き皿の形といった要素の影響も受けることを頭においておくことには、メリットがあるだろう。一卵性双生児は同じDNAを持って生まれるが、大人になる頃にはふつう、まったくの別人に成長している。

だが、レシピのメタファーもまた曖昧すぎると、ミッチェル准教授は言う。同准教授と、共同研究者でバーモント大学に所属するニック・チェイニー准教授は、AIの分野から借用した概念のほうが、ゲノムの働きの理解に役立つと考えている。ミッチェル准教授が想定するのは、ミッドジャーニー(Midjourney)やダリー(DALL-E)のような、プロンプト(指示テキスト)に基づいて画像を生み出す生成Aモデルだ。これらのモデルは、既存の画像から要素を抽出し、新規に画像をつくりだす。

たとえば、馬の画像を生み出すプロンプトを書いたとしよう。モデルは膨大な数の馬の画像をもとに訓練され、これらの画像を圧縮して、いわば「馬らしさ」を構成する特定要素を抽出する。その後、AIはこうした要素を含む新規画像を生成する。

遺伝データについても、同じように考えることができる。このモデルでは、進化を訓練データとみなす。ゲノムは圧縮データ、すなわち新たな生物個体をつくるのに用いられる一連の情報だ。そこには必須要素が含まれる一方、ばらつきが生じる余地はきわめて大きい(このモデルのその他のさまざまな側面については論文に詳述されている。なお、この論文はまだ査読を受けていない)。

ゲノムについて考えるときには、適切なメタファーを用いることが重要だと、ミッチェル准教授は考える。新たなテクノロジーにより、科学者たちは遺伝子とその機能に、かつてないほど肉薄している。たとえば、いまやひとつの細胞のなかですべての遺伝子の発現状況を調べ、また胚を構成するすべての細胞を対象に、発現レベルのばらつきを調べることが可能になった。

「現象を理解するのに役立つ概念的枠組みが必要なのです」と、ミッチェル准教授は言う。こうした概念が数理モデルを開発するのに役立ち、遺伝子とその最終産物である生物個体の込み入った関係、すなわちゲノムの各構成要素がヒトの発生に具体的にどのような貢献をしているのかについて、理解が深まることを、同准教授は願っている。

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メリッサ記者はまた、生成AIを使って画像を生成するのにどれだけエネルギーを消費するのかについての記事も手掛けた。スマートフォンの充電と同じくらい、というのが答えだ。

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