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グーグルの「後退」は前進? 気候対策で問われる実質ゼロの中身
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Companies need to stop taking the easy way out on climate goals

グーグルの「後退」は前進? 気候対策で問われる実質ゼロの中身

二酸化炭素削減量を「クレジット」として購入し、書類上で自社の排出量を「実質ゼロ」と宣言する企業は少なくない。グーグルが「実質ゼロ」の看板を下ろした背景には、企業が何に資金を投じるべきか、気候対策の中身を問う新たな潮流がある。 by Casey Crownhart2024.07.30

この記事の3つのポイント
  1. 企業の気候対策には実効性に疑問があるものが多い
  2. 排出量実質ゼロを達成したとの主張は信頼性に欠ける
  3. 企業は排出量削減の具体的な取り組みに投資すべきだ
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

気候に関して企業が訴える主張には、混乱させられるものもある。直感的に受け入れることがまったくできないものさえある。

テック大手のアマゾンとグーグルは最近、気候への悪影響を排除することを目的とした、自社の取り組みを発表した。どちらの取り組みも効果を期待できそうなものと、見込みがなさそうなものの寄せ集めに見えたが、私はそのうちの1つに特に関心を持った。グーグルが排出する二酸化炭素量が増加しており、同社は「実質ゼロ」(この用語についてはすぐに詳しく掘り下げる)であるという主張をやめたのだ。ひどい話に聞こえるだろう。しかし実際のところ、グーグルのこの明らかな後戻りは、気候対策の現実的な進歩を表していると言えるかもしれない

本誌のジェームズ・テンプル編集者は新たな解説記事を執筆するため、最近のアマゾンの発表に合わせてグーグルのニュースについても詳しく調べた。テンプル編集者が見出したことを少し紹介し、企業の気候変動への取り組みが理解に苦しむものになってしまうことがあるのはなぜなのか、解説していこう。

最近の一連の発表を理解するために把握しておくべき最も重要な言葉は、「排出量実質ゼロ(ネットゼロ・エミッション)」である。

企業は、製品の製造や輸送、あるいは単なる電力消費などの活動で、温室効果ガスを吐き出している。一部の企業経営者たちは、自社の活動が気候変動問題及ぼす影響を小さくしようと考え(あるいは自社の進歩を自慢したいがために)、排出量を減らしたいと考えているだろう。排出量実質ゼロとは、企業が排出する二酸化炭素の量を、二酸化炭素削減量で相殺できるということを指す。しかし排出量実質ゼロを宣言するには、非常に多種多様な道筋が考えられる。

二酸化炭素排出量をゼロにするには、事業活動で発生する二酸化炭素を減らす措置を実行すればよい。例えばアマゾンが、配送トラックを電気自動車(EV)に置き換えたり、倉庫に太陽光パネルを設置したりするようなことを想像してほしい。

このような排出量削減に向けた直接的な行動の多くは、実行が困難で、費用がかさむ。また、世界経済の大部分がいまだに化石燃料に依存している現状を考えると、今すぐすべての排出量を完全にゼロにすることは、世界中のどんな企業でもおそらく不可能だろう。そこで多くの企業は、実質ゼロ達成のために、数式を利用して排出量を消し込むことを選択している。

企業は炭素クレジットや再生可能エネルギー・クレジットを購入することがある。誰かにお金を支払うことで、自社の活動による気候への影響を埋め合わせするわけだ。具体的には、非営利団体に資金を与えて炭素を吸収・貯留する樹木を植えさせたり、開発業者に資金を提供して、その結果としてより多くの再生可能エネルギー・プロジェクトが建つ予定だと主張したりする行為が含まれる。

すべてのクレジットが悪いわけではない。しかし、カーボン・オフセットや再生可能エネルギー・クレジットは、裏付けがほとんどないまま大げさな主張をしていることが多い。また、もし企業がビジネスのために実質ゼロのラベルを求めているのであれば、実際には効果が怪しいものであっても、安価なクレジットを購入しようとするかもしれない。

テンプル編集者が記事で書いているように、「企業の持続可能性責任者は、現実世界で排出量を削減する最も信頼できる方法よりも、書類上で企業の汚染を取り除く最も手早くて安価な方法を追求することが多い」

このような問題があるため、私は排出量実質ゼロや100%再生可能エネルギーをすでに達成したと主張している企業を疑ってかかる傾向がある。二酸化炭素排出量を一掃することは難しい。もしあなたが、すでに実現したと主張しているなら、安易な道を選んでいる可能性が高いと思ってしまうのだ。

