日本人が知らない中国製LLMを日本から試す方法
中国製の大規模言語モデル(LLM)が多数リリースされているが、中国国外では利用できないことが多い。ただし、一部のモデルは国外からも利用可能だ。中国製LLMを試す方法を紹介しよう。 by Zeyi Yang2024.07.30
- この記事の3つのポイント
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- 中国政府がLLMの一般公開を許可して以来、大量の中国製LLMが登場
- 言語や登録要件の壁はあるものの英語でのチャットが可能なモデルも存在
- 一部のチャットボットは中国国外からも利用できる
中国政府が2023年夏、人工知能(AI)企業に対し、大規模言語モデル(LLM)を一般ユーザー向けに公開することを許可して以来、何百種類もの中国製LLMがリリースされている。
欧米のユーザーにとって、中国のLLMを見つけて試すことは困難に感じるかもしれない。言語の壁や登録要件によるものだが、実際のところ、有効な中国の電話番号を持っていない場合、越えなければならないハードルがある。
ただ、多くのチャットボットは英語での会話をサポートしており、驚くほど簡単にアクセスできる。単にチャットボットの性能に興味がある場合でも、仕事のためにより本格的な実験をしたい場合でも、中国のLLMを搭載したチャットボットにアクセスする方法はたくさんある。
この記事では、誰もが数分で試せる方法を紹介しよう。
中国国内の携帯電話番号を持っている場合
手始めに、中国国内の携帯電話番号を持っていれば、ここで紹介するどのモデルにも、ほとんど問題なくアクセスできる。中国では、中国国内の電話番号が本人確認に使われることが多く、それさえあればAIチャットボットを含め、ほとんどのネットサービスにもアクセスできる。モデルのWebサイトにアクセスし、その電話番号を使ってアカウントを登録するだけだ。
本誌が確認したところ、ファーウェイ(Huawei)、サイバーセキュリティ企業の360、中国科学院が開発したモデルなど、いくつかの主要な中国製LLMは、中国国内の携帯電話番号がなければアクセスできないことが分かった。残念ながら、国外在住者が中国国内の電話番号を取得するのはほぼ不可能だ。しかし、幸いなことに他にも試す方法はある。
中国の電話番号なしでもアクセス可能
一部の中国のAIプラットフォームは、中国国外のユーザーでもチャットボットに直接アクセスできるようにしている。必要なのは、携帯電話番号を登録し、SMSで送られてくる認証コードを入力するだけだ。
このようなチャットボットには、テキストや画像を生成したり、インターネット検索をしたり、アップロードした文書の要約を作成したりできるバイトダンス(ByteDance)製のAI「ドウバオ(Doubao)」が含まれる。新たに登場した中国のAIユニコーン企業、ジープー(智譜)が開発したマルチモーダルツール「チャットGLM(ChatGLM)」も同様の一連の機能を提供し、中国以外の電話番号でも利用できる。
最後に、ディープシーク(深度求索:DeepSeek)は創業からまだ1年しか経っていないAI企業だが、業界ではそのモデルの安さで知られている(カジュアル・ユーザーは無料で利用できるが、ビジネス・ユーザーの利用料は100万トークンあたり0.14ドル、オープンAI(OpenAI)の同様のモデル「GPT4-Turbo」の利用料は100万トークンあたり10ドル)。メールアドレスで登録すれば、ディープシークのWebサイトでテキスト・チャットボットとコーディング・チャットボットを簡単に試せる。
ハギング・フェイス
米国企業の「ハギング・フェイス(Hugging Face)」は、おそらく現在最大のグローバルAIコミュニティを運営しており、AIのギットハブ(GitHub)のような役割を果たしている。多くのオープンソースLLMがハギング・フェイスのWebサイトにコードやアプリケーションを載せている。
中国企業も例外ではない。AI開発者が利用できるよう、ハギング・フェイスでコードを共有している中国企業がいくつかある。また、テクノロジーに詳しくない人でも、自分でコードを書くことなくすぐにモデルにアクセスできるよう、Webサイト上にデモを用意している企業もある。ハギング・フェイスは登録に中国の電話番号を必要としないため、多くの中国のモデルをテストするための代替手段となる。
最も注目すべきは、アリババ製LLM「クウェン(Qwen)」だ。クウェンは最近、ハギング・フェイスのオープンLLMリーダーボード(異なるLLMの結果を比較し、その品質を評価するランキング)でトップに立った。クウェンは、メタ、マイクロソフト、その他の中国の同業他社のモデルを上回った。このリンク先にあるクウェン2.0バージョンで簡単にテキストベースの会話が試せる。
ハギング・フェイスには、中国の巨大テック企業であるテンセント(Tencent)もAIモデルをアップロードしている。「フンユアンDiT(Hunyuan-DiT、混元)」と呼ばれるこのモデルは、テキスト・プロンプトに基づいて画像を生成できる。しかし、フンユアンを基盤とする他のモデルは、ハギング・フェイスでアクセスすることはできない。
「イー(Yi)」は、台湾の有名なAI投資家である李開復(リー・カイフー)が創業した企業、01.AI(零一万物)のモデルだ。01.AIはイーのチャットボット版(現在はダウンしているようだ)と、画像を分析して理解できる別のAIツールをハギング・フェイスに公開している。前述のスタートアップ、ディープシークは同様のビジュアル分析ツールを同社のプラットフォームに載せている。
モデルスコープ
2022年11月、アリババは「モデルスコープ(ModelScope)」というプラットフォームをリリースした。これは、中国のAIコミュニティが集まり、ユーザーはオープンソースのモデルにアクセスし、(AIモデルや関連する)取引について議論できる中国版ハギング・フェイスのようなものだ。
また、モデルスコープは中国以外の電話番号でも登録できるため、中国のLLMにアクセスするためのもう1つの有効な代替手段として機能する。アリババの支援を受けた話題のAIスタートアップ、バイチュアンチヌン(百川智能)など、数社の中国企業がモデルスコープで自社のモデルを公開しており、誰でもテストできるようになっている。
しかし、このプラットフォームで最も有用なのは、さまざまなモデルの評価に取り組む上海のAIラボ、オープン・コンパス(Open Compass)が開発した「LLMアリーナ(LLM Arena)」アプリケーションだ。LLMアリーナは、その名が示すように、ユーザーが2つのモデルを対決させて、同じプロンプトにどう反応するかを直接比較できる。便利なことに、このアプリケーションは11の中国製モデルを統合しているため、他の方法では中国人以外のユーザーは利用できないいくつかのAIツールに簡単にアクセスできる。
上記の中国製モデル以外にも、LLMアリーナはバイドゥ(百度)の「アーニー・ボット(Ernie Bot)」やアイフライテック(iFlytek)の「スパーク(Spark)」のほか、「ミニマックス(Minimax)」「ムーンショット(Moonshot)」「インターンLM(InternLM)」など、中国のAI業界の主要LLMモデルの回答も生成できる。今のところ、モデル自体にマルチモーダル機能が搭載されていても、この方法で写真を生成したり、写真をモデルにアップロードしたりすることはできない。しかし、中国のモデルだけでなく、「ラマ(Llama)3」やカナダのAI企業コーヒア(Cohere)の「コマンドR+(Command R+)」のようないくつかの欧米のモデルによって生成されたテキストを比較するには、非常に便利なツールのようだ。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。