「手作業が早い」食品工場でもロボット化、盛り付け完璧に
ロボットはさまざまな工場で導入されているが、加工食品の工場ではこれまでなかなか導入が進んでいなかった。扱い方が異なる多種多様な材料を使っているため、柔軟に対応できる人間のほうが手っ取り早いからだ。だが、AIの進歩によってその状況も変わりつつある。 by James O'Donnell2024.07.18
- この記事の3つのポイント
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- AIを搭載したロボットアームが加工食品の製造に導入され始めている
- ロボットは人間と同等以上の性能を発揮し人件費削減に貢献
- 今後数年で学習型ロボットを導入する企業が増加すると予想される
人工知能(AI)の進歩による成果が、あなたの家の冷蔵庫にやって来ている。ロボットが仕上げた加工食品がそれだ。
サンフランシスコに本拠を置くスタートアップ企業シェフ・ロボティクス(Chef Robotics)は、ティッカマサラ(鶏肉をカレーソースで煮込んだインド料理)からペストトルテリーニ(バジルソースを使ったパスタの一種)まで、どんな料理でも正確な分量で提供できるようにさまざまなレシピを素早く設定できるAI搭載ロボットアームのシステムを発売した。同社は、サンフランシスコのベイエリアに拠点を置く加工食品大手エイミーズ・キッチン(Amy’s Kitchen)などとの実験を経て、今回開発したシステムの価値を証明し、ほかの加工食品メーカーの生産施設へと大規模に導入を進めているという。米国やカナダに拠点を置く新規顧客にも提供しているという。
食料品店の売り場に並ぶ冷凍食品や、スターバックスの店頭に並ぶ食料品、そして飛行機の機内食は、すでにロボットが袋詰めするようになっていると思うかもしれないが、実際にはそのような例はあまりない。ほとんどの場合、ロボットよりも人間の作業員の方がはるかに柔軟に対応できるため、レシピを頻繁に変更する生産ラインには人間の作業員の方が向いている。さらに、米や、細かく千切りにしたチーズなどの材料は、ロボットアームには扱いが難しく、正しい分量で盛り付けることが困難なのだ。その結果、有名ブランドの加工食品の大半は、いまだに多くが手作業で袋詰めされている。
しかし、AIの進歩によって状況は変わり、生産ラインに並ぶロボットがより有用なものになったと、エイミーズ・キッチンのエンジニアリング部長であるデイヴィッド・グリエゴは語る。
「シリコンバレー企業が参入してくる前、この業界は、『よし、ロボットにはこの部分とこの部分をやらせるようにプログラムを作ろう』という状況でした」と、グリエゴ部長は語る。非常に多くの種類の食品を提供している加工食品メーカーにとって、ロボットはあまり役に立たなかった。しかし今や、グリエゴ部長が生産ラインで活用できるようになったロボットは、エンドウ豆のすくい方とカリフラワーのすくい方の違いを学習し、次にすくうときはより正確にすくうことができる。「私たちが扱う様々な種類の原材料すべてにロボットが適応できるというのは驚くべきことです」。グリエゴ部長は語る。加工食品を袋詰めするロボットは突然、投資に見合う設備になった。
シェフ・ロボティクスは、今回開発したシステムを販売せず、顧客から年間の使用料を受け取るサービスモデルを採用している。顧客が払う使用料には、システムのメンテナンスにかかる費用や、システム利用者向けのトレーニング費用も入っている。エイミーズ・キッチンは現在、8台のシステム(それぞれのシステムにはロボットアームが2つずつ付いている)を導入し、2カ所の工場に配置している。導入したシステムは、今では1つで作業員2〜4人分の仕事をこなせる(袋詰めする材料にもよる)と、グリエゴ部長は語る。ロボットは人間よりも均一な量で袋詰めができるため、無駄の削減にもなる。 1本のロボットアームが付いたシステムにかかるコストは、年間でだいたい13万5000ドル未満だと、シェフ・ロボティクスの最高経営責任者(CEO)であるラジャット・バゲリアは説明する。
今回導入したシステムの利点を念頭に置いて、グリエゴ部長は、食品パッケージ工程をどんどんロボットに担当させようと思い描いている。「人間がすべきことを、システムを動作させることだけにするという構想を抱いています」とグリエゴ部長は言う。人間の仕事は、原材料のタンクが満杯で、包装資材が充分に残っていることを確認するだけで、あとはすべてロボットがやってくれるという構想だ。
ロボットシェフは近年、AIの力を借りてさらに腕を上げてきている。ハンバーガーを裏返したり、ナゲットを揚げたりするロボットが、レストランのコスト削減に貢献すると喧伝している企業もある。しかし、このようなテクノロジーの多くは、今のところレストラン業界ではほとんど採用されていないと、バゲリアCEOは言う。ファストフードレストランでは厨房を担当するコックが1人いれば済むことが多いからだ。このようなレストランにロボットを導入しても、監視のための人員が必要になるのなら、たった1人で厨房を担当しているコックを完全に代替することなどできない。こうなるとロボットを使う意味など、ほとんどなくなってしまう。しかし、加工食品メーカーは、盛り付けと仕上げという、人件費が大きくかかる工程を抱えており、人件費を削減したいと願っている。
「これは、顧客企業にとって最も費用対効果の高いものになるでしょう」と、バゲリアCEOは語る。
より柔軟に対応できるロボットがあれば、さまざまな業界が新たに大量に導入しても驚くべきことではないと、ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所で汎用ロボット工学・AI研究室を運営するレレル・ピント助教授は語る(同助教授シェフ・ロボティクスやエイミーズ・キッチンには関係していない)。
「現実世界に配備されているロボットの多くは、同じことを何度も繰り返すような、非常に反復的な形で利用されています」とピント助教授は語る。ここ数年で深層学習によるパラダイムシフトが起こった。その結果、より汎用的な能力を持つロボットが実現可能であり、ロボットをより普及させるにはそのようなロボットが必要だと考える関係者が増えた。修理や利用者向けのトレーニングのために何度も停止させることなく、シェフ・ロボティクスのロボットが能力を発揮できれば、加工食品会社は原材料を節約でき、人間の労働力の使い方も変わる可能性があると、ピント助教授は語る。「今後数年間でさらに多くの企業が、この種の学習型ロボットを実際に導入しようと動くでしょう」。
エイミーズ・キッチンのグリエゴ部長は、ロボットを導入したことで新たな課題も生まれたという。そのうちの1つが、ロボットが仕上げた料理をいかに手作業で袋詰めしたような見た目に仕上げるのかというものだ。エイミーズ・キッチンのチーズエンチラーダ(肉や魚や野菜をトルティーヤで巻いて焼き上げるメキシコ料理)は特に問題を引き起こしていた。この商品の製造では、最後に手作業でチェダーチーズを振りかけるのだが、エイミーズ・キッチンの品質検査員たちから、ロボットが袋詰めした商品のチーズはいかにも機械が振りかけたように見えると言われ、グリエゴ部長は考え直さなければならなくなった。
「初めの数回のテストはかなり上手くいきました」と、グリエゴ部長は語る。いくつかの点を変更すれば、ロボットの入れ替え準備は整う。エイミーズ・キッチンは自社の施設に追加のロボットを導入し、増え続ける食材リストを学習させる予定だ。ロボットが袋詰めした冷凍食品を、あなたが購入する可能性がさらに高まるというわけだ。
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- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。