グーグルのニュースにも同じことが言える。グーグルは2007年以来、排出量実質ゼロで事業を運営していると主張してきた。しかし今はもう、そのような主張はしていない。事業運営のやり方を突然大きく後退させたからではない。カーボン・オフセットの大規模な購入をやめたのだ。その代わりにグーグルは、排出量削減に取り組むほかの方法に資金を振り向けている。

では、気候対策に大きな影響をもたらそうと考える大企業は、次にどのような手を打ってくるのだろうか?この疑問にもまたテンプル編集者が私たちに手がかりを与えてくれている。2022年の記事で、気候目標を再考しようとする企業が取りうる、6つの方法を挙げた。

企業はクレジットを買い漁るのをやめて、その資金を恒久的な二酸化炭素除去への投資に回せる。汚染を大気中から除去し、封じ込める手法を、それもより信頼性の高いものを開発するには、多額の資金がかかるだろう。しかしそのような取り組みに投資することが、除去と封じ込めの市場の成熟を助け、公約が求められている企業を支援することになる。

企業は、脱炭素化が難しい分野のために研究開発資金を提供することもできる。航空、海運、鉄鋼、セメントなどである。このような業界は基本的にすべての産業と関わりを持っている。その進歩を支援することは、価値のあるお金の使い方になるだろう。

ごちゃごちゃとした一連のニュースの中に1つ覚えておくべき重要なことがあるとすれば、大企業の主張に対してもっと質問を投げかけ、もう少し深く掘り下げることかもしれない。覚えておいてほしい。うますぎるように聞こえる話は、だいたいその通りなのだ。

MITテクノロジーレビューの関連記事

アマゾンの再生可能エネルギーに関する主張が見た目よりも複雑かもしれない理由など、本誌の最新記事で巨大テック企業の気候対策についてもっと詳しく知ることができる。

排出量実質ゼロの気候計画を再考するための6つの方法については、2022年に掲載した記事を参照してほしい。

カーボン・オフセットという気候問題の「解決策」らしきものが、大気中に何百万トンもの二酸化炭素をさらに放出しているかもしれない。詳しくは、深く掘り下げた記事を2021年に掲載している。


気候変動関連の最近の話題

  • 米国のEV市場には今年、いろいろなニュースがあった。販売台数は伸びているが、一部の自動車メーカーでは納車が滞っている。注目すべきニュースもある。テスラはこれまでEV市場を圧倒してきたが、その市場シェアが初めて50%を下回った。(インサイド・クライメート・ニュース
  • 湿気対策に役立つ新素材により、エアコンの効率が大幅に改善するかもしれない。新開発の乾燥材を利用して開発した実機を市場に出そうとしている企業がいくつか存在している。(ワイアード
    → 昨年、そのような吸湿性素材が酷暑対策に役立つ可能性ついて記事を書いた。(MITテクノロジーレビュー
  • 車両の製造から運用、そして廃棄に至るまでの間に排出する二酸化炭素の合計量は、ガソリン車よりもEVの方が少ないと思われているが、そうはいかない。バッテリー製造時に気候にかかる負担が大きな理由だ。この記事は、ガソリン車よりも排出量を少なくするには、EVでどの程度の距離を走る必要があるかを推定する計算機を掲載している。米国科学アカデミー紀要
  • 原子力スタートアップのコモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)は現在、ハイテク磁石を販売している。同社は、核融合炉の実現に向けた挑戦も続けている。(テッククランチ
  • EVは近い将来、ガソリンタンクを搭載することになるかもしれない。一部の自動車メーカーが、ガソリン発電機を搭載したEVを製造しているからだ。プラグイン・ハイブリッド車との違いは説明しにくいが、基本的には内部構造がよりシンプルになる。この仕組みは、EVを選ぶドライバーを増やすのに役立つ可能性がある。(ヒートマップ・ニュース
  • 水素燃料電池だけで航行する新しいフェリーが、サンフランシスコで就航した。商用旅客フェリーとしては世界初となる。課題の1つは、水素供給源の確保になるかもしれない。製造時に二酸化炭素をほとんど排出しない水素を供給してくれる信頼できる業者を見つける必要がある。(カナリー・メディア
  • 気候変動による影響の中でも、奇妙な類いに分類すべきだろう。地球の氷床が溶けることで、一日が長くなっているのだ。グリーンランドと南極の氷が減少すると、地球の横幅が広くなり、自転が遅くなる。100年にわずか1ミリ秒程度ではあるが、精密な時間管理を狂わせるには十分かもしれない。(ガーディアン紙
  • 水素燃料の税額控除に関する規則は、気候対策に役立つプロジェクトに資金が確実に回るようにするために提案された。今、その規則のために厄介な事態を迎えているようだ。(ヒートマップ・ニュース
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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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